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 ごり、って。
 兄さんの着物越しに、固いものが尻に触れたんだ。
「わ、ぁ……」
 全身から汗が噴き出す。
(柏木兄さんの……固く、なってる……っ)
 こんなの、もうダメだよ。
 頭の芯が灼かれたみたいになって、その熱い固さに尻の狭間を擦り付ける。
「こら夕凪……っ、やらしいこと――」
 少し呆れた声を含んだ、熱い息。
 だって、こんな……我慢できない。柏木兄さんが、こんな風になっていたら、そんなの。
「あ、兄さんの、かた、い……っ」
「ンっ、いけない子だ、こんなに擦りつけて――」
 しゃぶるように耳を舐められて、息を注ぎ込まれるから、変な声ばっかり出ちゃうんだ。
 自分の上がった呼吸の合間に、掠れた荒い呼吸が落ちてくる。
 柏木兄さん、色っぽい。好き。手も声も全部。この熱くなった身体も。全部全部。
「兄さん、兄さん……っ」
 ぐちゅぐちゅとますます強く、音を立てて擦られる。
 勝手に体が強張って、兄さんの熱に強く尻を押しつける。
「んんっ、も、もうでそぅ……っ」
 はあはあと呼吸が早くなって、口端から唾液が顎を伝うのを震える手で拭う。
 人からされると加減がなくて。
「か、柏木兄さん……っ、だ、ダメ、そんなに強く擦ったら、……っ」
「どんな風に気持ちイイの……?」
 い、言わなきゃ。
 ちゃんと――理性を振り絞って、男娼らしくしないと。
 思うだけで、喘ぎ声ばっかり出てなかなか言葉にならない。それでも布団を握りしめながら、言った。
「こ……腰がっ、ン、溶けちゃう、兄さんの手が、ぁっ、気持ちイ……っ」
「……っ、じゃあ、いっぱい出しちゃおうか……」
 促すように速く擦られて、あ、あ、とだらしない声を垂れ流す。
「出ちゃ、出ちゃぅ……っ」
「ん、イッて、夕凪」
「ぁ、……ンーーっ……!」
 強く、身体が強張る。
 何度か意識が浮いて。そのまま、墜落する。
 びくっ、びくんっと勝手に腰が痙攣した。
 促すようにぐちゅぐちゅと擦られて、あるだけ吐き出す。
 強張った身体から、震えながら力が抜けていく。きつくしがみついていた布団に崩れ落ちて、全身で息をした。
「っ、は……はー……はあー……っ」
 全力で走ったよりも、苦しい。
 甘い感覚が、ジンジン身体を打っていて、指も動かせない。今日の一日の疲れが、どっと身体を包んで、落ちていきそうになる。
 ……眠っちゃ、だめだ……。
 重いまぶたを上げないと。
 自分の荒い息ばかりが耳について、妙に静かなことに気がついた。
 暗がりの中を目で探す。
 例の男客が、こっちを見ていた。ぞく、と背筋が冷える。
 酒に淀んだ眼。行灯の明かりでははっきりとは見えないけど、俺を凝視している。その目はギラついていて、そら恐ろしさがイッたばかりで痺れている全身を走った。
 ――え……?
 男が、酒を握っていない方の手で、その股間をまさぐっている。その唇の隙間から、ふっ、ふっと規則正しく荒い呼吸が漏れていて。
 ――じ、自慰を……?
