text (ぎふと!) | ナノ

世界線を越えて



・「Sakusou」あさかさまより、素敵すぎるコラボ小説
・狛枝♀さん×ヒロイン秋月まりん嬢 + 拙宅風紀巫女
・名前変換は拙宅巫女のみ







「………んんん」
「あら、如何されました?」
「ねえ白雪ちゃん、牛乳飲んだら身長おっきくなるかなぁ……」
「……一般的には、そのように謂われておりますけれど……牛乳だけを摂取しても、おそらく身長は伸びませんわ、まりん先輩。他に亜鉛やマグネシウムなどのミネラル、各種ビタミンを適正に摂取する必要がありますね」
「……うぅ、じゃあ飲まなきゃよかった……おいしくない……」

一気に飲み込んだらしく、空になった150ml入りの牛乳のパックをテーブルの上に置いて、口元を抑える。白雪が席を立ち、近くの自販機で温かいココアを買ってきた。差し出された缶のを申し訳ないと思いながら一口飲み、口直しをする。ここで牛乳と相性のいいココアを差し出してくるあたりに、白雪のそつのなさを感じられる。
「ありがとう」と言って財布を出し、120円を白雪の手に置く。こういうところでは差し出すのではなく持たせるというのが正解だ。そうしなければ白雪が代金を受け取らないというのは経験上明らかである。

「牛乳、お嫌いなんですの?」
「うん、飲めないわけじゃないんだけど、あんまり好きじゃないの……」
「あら、まあ……そうなんですか。ところで、どうして急に身長を?よろしければあたしに聴かせてくださいませんか?」

白雪がそう訊ねると、まりんは視線を彷徨わせて躊躇いがちに口を開いた。

「……わ、笑わないでね」
「ええ」
「この間ネットで見かけたんだけど……あの、あのね……キスがしやすい身長差って12cmなんだって」
「そうなんですの?」
「うん……それで、わたし、154cmで、凪兎ちゃんが170cmだからね……4cm足りなくて」
「………なるほど、そういうことでしたのね」
「それに凪兎ちゃんって学校はともかく、普段はブーツでね、5cmくらい高くなるの……わたしはヒールが高いと転びそうになっちゃうからフラットな靴で、差が開いちゃうから……凪兎ちゃん首痛くなっちゃわないかなぁ……って。いつも屈んでくれるから」

なんか申し訳なくなって、と溜息を吐く。そんなこと気にしなくても良いのでは、と白雪は思う。おそらく首が痛くなる程度のことで凪兎はまりんとスキンシップをとるのをやめたりしないだろう。白雪の恋人である石丸がそうであるように。
……というか。

「それを仰るのならまりん先輩、あたしと清多夏さんなんて26cmも身長差があってよ?」
「……石丸くんも身長高いよねぇ……」
「あら、清多夏さんは平均身長より少ぅし高いくらいでしてよ」
「あ、わたし達の視点からすると、です」

まりんは前述通り154cm、白雪はそれより4cm低い150cm。平均身長が165cm程度の希望ヶ峰学園女子生徒の中でも、二人はかなり身長が低い方であった。まあ、まりんの同級である西園寺日寄子は小学校低学年程度の身長であるので彼女が現時点で一番低身長だけれども。

「……そういえば、先程仰っていた身長差云々のお話なんですけれど、まりん先輩が見たのはそれだけですの?」
「え?うんと……あ、あと理想の身長差は15cmだっていうのは見たよ?その二つだけかな」
「あら……それじゃあもう一つ、僭越ながらあたしの方からお教えしますわね」
「うん?」
「性行為のしやすい身長差は22cmなんですって、まりん先輩」

まりんは一拍おいて、「ふ、ぅえ!?」と珍妙な声を上げた。くすくすと笑う白雪に、当惑気味の顔になる。

「如何かなさいまして?」
「し、白雪ちゃんの口から出るとは思わなかった単語に、すこしびっくりしています」
「だいぶん驚かせてしまいましたわね。反省、反省……ですわ」
「(……は、反省……してない!これは反省してない顔だ!)」
「あら、ちゃんと反省していてよ?」
「!?な、なんで」
「エスパーですもの」
「そ、それは舞園さんの専売特許だよぅ……」
「苗木くんも一度使ってらしたわ」
「な、なんということでしょう!」

しかし白雪の「エスパーですもの」はとても様になっていた、とまりんは胸中で思う。普段優雅な笑みを浮かべている白雪の、悪戯っ子のような笑顔。写真にでも残せばどこかの風紀委員が焼いた分だけ全て持っていきそうだ。まあそれを見ながらも本物のその笑みがどれだけ素晴らしく可愛らしいものであるのかをつらつらと軽く二時間くらい語るのだろうけれども。

