雪村


雪村はいつも文句も言わず仕事を淡々とこなしていく。
綾瀬のように出勤するのが憂鬱というわけでもなく、桐生のように勤務中さぼることはない。
しかし唯一、出勤したくない日があった。
「長谷さんって、結婚記念日は絶対休み取って奥さんと旅行に行くんだ」
雪村のぼんやりとした呟きに、柊はへぇ、と感心した。
「愛妻家なんですね」
柊の空気の読めない言葉に他の処理課員は慌て、小さな声で非難したが、雪村はどうでもよさそうに、机に頭を置いた。
「そうなんだよ。素敵な人だろ、」
雪村の九十度に傾いた視界の前にある処理課の扉が音を立てて勢いよく開いた。
「雪村ちゃん、処理頼んでもいいかな」
雪村にとって、顔は知ってるけど名前はわからない、そんな社員がやって来た。
「……、はい」
雪村は席から立ち上がり、社員の方へ歩いていく。
「結婚記念日って、今日なの?」
雪村に聞こえないように、柊が隣にいる真木に尋ねた。
「そうだよ。いい夫婦の日」
「そう」
雪村の寂しい背中を、真木たちは静かに見送った。


「あの、僕何もしなくていいんですか?」
仮眠室のベッドに寝かされた雪村は、ワイシャツを脱がされてずっと愛撫されていた。
「なにも俺に奉仕することだけが処理ってわけじゃないだろ。触らせてよ」
名も知らぬ社員はそう言って雪村の乳首を指で摘まんだ。
「ん…っ」
じっくり自分だけを触られるというのは、雪村にとってはあまりないことだった。
器量の良い雪村には、皆奉仕性を求めるのだ。
「ぁ……はっ、」
雪村はこの社員のやり方に心地良さを感じていた。我慢できる声もそのまま出す。
長谷のことがあるせいか、今日は誰かに大切にされたいと雪村は心のどこかで思っているのだ。
社員は雪村の乳首を唇で噛みながら、腰の辺りをそっと撫でる。
「んぁ…」
「気持ちいい?」
「ん……」
「勃ってる」
体中を愛撫され続けられた雪村は、ペニスを勃たせていた。
社員は雪村のペニスを掴むと上下に擦りだした。
「あっ、だめです…、処理、しないと…っ」
社員に一切触れていないのに、このまま自分だけがイかされそうなことに雪村は焦った。
しかし社員は「いいから」の一言で、擦ることをやめない。
「んん…、はぁ…、ぁ、ん…ぁっ、ぁっ」
くちくちと擦られている音がする。
雪村は恥ずかしくなった。まるで自分が処理をされている気分だった。
「すごいね、ここ。ヒクヒクしてる」
社員は雪村のアナルを指でつついた。
「朝は自分で広げてるの?」
雪村は頷いた。
社員が雪村に笑顔を向ける。
「ちゃんと言葉で言ってよ」
雪村は社員のことをじっと見た。
社員が一体どういう形で性欲処理をしたいのかを読み取る。
「…自分でお尻の穴を弄って、広げてます…」
「どうやってるの?」
社員の手は休むことなく、そのまま質問を続ける。
「んっ、あの…ゆ、指を舐めて濡らしてから、お尻の穴に挿れて掻き回して…っ、そ、れから、ローターで…っ、広げてます…っ」
「イったりしないの?」
「あっ、ん、ぎり、ぎりで、やめるから…っ」
雪村は涙目で社員を見つめる。
「じゃあイきたくてしょうがないね」
社員はそう言って、雪村のペニスの先をくりくり弄りながら、ほぐしてあるアナルへ指を挿入した。
両方を弄られて雪村のペニスからはどんどん我慢汁が溢れ出した。
「あっあっ、はぁんっ、ぁっぁっあっ」
「すごい濡れてる。気持ちいい?零れそう」
ペニスの先から裏筋へ伝い垂れていく我慢汁を、社員は長い舌でれろっと舐めとった。
「あんっ!あっあぅんっぁっぁっ!」
とろとろのアナルに遠慮なく社員は指を抜き差しする。
雪村は自分でアナルの周りがびちゃびちゃに濡れているのがわかった。
「ひっあっあんっだめぇ…あっあっイッちゃいそう…っ」
「イッていいよ、雪村ちゃん」
社員はそう言って、二本の指で雪村の前立腺をぐりぐり刺激した。
「ひんっ!あっ!あっ!イッちゃ…っあんっイッちゃうぅ…っ!」
雪村は体を痙攣させながら射精した。
昨日も散々仕事をして精液は出し尽くしたかと思ったが、やはり朝一番にはちゃんと精液が出る。
乱れる息を整えている雪村の前で、社員はネクタイを外した。それからどんどん脱いでいき、裸になる。
ずっと雪村を愛でていた社員のペニスはがちがちに勃起していた。
「…っ、」
雪村は社員のペニスの大きさに驚いた。
長さも太さも逞しい。巨根と皆が周知している長谷よりも大きかった。
「雪村ちゃんがエロいから、こんなになっちゃった。…どうしてもらおうかな?」
社員は考える。
そして雪村に、「どうしたい?」と尋ねた。
処理の仕方を、どうしたいかなどもちろん聞かれたことはなかった。
しゃぶって。挿れさせて。そう頼まれて、相手の好きなように対応する。
むしろそれが普通なのだ。これはセックスではなく性欲処理なのだから。
オナニーに使われる道具と同じ役目なのだから。
しかしこの社員は、雪村に判断を求める。
どうしたい?
社員に言われて、雪村は目の前のペニスを見つめた。
心臓がドクドクうるさい。雪村は少し震えた唇を薄く開いた。
「…挿れたいです…」

