「好きだよ」
唐突に言われて、息を呑んだ。
「おまえは……何も考えずに身を任せてな」
……そっか。
これは、嘘の睦言だ。
兄さんは、俺の緊張を解いて気分を乗せるためにそう言うんだ。
――わかっていても、好き、という言葉の破壊力はすごくて、こんな状況にも関わらず体温が上がってしまった。
着物の前合わせをはだけられて、直に胸が触れ合う。
「わ……」
兄さんの心の臓が。どくどく。
お酒のせい、かな……唇、あんなに冷たかったのに。
「あ、兄さんの身体……あつぃ……」
そう呟いたら、男っぽい手が脇腹を撫でてきて、思わず浮いた背中をなぞり上げられる。「ん……っ」
びく、と身体が震える。
音を立てて耳や頬や……首筋に口づけられると、すぐに息が上がってきた。
肌蹴た着物の中に、兄さんの手が忍び込んでくる。手の温度が肌に滲んで、思わず吐息した。
腰骨を指先でなぞるように辿られて、ぞくぞくが駆け抜ける。
「あ、兄さん……っ」
「……気持ちい?」
男に聞こえるくらいの声で、柏木兄さんが腰に響くような低い……甘い声で言う。
俺は、こくこくと何度も頷いた。
促されるまま上半身を起こして、あぐらをかいた兄さんに腰を抱かれて、向かい合って座る。
大きな手に脚を撫でられて、胴をまたぐように引き寄せられた。
首に腕を回すと、兄さんの長い髪が腕に絡みつく。肌蹴ていた着物が肩から落ちる感触にさえ感じて、背中が震えた。
抱きしめられながら首筋を舐めたり噛まれたり……厚い肩にしがみつく。
これ、ダメになる。
緊張して使い物にならないと思っていた自分の身体が、どんどん火照ってく。
「由宇」
囁かれながら、至近距離で見つめられて。もう一度。
「……好きだよ」
――瞬間、自分がどろりと音を立てて溶けるのがわかった。
耳の柔らかい骨に歯を立てられた途端に、背中が仰け反る。
「っ、ぁ」
くり、と乳首を擦られて、あからさまにびくんと震えてしまう。
「……乳首、感じるの」
何度も引っ掻くようにされて、くすぐったいのと息が上がるのとで泣きたくなる。
うう……、腰が……逃げちゃうよ――。
「い、ぁ……」
「夕凪――答えて」
低くて甘い甘い声が、蕩けそう。
「か、感じます……っ」
「気持ちい?」
「きもち、イイ……っ」
なるべくお客に聞こえるように答えようとするんだけど。舌の根が痺れて、うまく回らない。
両手で乳首を撫で転がされて、兄さんの髪を指に絡めて握る。
「ほら……引っ掻くよ……」
爪の先でこりこり弄られて、あぁ、とだらしない声が漏れた。
「ひ、ぃ……っ」
「どんな感じ……?」
耳に息を吹き込まれながら言われて、首が竦む。
「び、びりびり、して……っ、ぁ」
耳を舐められて呼吸されると、ぞくぞくが止まらない。
「耳、弱いね」
「ぅ、あ……らめ、それ――」
蕩けた舌が、いよいよ回らない。
舌先で鎖骨を辿られて、また、かじられる。
下からすくわれるように唇を食べられて、その口づけが胸の中央まで降りていく。
「あ、兄さん、ダメ、ダメそれ……」
兄さんが何をしようとしているのかがわかって、ぼんやりした頭を必死に回して止める。
ちら、と見上げてきた目は濡れていて、でも鋭くて。
容赦なく、乳首を口に含まれて悶えた。
「ア、ぁっ、や、やん……っ」
吸われたり噛まれたりされるうちに、どんどん呼吸が荒くなる。
兄さんの長い髪に指を絡ませて、さっきから腰の震えが止まらない。
――も……どうしよう、きもちいい……っ、しぬ……っ。
高まりすぎる熱をやり過ごしたくて、一度、兄さんの体にしがみつく。
ふと、愛撫が止まって、ぎゅっと身体を抱き返してくれた。
「は、はあ……っ、はあ――」
「ん……平気?」
優しく訊かれて、声もなく頷きながら何度か喉を鳴らして息を整える。
なだめるように背中を撫でてくれる手が、きもちいい。
「ごめ、なさい俺、へたくそで――」
「それは逆……感じやすいんだよ」
耳をいじめられながら言われて、ゾクゾクする。
ふと、兄さんの首筋に浮いた指の形の痣が目に入った。
――痛そう……。
うっ血してしまったこの肌が治らないかな、と思いながら唇を押し当ててみる。痕を辿るように口先を這わせたら、兄さんの背中が微かに震えた気がした。
いつの間にか、その形を夢中で舌で辿っていた。
夕凪、と小さく呼ばれて顔を上げる。
「兄さ……、ンっ」
口づけだ。
深い角度で何度も合わされる。今までの口づけが嘘だったんじゃないか、っていうくらいの荒々しさで唇の隙間に舌が入ってくる。