「そうそう、それから戯れ程度にもうひとつ。まりんさんと清多夏さんの身長差は22cmですわ」
「あ、ほんとだぁ」
「まあ、なんて薄い反応」
「だってわたしが石丸くんとそういうことする可能性なんて天文学的数値よりさらに低いよ、白雪ちゃん。まずわたしが凪兎ちゃんに出会わない、白雪ちゃんが石丸くんに出会わない、それからなおかつ石丸くんがわたしに興味を持つだけの何かが必要になるよ?あと、今の状態でそんな状態になったら石丸くんはきっと「月夜ばかりと思うなよ」になって夜道を歩けなくなるし、ていうかそれ以前に白雪ちゃんに申し訳が立たないって切腹しそうだし、それからわたしは二度と日の目を拝めないよ。一生を屋内で過ごすことになっちゃうよ」
「……あたし、ふと思ったのですけれど」
「なぁに?」
「まりん先輩は、どちらかといえば束縛をされたい方なんですの?」

白雪の問いに、まりんは目を丸くする。それから顎に手を当ててしばし考えて、納得する答えが出たのか口を開いた。

「そういうんじゃないよ?」
「そうなんですか?」
「うん。凪兎ちゃん以外ならね」
「あら……」
「束縛されたがり……って、わけじゃないと思うよ。恋人とか、凪兎ちゃんが初めてだからわかんないけど。うん、でも、たとえば本当に、もう二度と日の目を拝めないような部屋で一生を過ごすことになったとして。それをしたのが凪兎ちゃんならわたしはなんの文句もないし、むしろうれしいよ。……わたしは束縛されたがりって言うより愛されたがりなのかな。枕詞に凪兎ちゃん限定でがつくけどね」
「あたし、まりん先輩の自分のことさえ客観的に推察してしまえるところ、好きですわ」
「え?ほんとう?わたしもね、白雪ちゃんのさらっと冗談言えちゃうところ好きだよ」
「両思いですわね」
「両思いだねぇ」

ゆるゆると微笑んでそんなことを言っていると、ばたばたと二人分の足音が聞こえてきた。

「それは違うぞ白雪ッ!白雪と両思いなのは日本全国津々浦々、更に世界にまで範囲を広げたとしても僕だけだ!異論は認めないッ!」
「それは違うよまりんさん!まりんさんと両思いなのは現在過去未来そして別次元に至るまでボクだけだよ!文句ないよね!?」

びしいっ、と揃って人差し指を突き立てる二人は、まるでどこかの幸運少年のようだった。片方は幸運少女であり、彼女もよく「それは違うよ……」とねっとり口にしているけれども。
言うまでもない、その二人は今ここにいる白雪とまりんの恋人である。

「あらあら清多夏さん、そんなことで泣いてしまわないで。ほんの戯れよ」
「ほほほ本当かね!?信じるぞ白雪!」
「ええ、信じて頂戴な。あたしには貴方だけよ、清多夏さん」
「もう、白雪ちゃんはお友達だよ凪兎ちゃん」
「だってそんなこと言っても罪木さんだってお友達じゃない……」
「恋人とは違うよ?恋人は凪兎ちゃんだけだもん」

互いの恋人の嫉妬心とほんの少しの不安を仲良くBREAK!させたところで、白雪がまた先程の悪戯っ子のような微笑みをうかべる。

「狛枝先輩、さきほどまりん先輩が身長について悩んでいらしたわ」
「!?、白雪ちゃぁん……!」
「あら秘密でしたの?御免遊ばせ」

うふふと微笑む白雪に、まりんはぐぬぬと唇を噛んだ。どうにもこの後輩は自分に対していじめっこ気質である。

「……まりんさん、身長気にしてるの?なにそれかわいい……天使?天使なの?」
「否、天使は白雪だぞ狛枝先輩!」
「は?……いや、まあいいや。それでまりんさん、身長気にしてるの?そんなの気にしなくていいのに……まりんさんは今くらいの身長がかわいいよ!」
「…………だ、だって、あと4cm……」
「あと4cm?158cmになると何かあるの?」
「……凪兎ちゃんが首を痛めないようになるかもしれない……」
「え?痛めた覚えないけど……」
「………」
「狛枝先輩、接吻をしやすい身長差というのは12cmなんですって」

