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「あら、セザルス。そこは待ってないよ、って答えるとこじゃないの?」
「思ってもないことは言わない主義だ」
「残念だわ。……じゃあ、わたしが貴方のことを好きだと言ったら?」
「それは勿論―――」
 青年は眼前で微笑を浮かべる妻にいつもの無表情を崩し、彼女の左腕を強く引いてその体を抱き寄せた。
 セザルスは口元を綻ばせ、ミディアの耳にかかる髪をそっと掛け直す。そして唇を耳元に寄せて、
「―――愛している。」
 そう返すに決まっているだろう?と勝ち誇ったような微笑を浮かべるセザルスに、ミディアは堪らず手をその背へと回した。
 セザルスの印象として大きく上げられるのは二点である。一つは透明感を持った神秘さを感じさせる濃紫の髪と眼、二つ目は無表情であるということが多い、ということである。無表情でなければ、どこか皮肉めいた口の片端だけを吊り上げる笑みを浮かべていたりする。誰にも極力関わらないようにして生きてきた、それを体現したかのような人物なのである。
 そんな彼が酷く優しい、甘やかすような手つきで髪を梳き。愛しくて堪らないというように頬を指が滑り。逃がさぬようにと細身の、だけどしっかりとした腕で強い力をもって抱き締めてくれる。
 ミディアにとって切なさに胸が締め付けられ、泣きたくなる程に嬉しいことで、それを感じる瞬間でもあった。彼の全てを知り、ともに背負い、ともに歩んで行こうと決めた。愛してる愛してる、あいしてる。
 貴方の全てを愛しく感じる。その包み込むような柔らかな視線が、春のような微笑が、甘く囁かれるようにして紡がれる声が、言葉が。そして優しく奪って溶かすような口付けが。
貴方と過ごす時間も空間も。何もかもすべてが愛おしく、泣き出してしまいそうなくらいに幸せで。
「…私もよ。愛しているわ、セザルス」
 しがみつくように抱きつくミディアにセザルスは目を細めて、柔らかくそれでいて頭上で輝く月のような微笑を口元に湛えた。細く、思い切り抱き締めてしまえば潰れてしまいそうな存在を腕の中に確かに閉じ込めて。
 愛している。
 愛しい。思考することは同じ。ミディアの頭にそっと口づけを落とす。
 ああ、どうか。死が二人を別つまで永遠に―――…。




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