舌も歯も、口の奥まで。何度も何度も撫で回されて、唇が溶けてるんじゃないかっていう、音が。
……頭が、霞む。
やわらかい……きもちいぃ……。
身体が、ジンジン痺れるんだ。
兄さんの背中に回した腕から、力が抜ける。
着物越しに、尻を両手で包まれるように揉まれて、はっと我に返った。
……俺のが、兄さんの腹を押し上げちゃってる。
「んぅー……っ」
恥ずかしくて、手で押し隠した。
「隠さなくていいよ、感じてるんでしょ……」
唇を離した兄さんがそう言って、下着の上から俺のを手で包む。
……このやりとり、すごい恥ずかしい。たぶん全部、客に聞こえてる。
でも、客の様子を確認する余裕なんかなくて、柏木兄さんに切ないところを触られた俺は、恥ずかしくて身を捩った。
「だ、ダメ……っ、触っちゃ――」
「かわいいね、由宇」
柏木兄さんの顔がまともに見られない。さっきから変な声ばっか出て、恥ずかしい。
「恥ずかしい?」
心を読まれたように言われて、こくりと頷くと、兄さんが俺を布団に寝かせる。
うつ向けにひっくり返されて、後ろから包まれるように抱きしめられた。
どんな風に組み敷かれていればいいのわからなくて、手の位置が定まらずに布団の上を彷徨う。
「……身を任せて。自然にしてればいい」
優しく囁かれて、余計な力が抜けた。腰だけ上げるように持ち上げられて、それに従う。
「っ、んんっ……」
背中に覆いかぶさった兄さんが、両胸を撫でてくる。
俺は、布団を噛んで甘い声が出るのを抑えた。
だって、変な声だし。柏木兄さんに気持ち悪いって思われたら嫌だ。
「声、我慢しないで」
出しな、と促されて、胸を揉まれながら背中にたくさん口づけされる。
我慢できなくて、噛み締めていた唇を解く。愛撫されるまま、声の漏れるままにした。
乳首を弾かれたり捏ねられたり、脇を舐められたり耳を噛まれたり……もう、全身が疼いて熱くて痛い。
「ふ、ぁ……、あ……ン……っ」
這いつくばって、後ろから愛撫される恥ずかしさをもう少しで快感が上回る――そんな折に、熱くなった性器を再び下着の上からなぞられて、腰が震えた。
「あ、ん……やだ……っ」
大きな声が出ちゃって、唇を噛む。
でも、兄さんはもうやめてくれなくて何度かなぞるように愛撫したら、手を下着の中に入れてきて――。
「や、やだ兄さん、直に触っちゃ……」
「もうこんなに熱くして――どうにかしないと痛いでしょ」
そう言って、先へ向かってひと撫でされる。
「んン……っ」
こんな時に限って、兄さんのお香の香りに気づいてしまう。
いい匂い……柏木兄さんの匂い。いつもより強く香っているみたいで頭がくらくらする。
今、俺に触ってるの、柏木兄さんなんだよな――。
思った途端、おなかの底から溶けて広がっていくみたいに力が抜けてしまった。
「ひ……膝、もう立てない……っ」
立てていた膝が崩れて、布団にへちゃ、とおなかから崩れる。
そんなこと構わずに、兄さんは、軽々と俺を横抱きにして全身を愛撫してる。
……お客に見えるように――?
横抱きにされた理由を一生懸命考えようするけれど、熱に浮かされた頭ではろくに考えられない。
乳首をいじられながら、背中を舐められて……性器を擦られる。
どこが一番気持ちいいのか、もうわからなくなった。
自分のものが、兄さんの手の中で優しく擦られてる。
……ちくちくと濡れた音がしてて、恥ずかしくて身悶えた。
「だめっ、だめ、ぇ……」
「ダメじゃないよ、こんなになって……」
煽るような言葉は、お客を興奮させるためのものなんだけど。
俺の方がダメになってしまって、胸がばくばくして。
「は、はあ……っ、あ、あっ」
性器を絞める手の力が強くなってきて、びくびく背中と腹が震える。布団に埋まったまま、頭の奥が霞んできた。
いつの間にか腰の結び目が解かれて、下着が落ちていた。もう、兄さんの思うままにされている。
性器を包んで動く、柏木兄さんの手。
だんだんと速く扱かれて……腰、動かしたい。
恥ずかしさと戦いながら、おずおずと揺らす。
兄さんの膝に俺の片足を引っ掛けて持ち上げられて、開くようにされた。
すごく恥ずかしい格好なんだけど、もう、達することしか考えられなくて。
勝手に腰が揺れる。
どこかに触れてないと不安で、突き出した尻を背中に寄り添ってくれてる柏木兄さんの身体に擦りつけた。
「っ」
思わず、びくっ、と腰が逃げる。
あ、れ……これ、って――。