text (ぎふと!) | ナノ

並走する思春期の純愛ジャンキー



・あさかさま宅「Sakusou」内連載「愛に倒錯」のおふたり(狛枝♀さん×ヒロイン秋月まりん嬢)とコラボ!
・名前変換は拙宅巫女のみ
・少々身も蓋もないシモい話あり
・あさかさまほんと申し訳ありません愛してます












「……粗茶だが」
「ん、どうも――……へえ、安物のペーパードリップの癖に意外といけるじゃない」
「一気に湯を流すのではなく、少量注いで蒸らしたあとに膨らんだ粉を落とさないよう上から小分けに注湯するとうまく抽出できるのだそうで」
「出典、当ててあげようか。有栖川さんでしょ」
「……白雪は、僕に色々なことを教えてくれるのだ」
「それを逐一吸収してるキミもなかなかアレだと思うけどね。――ん、まあ、ありがと」
「む、狛枝先輩から普通に感謝されるとはついぞ思わなかった…意外だ」
「出典、当てさせてあげるよ。というか影響元?」
「なるほど、秋月先輩か」
「ほら、まりんさんって天使じゃない。だから誰にでも分け隔てなく――否、勿論ボクに対しては規格外だけどね?――優しいんだよね。特に、ひとから好意を向けられたらそれを無碍に出来ないっていうかさ、そこがボクとしては危なげなところであり、いいところなんだけど」
「ふむ」
「それでさあ、――まあ、感化されちゃったっていうのかな。無論、石丸クンなんてボクにとっては本当にどうでもいい、別に知ったこっちゃないから何処かボクとまりんさんの迷惑にならないところで勝手に有栖川さんと幸せにしてなよってレベルの存在であることには何ら疑いはないわけだけどさ」
「有難う御座いますッ! きっと僕は白雪を幸せにすると誓うッ」
「あ、そういう風に返してくるんだ……いいんだけどさ。あーあ、サンルームからガラス一枚隔てただけでずいぶんとまりんさんが遠くに感じられるよ…いいなあ、きっといまテラスの空気は淀みなく清浄の一途だよ」
「同感だな、何と言っても超高校級の”巫女”が座す空間なのだから」
「ボクも、こんなところで風紀委員かっこ笑い謹製のやっすいコーヒー啜ってる暇があったらあっちに行きたいのになあ……。他でもないまりんさんの頼みとはいえ、流石に一時間も傍に居られないってなるとそろそろボクの我慢も限界っていうか」
「……随分と、堪え性が無いのだな」
「あはっ、それキミが言っちゃうんだ」
「僕は、離れていても耐えられる。離れている時間、互いが互いに相応しい存在である為の修練を積んでいると考えれば何ということはない」
「――互いが互いに相応しい、かあ。ボクはそんなこと考えてる暇があったらちょっとでも触れていたいんだもん」
「なッ……破廉恥ではないか白昼堂々ッ」
「舐めるのと突起責めがいたくお気に入りらしい風紀委員長さまにそんなこと言われてもねえ」
「ッちょ、狛枝先輩……ッ!」
「白雪ちゃんときどき下着が擦れるの辛そうなんだよ、ってまりんさんが言ってたよ。――あのさあ、高校生のうちから妙なプレイに拘泥してると後が怖いよ?」
「その一点に関しては完全にブーメランであると指摘したいッ! 僕が何度校内巡回の際にお二人を見て見ぬ振りしてきたのかご存知ないからそのような戯言をッ」
「あー、あれは回ってきたのがキミだって分かってたから特に声も何も抑えなかっただけだよ、他の誰かになんて感付かせたこと一度も無いって」
「は?!」
「当たり前でしょ、ボクがその辺手抜かりするような愚か者だとでも? 幾らゴミクズだって愛しい天使の最大のプライベートを他人に晒すだなんて在り得ないよ、正気の沙汰とは思えないね」
「――……は、話を、戻そうではないか」
「ん。まあ、つまりさあ…たとえボクがまりんさんに相応しくないって客観的に判じられたとしても、当のボク自身がまりんさんを手放す気が毛頭ない以上その判断って決定的に無価値な訳じゃん。絶望的に塵芥以下の議論なんだよ、そもそもがさあ。素直になったらいいのに、キミだって実際そうでしょ?」
「……むぅ」
「勿論まりんさんに嫌われたりはしたくないから、幻滅されない程度の自分磨きくらいはするけどさあ…それだって、隣にいつも彼女を置いておくのはもう規定事項なワケ。有り体に言うと、ボクにとってまりんさんが視界に居ないすべての時間には意味が無くて、まりんさんに触れていられるすべての時間は常に絶大な意義を有しているんだ。――あ、勿論例外として、たまには初々しいデート気分を味わいたいなーなんてまりんさんが可愛いこと言って来たりしたら、待ち合わせごっこくらいはわくわく出来るかも知れない、かな」
「……秋月先輩はたいへんな人物から愛されてしまったのだな。心中拝察する」
「できないよ、キミなんかにまりんさんの欠片だって察せるもんか。――ああ、天使級に可愛らしいってことくらいは分かるかもしれないな、あれだけ隠しようもない輝きなんだもの!」
「ふむ、僕にはまだ無糖は少しばかりつらいようだ」
「興味なしかい。……いや、まあ興味持たれるほうが困るしいいんだけどさあ――ん、あれ? あれあれ? まりんさん、なんで牛乳なんか」
「お嫌いでいらっしゃるのかね」
「少なくとも進んでは飲まないかも。あ、でもこう…渋々苦いの堪えながら白いのを飲み下す、ってさあ、……ふふ、イイよねえ」
「ッな…、先輩は先刻から少々自由過ぎやしないか!」
「えー? ボクはただ頑張って牛乳飲んでるまりんさん可愛いなって言っただけなんだけどなあ。……アレだよね、石丸クンも大概むっつりだよね」
「見え透いた嘘をぬけぬけとッ! そんな好色そうな顔をしてよくも口に出せたものだn「やだなぁもう委員長ったら口に出すとか絶望的に卑猥じゃん」あああああ違う! 僕の選語に他意は一切無いッ!」
「……落ち着きなよ、ほら。有栖川さんでも見て」
「う、……白雪、」
「ボクにとっては何時如何なるときでも唯一まりんさんがプライオリティ・ナンバーワンなんだけどさぁ、…まあ、有栖川さんも一般的見地からしたらおかしいくらいに綺麗だよね。ボクのフィルターに掛かっちゃあ残念ながら霞んじゃうけどさ」
「霞んでいて頂けて有難いさ。ああも容赦無い美しさを湛えていなくとも良いのでは、と常々思う」
「ふうん。――で、口に出してるんだ」
「出していないッ!」
「祝詞だの講話だのと清らかに動くあのお綺麗な口の中に出しちゃってるんだ?」
「ッ何、そっちか……否、なんでもないッ」
「(出してるんじゃん…)」
「――止めよう、措こう、この話題は」