と、そこで何も思い付かない凪兎ではない。まりんに対する事でのアイデアは自動成功レベルの知力を持つ凪兎だ、わからないわけもない。

「……つまりボクがキスをする時首を痛めないように身長を伸ばしたいって、そういうことなの?」
「………んんぅ……」

明確には示さないけれど、林檎のように赤く染まった頬が何よりの肯定の証である。
それはいとも簡単に凪兎の心を撃ち抜いた。

「はあああああんまりんさんかわいいよぉぉボクのまりんさんがかわいすぎて生きるのが楽しすぎる!まさに希望!あいしてる!まりんさんまじ天使!」
「だから狛枝先輩!天使は白雪だと言っているだろう!」
「うるさいよ石丸くん黙ってて天使はまりんさんだよ有栖川さんは………聖女辺りじゃない」
「なるほど」
「……如何して納得するのかしら……」
「白雪ちゃんは女神だよ」
「あたしはいつから神に昇格したのかしら……あたしはあくまで巫女なのだけれど」
「秋月先輩、僕はその意見に賛成だッ!」
「……清多夏さんたら、もう」

仕方のない人、と苦笑する白雪。やはり聖女か女神かはたまた天使か、いや巫女なのだけれども、彼女がそういった神聖な存在であるというのはもはや論ずるまでもないことだ。
凪兎はまりんにしか興味はないし、まりんが超高校級の天使であることは断固として譲らないけれど、白雪がそういった神聖な存在であることは否定しない。仮に、凪兎がまりんに出会わない世界があったとするならば、そしてその世界で白雪に出会ったのならば、彼女の信者になっていてもおかしくはないような人生を送ってきているから。彼女が、世が世ならば現人神と呼ばれてもおかしくはないことくらいは解る。

「……ていうか、だから牛乳パックがここにあるんだね」
「……うん……」
「まりんさん牛乳好きじゃないのに」
「実に健気だな」
「ええ、本当に」
「…………ぅぅぅぅ……結局牛乳飲んだだけじゃ身長伸びないんだから意味ないよぉ……」
「それは違ってよ、まりん先輩。意味がないなんてそんなことありませんわ。その行動が狛枝先輩の心の琴線に触れたのは、間違いないのだし」
「……そうなの?」
「琴線に触れるどころか心ががっちり掴まれたよ……いつもだけど。ありがとう、まりんさん。でもまりんさんはそのままで大丈夫だよ」
「……うん」
「それで言うなら問題は石丸くん達の方が大きそうだしね」
「何を言うのだ、狛枝先輩!問題は皆無だッ!屈むのが大変だったとすれば、抱き上げれば良い話だからなッ!」
「清多夏さん、それは人前では恥ずかしいからおやめになってね」
「当然だ。白雪の恥らう顔は僕だけが知っていれば良いのだからな!」
「これだから風紀委員(笑)は」
「かっこわらいとは何だ?」
「ずいぶんと許容範囲の広い風紀委員だね、って言ってるんだよ。褒め言葉だよ」
「そうか」
「(褒めてない……ぜんぜん褒めてないよ……皮肉だよ石丸くん……!)」
「いやだなあまりんさん、そんなことないよ」
「!?な、なんでわかるの……!?わたしそんなにわかりやすい?」
「うーん、エスパーだからね」
「舞園さんに怒られちゃうよ!」
「どやです!」
「それはさすがにアウトだよ!?」
「さやかさんの真似っこキャンペーンでもしているのかしらね、今日は」
「最初にしたのは白雪ちゃんだよ……!」
「エスパーですもの?」
「エスパーじゃないよ!巫女さんだよ!」

こうして談笑する四人が至極緩やかに病んでいるだなんて、誰が想像するだろう。
とはいえこの健全たる学生生活の中でそれを推察しろというのも土台無理な話であり、知らなかったとて害をこうむるわけでもない──風紀委員(笑)と幸運少女の愛しの嫁に不埒な考えを持たない限り。その観点から鑑みると某野球選手や某占い師なんて限りなくブラックに近いグレーなのだけれども。「秋月先輩ってファンが多いらしいぜ!ブーデーみたいな!」「なるほど売れるべ!」この会話が霧切経由で凪兎に伝わるのもそう遠い話ではない。
ともあれ、それぞれのカップルが幸せなのだからまったくもって無問題(モーマンタイ)、むしろ問題提起してきた人間に対して「いらんこと言うな」と噛みつきそうな勢いではあるのだけれど──。
それもまあ、お約束ということで。






 「Sakusou」あさかさまから頂きました!

 うわあああああさかさまうわあああああ愛してますうわああああああああ
 元来「愛に倒錯」フリークだった蕗にとって、今回のコラボって只管俺得というか、こう、未だに現実味が沸かず「マジ?」って思ってしまっているレベルです。
 まりんさんと喋れているだと……しかも狛枝さんに蔑まれない安全地帯で! わあい! なんというかこう、敢えて第三者である巫女を通して見るとますますまりんさんかわいくてしにそうです

 あさかさま、このたびは感激ものの素敵な小説を有難うございました……!

***


 僭越ながらお返しさせて頂いたものがこちらになります。同時間帯、なぎとさんと風紀さんサイドでお送りしております。



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