長谷以外に強請ったのは初めてだった。
無理矢理言わされたことはあっても、自分の意思で言うことはない。
しかし今回は本当に欲しいと思ったのだ。
社員は雪村の上に覆い被さって、立派なペニスを雪村のアナルに擦りつけた。
「ん、んっ、」
ゆっくり社員のペニスが入ってくる。
すんなりとはいかないが、しっかり慣らされている上に普段からペニスの抜き差しをされている雪村はあまり痛みを感じなかった。
「ん、ぁ……はっ」
力を抜いてゆっくり息をする。
徐々にペニスが入り込んでくる。
「…今、どれくらい入ってると思う?」
社員は雪村の目をじっと見つめて質問した。
もう随分中を圧迫されている。
「…きゅ、わり、くらい…」
社員は口の端を上げて笑う。
「残念、あと二割」
「いっ!あぁ…っ!」
社員のペニスは驚くほど長かった。
これ以上挿入されたことないところまで、挿入される勢いだ。
社員は雪村の脚を大きく開かせて、膝裏を支えている手を前に倒した。
「ぁっ、やぁ…っ、そんなとこ、までぇ…っ」
「ん、は…っ、全部、入ったよ」
雪村の呼吸の仕方がおかしくなる。
社員は雪村の前髪を優しく掻き上げた。
額が汗ばんでいる。
「大丈夫?息、ととのえて」
「は、っ、ぁ、はぁ…っ、す、いませ…、ひ、ん…っ」
今まで何人ものペニスをハメてきたが、こんなにも奥に入り込んできたのは初めてだった。
また太さもあり、圧迫感もすごかった。
雪村は必死で息をととのえ、力を抜く努力をする。
「だ、いじょ、ぶ、です…っ、はぁ、ん、動いてください…っ」
社員は雪村の言葉に微笑みながら、じゃあ、と小さく言って腰を引いた。
「んはぁ…っ!」
ヌルルッとペニスが抜けていき、その感覚に雪村は震えた。
そのまま腸が引きずり出されるのでは…、そう心配になるくらい雪村のアナルの中からズリュズリュ出て行く。
そして全てが抜けきる前に、その太くて長いペニスが勢いよく戻り、奥の奥を突き上げる。
「あっ!はぁっ!」
衝撃に目が開く。
こんなところまで異物を挿れていいのか、そんな心配までしてしまう。
しかし確実に快感は、とめどなく感じる。
「ひっ、あっあっ!」
抜けては奥をガンガン攻められ、雪村はひんひん鳴きながら揺さぶられる。
「あはっあっあんっ奥っ奥すごいぃっあんっあんっ」
「雪村ちゃんの中もすごく気持ちいいよ」
吐息まじりに呟かれた言葉に、雪村は色っぽさを感じてドキドキした。
「ひぁあっ!あっあんんっぁぁっあぁんっ」
雪村は、大切に扱われると、すごく緊張してしまうのだ。まるで抱かれているような、そんな錯覚をしてしまう。
「んひっひっあっあんっ!そんな、あぁんっとこまでっあっあっキちゃだめぇっあっあぁんっ」
脳裏に焼き付いた社員の逞しいペニス。
それが今自分の中を掻き回しているかと思うと、雪村は熱い気持ちになった。
「可愛い。…ここはどう?」
抜かれたペニスが、角度を変えて前立腺にごりごり当たる。
「あんっあっあっ!あっそこっそこもいぃんっあぁっあっそこっそこぉっ」
雪村の体がびくんっびくんっと跳ねる。
快感が体中を駆け巡る。
「あぁあんっあひっあひっひんっひぁっあぁんっ」
社員は身悶える雪村のペニスに触れた。
擦るときゅっと中がきつく締まる。
「はっ、すごい、雪村ちゃん」
「あぁっ!あぁんっ!おちんちんだめぇっあぁんっ!あぁんっ!」
雪村がシーツをぎゅっと握る。
シーツの皺の張り具合が、社員に雪村が今どれだけ感じているかを教えている。
「どっちのおちんちんがだめなの?」
「はっぁっ、どっちもぉ…っ!どっちもしちゃだめぇ…!あひっあひっひぃんっあぁっあぁんっ」
喘ぐ雪村は腕を社員に向かって伸ばした。
抱きしめるよう切ない表情で求めながら喘がれ、社員は微笑んで体を寄せると、雪村の腕が首の後ろに回った。
社員は雪村の背中に手を回して起き上がらせた。
座位の体勢に入る前に、ペニスが抜けた。
向かいあって雪村を見上げる形になった社員は、雪村に自分で挿入し自分で動くことを命じた。
不安げな表情を浮かべる雪村は、それでも頑張って、社員のペニスを受け入れようとアナルに擦りつけた。
熱くてアナルがじんじんしていた。
「んっ、はっ…」
ぐぷぐぷ入っていくペニス。自分で挿入すると、長いことがよりわかる。
「はっ、はっ、はっ」
雪村が腰を下ろすのを止める。
社員が不思議に思って顔を見ると雪村は涙を零していた。
「ど、しよ…っはぁっ、これ以上、奥にきたら、ん…っ、おかしくなっちゃう…っ」
「…やめる?」
社員の言葉に、雪村は涙を拭って首を振った。
「知らないところまで、キて…っ、」
社員は雪村の返事を聞いてから、根元までぐっと挿入した。
正常位の時よりも深いところまで届き雪村はがくがく震えた。
「ひっ、ひんっ…」
雪村は頑張って腰を動かした。
上下する度に今まで知らないところを擦られる。
「あっああっ!奥っすごいっんぁっあっ!あぁ〜っ!」
ぱちゅっぱちゅっぱちゅっぱちゅんっ
「ひぁっあっやぁんっこ、んな…っ、あぁんっ初めてっあぁんっ」
「経験豊富な雪村ちゃんの、初めてが貰えて嬉しいよ」
「んぁあっ!あっあぁんっおちんちんっすごいぃんっあっあぁんっ」
社員は下からガンガン突き上げた。
雪村が強く抱きついてくる。
「はぁっあぁっあんっあぁんっ!は、げし…っあっ奥っ奥っ!あぁんっ」
「は、気持ち、いい?」
社員が吐息まじりに雪村に尋ねる。
「気持ちいいっあんっあんっ気持ちいいですっあんっあぁんっまたイッちゃうぅっ」
乱れる雪村を社員は熱い目で見つめた。
「俺も、イきそう、雪村ちゃん…っ」
「あっあんっ!出してっ!掻き出せないとこまでっ精液飛ばしてくださいっ!あっあぁんっ」
パンパンぶつかる音を出しながら、社員は雪村の中に射精した。いけないところまで入ってきている気がして、雪村はその感じたことない興奮でまた射精した。

