[]





 一つの罪が五万の罪になり、一つの願いが無限の悲しみを生んだ。

 世に人の哀しみが降り積もり、死でもってのみ償われるとされた。神は肉体を罪の塊とし、人の願いを欲の産物とされた。
 一人の男が立って言った、地上に楽園はないのですか、と。
 神は、望郷の彼方にあると仰られた。すべて幻である。罪も願いも、汝が欲する肉体さえも。代わりを探すことは虚を求めることである、と。
 男は言った、それでも私は救われたい。
 神はお怒りになった。男の目を潰し、体を灼き、魂を取り上げた。
 神もまた、偽りであり虚であった。
 盲目の男は残った肉体で魂を探した。男には偽りの世界が見えず、己の魂を取り戻す日が目前にありありと描かれていた。
 神は、風雨と雪と雷、凍てつく氷と刺す日差しで男を苛んだ。
 長い旅は、男の四肢を痺れさせた。それでも歩き続ける男の背中に一片の朱鷺の羽根が降って背中を撫でた。
 男は倒れた。もはや自由のきかぬ体で砂を掻いた。光を失ったはずの目は輝いている。
 ――見つけた。神も見なかった私の魂を。
 男は動かなくなった。目の前には地平が横たわり、大きな影が男を包んだ。
 日の没した彼方には、偽りの神の死が浮かんでいた。



墜落のガブリエル



※作品の性質上、暗い表現や宗教的表現・性描写を含みます※






[]


















- ナノ -