「……まあ、でもさあ。石丸クンって大変なんだろうなとは思わなくもなかったりするんだよね。否、ボクからすれば所詮は他人事ではあるんだけどね? ただ好奇心には抗いがたいと言うかさ」
「な、……何か可笑しいことでも」
「別に? ただ、――石丸クンが有栖川さんを、っていうの、なんか意外だなって」
「!」
「ちょっと、女子に向かってそんな敵意剥き出しにしないでよね風紀委員長サマがさあ…ほら、深呼吸深呼吸。そうじゃなくて……ほら、何て言うか、キミみたいなタイプってもっと手の掛け甲斐のある、それこそもっと隙のあるタイプとかのほうが横に置いてて似合いそうだし好きそうだなって勝手に思っちゃってたや。ボクとまりんさんが惹かれ合うべくして惹かれ合ったのと比べて、キミと有栖川さんってこう――確固とした別個として立ってる感じがして」
「……成程、分からん」
「これ以上ないくらい噛み砕いてあげてる心算なんだけどなあ。まりんさん以外の為に使ってやる時間も心のキャパも持ち合わせてないボクが、わざわざキミなんかの為にさあ。――いや、手応えないんじゃない? って」
「て…手応え、とは?」
「見たところ見事なB65だしさぞかし手元が寂しかろうなあと「そんな事は無いッ、大切なのは形と柔らかさと白雪自身の反応なのだから僕は何ら不満など持ち合わせn」――というのは冗談として「……ッ!!!」、あの…大丈夫? 頭。