 面食らって言葉を失っている内に、尻の狭間に滑った感触に更に面食らった。
「あ……っ」
 兄さんに着物をはだけられて、腰や尻たぶに口づけを落とされる。
 その間にも、尻の狭間に滑っている兄さんの指先に鳥肌が立った。
 ……男との同衾がどういうものかってことぐらいの知識はあった。人の口から聞いただけで経験はなかったけど。
「あ、兄さんダメ、俺、汗を掻いてますから――」
「そんなの、俺もだよ」
 言われて、痺れた身体が抵抗する術を無くす。
 ぐび、と酒を呑んだお客の喉の音が聞こえる。
 ぬるぬると何か擦りつけられるようにそこを弄られて、奇妙な感覚が腰に抜ける。
 これ、この匂い。兄さんのお背中を流すときに何度も嗅いだ香り。香油だ。お客のそこを、ほぐすための。
 これから俺、柏木兄さんに女人のようにされちゃうんだ――思った途端、ぐずりと背中が溶けた。
「ん……今ここ、震えて開いた――」
 言われて、そこを指先でなぞられながら、耳に息を吹き込まれる。「何を考えたの……?」
「や、やぁ、ん……っ」
 声が、すっかり抱かれる声になってる。頭の端で、これは自分の声じゃないって必死で否定してた。
「……夕凪」
 少し上がった息が背中に降ってくる。艶っぽい声。それだけで頭がぼおっとなる。
「中、していい?」
 様子を窺われて、俺は、熱に浮かされた頭を頷くように小さく動かした。
 兄さんに仰向けにされる。擦り合わせていた俺の膝を腰で割って、覆いかぶさってくる。色っぽい視線が降ってきて、ぞくぞくした。
「……優しくするから」
 心臓がひどく鳴って、胸が締めつけられる。
 ……やっぱり好きだ。俺、この人のこと――。
 顔の横につかれた腕に、手で縋る。
 そうしたら、俺の手をとって、指を絡ませて握ってくれた。
 すごく、安心する。
 そのまま布団に押しつけられて、口づけが胸に落ちる。
 兄さんの黒髪の先が身体を撫でて、また、じれったい快感が始まる。
「……あ、あ、ン……っ」
 脚の間に這わされた片手が、俺の際どい内腿を何度か撫でてから、狭間に滑っていく。
 胸が、どくどくいってる。誰にも触られたことのない場所を指先がぬるぬる撫でてる。
「ぅ……」
 未知の感覚に、さすがに身が竦んだ。
「夕凪。力抜いてて」
「ん、は、はい……っ」
 俺の気を散らすように、また体中のあちこちに丁寧な愛撫が始まって、俺は、何度も背中が浮いた。気がついたら、ずっと絶え間なくあえやかな声を上げていた。
「あ、兄さん……っ、気持ちいいです……っ」
 兄さんがひとつ息を吐いて、指を潜り込ませようと揉み込むようにそこをつついてくる。
 なんだか泣きそうになって、目の前の厚い肩に縋る。
 ちゅ、ちゅ、と何度も音をたてて耳朶にくちづけされて、力が抜けた。
「んぁ、あぅ……、あにさん……っ」
 すっかり柏木兄さんの愛撫に溺れて鼻で啼く。
 指先が、入って来る――そう感じた途端。
 兄さんの背中に影が落ちて、俺は思わずびくっとして顔を上げた。
 ふらふらと足取り怪しく、お客が布団の傍に立っていたんだ。
「あ……」
「へ……へ、まるで女だなおまえ」
 舌なめずりをするようなその眼は、酒で濁っていた。「柏木ぃ待てよ。おまえばっかずりいわ」
 男は、興奮しきった自分の一物を擦り上げながら、薄笑いを浮かべて俺を見下ろしてる。
「興が乗った。そいつは俺が犯す」
 ぎくりと身体が強張る。
 酒乱が、柏木兄さんの肩を足で思いっきり押しのけた。
 勢い、押入れ脇の柱に兄さんが強か背中を打つ。
「……っ」
「あ、兄さん……っ!」
 俺は、男に足首を掴まれて布団の上を引きずられた。「や、や……っ!」
 足を大きく開かれて、のしかかられる。
 やだ、嫌だ。こんな男に犯されるなんて。
 柏木兄さん以外の人になんて、いやだ……!
 ――ここに来た目的は?
 ――兄さんを助けるんだろ!
 自分に何度も言い聞かせる。
 けど、奥歯が鳴った。
 怖い。
 怖いのと悔しさと嫌悪感で、ぶわぶわと視界が滲む。
「さてと……可愛い子ちゃん、さっきみたいにイイ声でよがれよ」
 俺は、男娼なんだから。演じなきゃ――噛み合わない歯を唇で引き締めて、息を止める。
 これを耐えれば、きっとなんとかなる。満足して出て行ってくれる。
 その為に、俺はここに来たんだから。
 そう観念して、ぎゅっと目をつぶった。




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