魔力過多による不調の話(ラクサスの場合)

「ラクサス、」
「何だ」
 違和感のある挙動をするので抱えて医務室に放り込めば”これ”だ。アルテは氷の滅竜魔導士。おかげで体温は通常の人間のそれよりはるかに低い。それが「人肌」程度の温度になっているのだから、こいつにとってはかなりの高熱だろう。熱が出ると弾けるタイプだったか。
「魔力過多だ。余剰分だけでいい、貰ってくれないか」
 聞けば、アルテの魔水晶は魔力を増幅させ続ける代物らしい。普通の魔導士ならそんなことはあり得ない、血が作られすぎて破裂してしまうようなものだ。
「君なら多少多くても大丈夫だろ?つうか容量デカいしいけるな?」
 ちょいちょい、とアルテはベッドに座ったまま手招きをする。魔力の譲渡は確定事項らしい。別に貰って困るもんでもないし、とベッドの端に腰掛ける。
「まあ余ったらそこらへんで雷ぶっ放してきな」
 そう言うが早いか、アルテは倒れるようにオレに寄りかかり―己の唇で口を塞いだ。ああ、魔力の譲渡ってこういう。
「口開けろ、入らねえ」
 ロマンもへったくれもねえな、とこの事務的な作業を俯瞰する。こいつの望み通り口を僅かに開きされるがままに。ぬとりと舌が入り込み、濃厚で拒絶しそうにさえなる魔力がどろりと喉を伝っていく。ついでに薄い舌が口内を遊んで犬歯やら口蓋やらを辿っていく。目を閉じて頬に手を添えた必死な様子は、ぢりりと嗜虐心を燻らせるのに十分だった。
「…は、ァ」
「これで良いのか」
「ああ。随分と楽になった…あとは寝ときゃ治る」
 それで力を使い果たしたようにどさり、と彼女は乱暴に横になる。無抵抗の彼女の額に触れれば、多少熱は引いたようだ。ひやりとしている。
 雷を何度も浴びたように帯電してしまっている身体は、小娘の魔力の膨大さを物語っていた。これで「余剰分」だと言うのだから恐怖さえ感じる。身体の継ぎ接ぎだの治療だの、半ば反則的な魔法はこの途方もない魔力量に無理を言わせていたらしい。オレの半分もないほど薄っぺらで小さい身体にこれだけ詰められているのは、最早歪と言ってもいいだろう。
 言われたとおり魔力の放出でもしてくるか。同じ第二世代の滅竜魔導士ということもあり気にはかけてやっているが…どうもこいつは面倒なことを背負ってしまったらしい。もう遅いんだが。


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