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 微かな吐息が夜のしんしんとした厳かな雰囲気を震わせ、薄墨のような黒を白く染める。その光景をセザルスはただ珍しいな、と思いながら見つめていた。
 セザルスが亡き両親から受け継いだ小さな屋敷で静かに暮らしている。一年の殆どが穏やかな風が吹き、比較的な温暖な気候なのだが。今は辺りがチラホラと白を被っている。雪が降るなど何年振りだろうか。

「セザルス、お待たせ」
「ああ」

 聞き慣れた声に振り返れば、やはりというか見知った姿があった。肩より伸びた柔らかな金髪の美女。彼女の名はミディア。元は貴族の出なのだが、両親は彼女が幼い頃に他界し孤児も同然の身分。セザルスの両親も亡くなっているとなると、二人の交際について誰も咎めることもなく、自由であった。
 二人とも齢二十一。関係は良好。付き合いだしたのは大学に入った年の、今と同じ冬。もうすぐ一年になる。交際期間としては些か短いかもしれないが、二人を繋ぐ絆だとか、愛情だとか、目に見えない関係はどこまでも深く、他人からは信じがたいほどに強固に結び付き、絡んでいた。ほどけるという可能性は絶無であると言っても過言ではない。
 ミディアが使う表向きの名はミディア・セデン・ルーラットなのだが、もう籍は入れてあり、正しくはミディア・セザルス・エクスが本名になる。

 エクス家は本来、表の存在ではない。裏で王の支えとなり、貴族を束ねる主となる存在。支柱。初代エクス家当主ラーザ・エクスの名は代々、当主の座に就くものに受け継がれている。セザルスも例外に漏れず、表向きは違う名を名乗っているものの本来はセザルス・ラーザ・エクスである。そしてその伴侶にはラーザの部分に夫たる当主の名を冠してエクスを名乗るのは慣わしだ。


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