「すまん、お待たせ!」
正門の柱に凭れながら待っていると、テニスコートの方から謙也君が走って来た。
「いいよ、そんなに待ってないから……って、」
少し息の上がってる彼を見上げて、思わず目を見開いた。
学ランのボタンがひとつもなくて、黒の中から、カッターシャツの白とカーディガンのグレーが覗いていた。
「どうしたの、それ?」
「あー……、LHR終了後、女子の大群に襲われてな、奪われてしもてん」
思わず学ランを指差せば、謙也君は渋い顔をしながらも答えてくれた。
「そっか……」
少しだけ残念な気分になる。
学ランの第2ボタン。
別々の学校へ進学の決まった私たちのお守り代わりに、貰いたいなと思ってたのに。
「そないな顔せんでも、1番大事なヤツはちゃんととってあるで」
しゅんとした私に、彼はラケットバックのサイドポケットから取り出したものを手渡してくれた。
「これ……っ!?」
「正真正銘、俺の第2ボタン。これだけはなずなにやらな思うて、先に外してとっておいてん」
女子らに気づかれんで良かったわ、と胸を撫で下ろす謙也君。
「来月から、こういう風に毎日顔合わせることはできひんかもしれん。それでも、俺はなずなが好きや。それは俺の気持ちの証」
いらんくなったら捨ててな、なんて言う謙也君に、私は必死に首を左右に振る。
「ずっと大事にする……。ありがとう、謙也君」
「どーいたしまして」
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