――察しがよくて、立ち回りも卒が無くて言い回しも誤解を生まない程度には丁重で、且つ艶めいた含みもあって。キミに弱みのひとつも見せない、かといって人間味がないわけではなくキミの重荷にならない程度の甘え方を心得ている。これはボクの私見だけどさ、石丸クンって多分、有栖川さんとロクに衝突したこと無いでしょ? というか、揉めた事ないんじゃない?」

「――……驚いた。先輩はエスパーだったのか」
「どやです! って、キミたちのクラスの国民的アイドルさんなら言って寄越すところだろうね。そうじゃないよ、ほんの少し観察していたら分かる事さ。
 ボクは、まりんさんの天使のような容貌も天使そのものの内心も全部ひっくるめてそりゃあもう徹底的に、網羅的に、希望どころか希求するレベルで愛してやまないけれど、それでも少しは――ほんとうに微々たるものだけれどね――すれ違うことだってある。まあ大抵はボクの詮無い嫉妬かまりんさんの可愛らしいこと天使の如しな焼きもちが原因なんだけどさ。前にも言ったけど、まりんさんってほんと人が好いっていうか、周りの人を大事にしすぎる――あ、勿論ボクがその最たる対象であることは言うまでもないんだけどさ!――っていうか、そのくせ時々自分のこと顧みないトコあるから、結構スキが多かったりするんだよね。そもそもボクたちがこうなるに至る所以も当初そこからボクに付け込まれたような節が――勿論結果的にはそうなる運命だったんだって確信できたけどね!――あるもん。ボクはさ、そういうところ含めてまりんさんのこと愛してるし、他の奴らから彼女に向けられる如何なる矢印だって持てる幸運ぜんぶ注ぎ込んだってクラッシュしてやる気概でいるけれどさあ……あは、ボク当人は、これからもまりんさんのそういう隙に付け込んでいく気満々だもの。――そこいくと石丸クンは、そのへんワンチャン望めなくって可哀想だなって。ご愁傷さまだよねーって、言いたかっただけ」
「済まない、途中に挟まれる惚気が頻繁過ぎて殆ど話の本筋を追えなかったのだが!」
「要約すると『有栖川さんってものすごく手出ししにくいんじゃない?』と」
「ああ、成程」
「あっ下ネタは要らないからね! 昨日も手出ししたしなんなら中にも出したとかそういうのほんと求めてないかr「ああああ聞こえない僕は聞こえないぞ77期の常識人癒し成分と名高いあの秋月先輩の交際相手がこんな異常性欲者だなどと僕は信じないぞ!!」――あはっ、カッコまりんさん限定で、って付記しておいて欲しいなあ。異常性欲者同士いがみ合わないで行こうよ?「括らないでくれたまえ!!!」」

「……最早僕は先輩を異性だと認識することを辞めようとすら考えている」
「別にそれでいいよ? キミからどう思われていようと害も利も無いしね。何ならまりんさんのパートナーだってだけ覚えておいてくれたら」
「了解した――んん、」
「どうしたのさ行き成り。……あは、盛り上がってるねえ有栖川さんとまりんさん。でも残念、もう暫く向こうには行けないかな。お願いされちゃったからね」


「はあ、……僕と秋月先輩の身長差が如何わしい行為に及ぶのに適している、と。」


「は?」
「――白雪、それを彼女に伝えて何かきみが得でもするのかね。……発言の意図を、あとで問い質さねばならないな」
「……え、何。キミじゃなくて有栖川さんの発言なんだね、今の。

