[]






***


「それって、合コン?」
「まあ、そういうことだと思うけど」
 カフェ様式の食堂で、俺は、嶋沢を前に途方に暮れていた。
 なぜって、こんなことを年下に頼まなければいけないこともだけど。
 女子の頼みを断れなかった情けなさだとか、なにより、嶋沢にこんな話をしなきゃいけない惨めさで、しょぼくれていた。
「別にいいよ。看護と合コンしたい奴もいるだろうから」
 ものすごく軽い調子で引き受けた嶋沢は、合コンとか慣れてるんだろうな。
「……あくまで飲み会ってことにしてほしいらしいんだけど」
「はは、変なとこにこだわってんなあー」
 かわいいね〜女の子は。
 そう言いながら、嶋沢は、イチゴシェイクなんていう意外と乙女ちっくな飲み物を飲んでいる。
「じゃ、そういうことだからな。後で女の子のメールアドレス送っておくから、メールしてあげて――」
「おいおい」
 そそくさと席を立とうとした俺の腕を嶋沢ががっしり掴んだ。日に焼けた腕は、びくともしない。
「な、なんだよ」
「おまえも来るんだろ」
 もう今更、呼び捨てんなとか。おまえ、って言うなとか。先輩つけろよ、せめて『さん』をっていう注意は、しないことにした。
 それよりも俺は、嶋沢の言葉に驚いてて。
「え!?俺が!?」
「当たり前だろ」
「嫌だ、俺行かないよ」
「望が幹事じゃないの?普通」
「そんなの知らないよ、大体俺――」
 合コンに行ったことのない奴が、幹事なんかできるわけない。
「引き受けちゃったんだろ? やるしかねえじゃん」
「俺が行ったって、女子が困るだろ。みんな、医学部のイケメンと合コンがしたいんだから」
 みんな嶋沢目当てなんだろうけど、4人全員が嶋沢とくっつけるわけじゃないし。
 俺が行ったって場違いなのはわかってる。想像するだけで、居心地悪い。
「そんなことないんじゃない?望、かわいいし」
「知らないよ、俺は嫌だからな」
「俺、望が行かないんだったら行かないよ」
「大人気ないこと言わないでくれよ……」
「忘れてるだろ、俺が言ったこと」
 嶋沢の声が、少し低くなる。「望がタイプだって。言ったはずだけど?」
「う……」
「なのに合コンの誘い持ちかけてさ、勝手に行って来いとか、ちょっと酷いんじゃねえの」
 ……確かに。
 確かに、人としてよくなかったかもしれない。
 いくら嶋沢相手だからって、言っちゃ悪いことがあったかも。
 バイの人の指向を理解できない気持ちに甘えてたかもしれない。
「……ごめん」
 そう思ったら、しみじみと謝罪の言葉が出た。
 嶋沢が、目を丸くしている。
 豆鉄砲食らった鳩って、こんなんかな。字もちょっと似てるし。
「……なんだよ」
「へえ〜……素直なんだ」
「俺が言ったことで、傷つけたんだったら謝らないといけないだろ」
 そんなにまじまじ見られると、気分が良くない。
「……ほんとにかわいいのな、望って」
 まただ。
 嶋沢なりの褒め言葉なのかもしれないけど。
 軽口ばっかきくけど、言葉は選んでるみたいだし。
 でも。
「かわいいはないだろ……」
 正直言って、コンプレックスなんだ。背はあまり伸びなかったし、女子には恋愛対象に見られない人生を送ってきた。
 嶋沢に悪気はないのはわかってるけど、俺の心がちくちく痛む。
「メガネもよく似合ってるしさ」
 意外と真面目に選んでくれて、実は、結構いい奴なのかも、とは思う。
「なかなかなびかない所も、ぞくぞくするって言うか」
「は?」
 ……いきなり話が怪しくなってきた。
「恥ずかしいこと言わせたくなるよね」
「はあ!?」
 前言撤回。
 ちょっとでも、いい奴かもしれないなんて言ったのが間違いだった。
「店、下見に行かないとな」
 呆れてる最中に、急に切り出されて置いてきぼりになる。
「もしかして――合コ……飲み会の?」
「一人で幹事できんの?望」
「……できる」
「嘘つけ。いいよ、せっかくだし一緒に店探そうぜ」
 完全に嶋沢のペースだ。
 でも俺は、世間知らずじゃない。
 騙されないぞ。絶対に。





[]







- ナノ -