「長谷さんに怒られちゃうかな」
仮眠室を出る時、社員は言った。
「まさか」
雪村は笑って、自分の課へ戻っていく社員を見送った。

好きな人が出来たんです。そう言ったら、あの人どんな顔するだろう。
雪村は長谷のことを考えながらそう思った。
べつに先程の社員のことを好きになったかと言えばそうではない。
でもこんな日に、まるで抱いているような処理をしてくれた社員のことを嫌いになるはずがなかった。
いつか特別な目で見ても、おかしくはない話だった。
「もし君と結婚出来るのなら、俺はすぐさま離婚して君と結婚する。君を愛しているから。って長谷さん、言ってくれたんだ」
課に残っていた真木に、雪村はぽつりと呟くように言った。
「だから長谷さんのこと好きなの?」
椅子に体育座りをしていた雪村は膝に頭を付けて俯いた。
「わからない。でもその時は嬉しかった。道具みたいに使われてる俺たちを、人として見てくれる人がいるんだって思うと、頑張ろうって思った」
「そう。長谷さん、良い人だね。前から思ってた」
「どうかな、」
雪村の言葉に真木は不思議そうな顔をした。
雪村はゆっくり顔を上げる。
目が揺らいでいた。
「言葉だけなら、なんとでも言えるなって思ったんだ。俺と長谷さんが一緒になれないのは、本当に法律のせいなのかなって」
「…そう思ってた方が幸せなんじゃないかな」
雪村は真木の方を見た。
真木はいつもと変わらない、少し微笑を浮かべた表情で雪村を見ていた。
「好きな人のこと悪く思いたくないでしょ。何かのせいに出来る時は、そのせいにしとけばいいよ。雪ちゃんと長谷さんが一緒になれないのは、法律のせいだよ」
真木はそう言って優しい目で雪村を見つめた。
「奥さんのことをちゃんと大事にしてる人って、素敵だよね。当たり前のことだけど、出来ない人が多いよ。長谷さんって、すごく素敵な人」
真木の言葉に雪村は零れた涙を無視して微笑んだ。
「…うん。俺も、そう思う」
二人しかいない処理課の窓から夕日が差し込んだ。
雪村の悩みの一日が、もうすぐ終わろうとしていた。


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