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寄り道はろくな事が無い



名前はオシャレとは程遠い生活を送っている。何故なら不運により服は大量にボロボロになり、すぐに使い物にならなくなるからだ。いくらオシャレしても1歩外に出れば、名前からしたら戦場である。そのため、名前は可愛いと思うものより、実用性を重視しがちになったのだ。動きやすさとお買い求めしやすい安価なものばかり。
それでも、やはり女であるからかおしゃれはしたいと、煌びやかな服を見ては憧れてしまうのだ。

とは思いつつも。

「やっぱりいつもみたいに安物買っちゃうよねー」

いや、だって、この帰り道でさえも何が起こるのか分からないし。安物なら高価な可愛いものよりたくさん買える。質より量。名前にとって服は使い捨て用のコンタクトみたいなものなのだ。

「よし!帰るまでがお買い物だ!気をつけないと!」

買い込んだ服を抱えて名前は周囲を警戒するように歩く。途中で転けたり、後ろから鳥が衝突してきたり、歩きスマホをしている学生にぶつかって倒れたりもしたが、名前の中ではまだマシな不運である。

「お!」

すると、名前の鼻を甘い誘惑が刺激する。くんくんと鼻を鳴らしながら、その匂いの方へ足を進めれば、可愛らしい建物が目に入ってきた。甘い匂いを纏う白い箱。その中にはまるで宝石のような輝きを持つ甘い甘いお菓子たちが詰め込まれていた。

「美味しそう〜!!開店したばかりなのかな?初めて見るお店だ〜!!」

名前が見つけた宝箱。それは、洋菓子店である。元来甘いものが大好きな名前はその魅力に虜になり、窓から見えるスイーツたちを見つめていた。

「お金はひー、ふー、みー…余ってる!」

安いものを買ったおかげで残金も余裕だ。
そういえば面接の日にお酒を割ってお店を滅茶苦茶にしてしまったお詫びを全くしてなかったなあと名前は思う。黒霧にとっては名前の幸運のおかげで以前よりも良いお酒が並んでいるので、充分すぎるほどのお返しを得ていると思っているのだが、名前の知らぬ所である。

「みんなの分も買っていこうっと!!」

名前は溢れ出るヨダレを飲み込みながらも、白い箱の中にいそいそと入っていった。

正直に言うと悩んだ。滅茶苦茶悩んだ。だって、よく考えてみれば名前は仲間たちの舌の好みを知らぬのだ。
死柄木は少し子供っぽいところがあるから甘くても大丈夫じゃないか。トガみたいな餓鬼は嫌いだとかなんとか言っていたけれど。無難にショートケーキにしておこう。トガもまだ学生でしかも女の子だからフルーツが沢山乗ったタルトがいいかもしれない。見た目も可愛いし今巷で人気ののイ〇スタ映えってやつだ。黒霧は好き嫌いなさそうなので、なんでもいいかもしれない。だけれど、恐らく名前よりは年上なので好みが渋いかもしれない。母親が好きなモンブランにしておこう。荼毘は見た感じ甘いものは好きそうには見えないのでガトーショコラがいいだろうか。
名前は独自の自己判断と偏見により、みんなの分のケーキを決めていく。完全に名前の想像によるものである。
そして、名前は自分用にミルフィーユを頼んで、5人分の宝物が詰め込まれた箱を持って帰路に着いた。その足取りは軽かった。早く帰ってみんなで食べたいなあ、と。その時に、また次回買って帰るためにみんなの好みを聞いておかねばと、ウキウキと歩いていた。

それがいけなかったのだろう。名前は自然と急ぎ足になっていた。うっかり自身の不運っぷりを忘れてしまっていたのだ。だから、暗い路地から出てきた男の存在に気づかず、その肩にぶつかってしまった。

「あ、すいません!」

その反動で手から箱が滑り落ち、ぐしゃりと嫌な音を立てて地面に崩れる。

「ぬあ!?ケーキが!?!?」

地面に落としてしまった箱は少し変形してしまっている。中身は無事だろうか。名前は声を上げながらも、慌ててそれを拾いあげようと身を屈めた。しかし、名前の体は地面とは逆にぐいっと上に持ち上げられ、名前は目を白黒とさせる。足が地面についていない。宙に浮いている。

「お前、ぶつかっておいてすいませんで済むと思ってんのか!?あぁ!?」
「ヒョワーーーー!!」

名前の体を浮かせている犯人。それは、先程名前とぶつかった相手であった。彼は屈強な体つきをしており、名前の身体を腕1本で簡単に持ち上げていた。その瞳は暗く澱んでおり、明確な殺意を乗せた鋭さを持っていた。こいつ、やばいやつだ。名前はすぐに察した。
じたばたと藻掻くが、相手の手から逃れられそうにもない。周囲からは悲鳴が上がり、場は騒然となる。いや、騒ぐのはいいから助けてくれ。名前は切実にそう訴えたかった。

「俺は今むしゃくしゃしてんだ!!」
「八つ当たりだ!!」
「そうだ!!有難くサンドバッグになるんだな!!」
「有難くないよぉぉおおおおお!!」

なんでだ。どうしてだ。名前はただ服を買いに行って、その帰りにケーキを手にしただけである。それなのに、何故全く見知らぬ怖い男に殴られるだけのサンドバッグにならねばならないのか。
名前は混乱しながらも、わーわーと騒いだ。もはや何を言葉にしているのか分からなかったが、この危機的状況に耐えられずただ叫んでいた。
しかし、それは逆に相手の神経を逆撫でしてしまったらしい。「うるせえなあ」と男は空いた手を握りしめて拳を作る。
あ、もうダメだ。名前は覚悟を決めて、ぎゅうっと目を瞑る。

「燃えろ」

しかし、いつまでもその拳から与えられる痛みと衝撃は来ず。代わりに瞼の裏に淡い青色の光が浮かんだ。

「ぎゃあああああああああああ!!!!」

男の歪な叫び声に、名前は閉ざしていた目を恐る恐る開ける。すると、名前を掴む男の腕に青色の炎が燃え盛っていた。男は名前から手を離すと、その腕に燃える炎を消そうともがいていた。地面に尻餅をついた名前は、ぶつけたお尻の痛みに耐えながらも男を見る。
彼の腕を蝕むあの青い炎。名前には見覚えがあった。鮮明にこの網膜に焼き付いていた。

「何してんだ、お前」
「…だ、荼毘先輩!!」

手から同じ青色の炎を出し、名前を見下ろす男。それは、名前の世話係である荼毘であった。