――って、え、……分かるの? 何で?」
「なに、任せておきたまえ。何せエスパーだからな」
「今更合わせてこなくていいってば、ねえどうして分かったのさ、何気に気持ち悪いんだけど」
「狛枝先輩も、秋月先輩が仰っている事ならこの位置からでもお分かりになるのでは」
「いや生憎とボクってゴミクズながらに一応は人間だからさあ……そんな変態的スキルは身に付けてないや。というか平生こんなにまりんさんと離れているときって無いし」
「僕には大体分かる。……僕にとって、彼女はこの位置でも十分「至近距離」であると心得ているからな」
「え。やだきもちわるいこの風紀委員…まりんさんに近寄らないでね触ったら爪の一枚二枚じゃ済まさないよガチで」
「秋月先輩が仰っている事は僕では分からないぞ? 白雪だから、意識するとせざると追ってしまうし、追いきることが出来るのだから」
「当たり前だよボクのまりんさんそんな熱視線に晒させてたまるかっての。でも、へえ……有栖川さん面白いこと言い出すねえ。ま、ボクのまりんさんが誰をも魅了し得る大天使だということは今更言うようもないんだけど、一億歩譲ったってそんなif、可能性すら存在し得ないよ」
「ああ、まっこと同意だな」
「だってボクとまりんさん、未来永劫輪廻転生の果てまでも赤い糸で雁字搦めで息も出来ないくらい絡み合ってる一対だし。もしパラレルワールドなんてものがあったとして、そこでボクとまりんさんが結ばれていないのだとしたらそんな世界は虚構だって一瞬で論破出来ようものだよ」
「そうか、先輩はそのように考えるのだな」
「あれあれ、同意ってわりにもしかして石丸クンは違う感じなの?」
「うむ、――僕は、そもそも「もし」などという仮定に意味はないと考えている」
「……ん?」
「輪廻転生という概念を否定する訳ではないし、もし何々だったら、という仮定はある種学業においても必須の思考法であることは理解している。――だが、今この僕が生き、知覚することが可能なのは今のこの世界だけなのだから、そもそも考え込む気が起きないのだ」
「へえ、熟考の渦であっぷあっぷしてるイメージしかない石丸クンのくせに、面白い事考えてるんだ?」
「だからこそ、僕は。――この世で、彼女を……有栖川白雪を、決して、離さない」
「それはボクだって同じだけどなあ。生まれ変わってもずっと一緒だし他のどんな世界でどんな転生を遂げたとしてもボクとまりんさんは永久に一対だけど、だからってそのひとつひとつの繋がりは画一されない。ぜんぶボクの愛しい希望だよ」
「先刻、狛枝先輩は白雪が手出しし難いと仰せだったが、――実はそうでもないのだ。彼女とてごく普通の、恥じらうときには頬を上気させ、慌てるときには密かに冷や汗を流し――騙されるときには純朴さを絵に描いたように邪気のない顔で、僕の望む方向に折れてくれる」
「へえ、……?」
「遠く思えることなど、彼女を慕い続けて幾星霜。ただ、彼女は非という非がないという以上に――完璧で、在ろうとしてしまうから。何時でも泰然と笑みを湛えていて、クラスではさながら同級の徒にとって姉のような一種自律していた存在、表向きには清廉潔白且つ一点の穢れもなき巫女、そして僕の前では理想的でどこまでも愛らしく慎ましい、それてでいて自分の足で確りと立っているような、「この先」を思わせてくれる最愛のパートナーとして」
「ん、そうだろうね」
「――僕は、それが崩れてしまうのを待ち望んでいる」
「大きく出るじゃない」
「有栖川白雪が、希望ヶ峰学園78期生のひとりでなくなり、また、全国に有数の信者母体を所持する宗教結社の”巫女”でもなくなり、――ただの、有栖川白雪として、僕のもとまで降りてきてくれるのを、待っているんだ」
「……そうなったら、どうする心算?」
「もう、手放すことはない。――今でさえ、相当赦しているのだからな」
「逆じゃないの? キミが許して貰ってるんでしょ」
「そのような事ではなく。ひとたび捕まえたのなら、そのときにはもう一切の手加減も手心も加えてやるまいと考える。彼女に逃げる場も、逃げる猶予も、理由も、与えてはやれないな」
「ぷっ…お世話して貰ってる身で何を偉そうなコト言っちゃってるんだか」
「今はそれでいい時期なんだ。――堪え性が無く、融通が利かず、些細な事で動転し彼女に泣き付いてしまうような、おおよそ勉学と鍛錬と潔白さ程度にしか身を立てられるもののないような「仕方のない」僕だからこそ、白雪は今のまま接してくれているのだからな」
「あは、分かってるんだ」
「だから、今は、これでいい。白雪が、”巫女”である自分に見切りをつけ、希望ヶ峰で此処まで築いて来た彼女の在り方に未練を無くすまでは、僕はただ学生の本分を十分以上に全うして待つだけでいいのだ」
「――えー、やだ。なんかボクと同じニオイがしてきた気がするんだけど。やだなー、ただの熱血単純バカだと思ってたらもっと気持ち悪い別の何かなの?」
「ハッハッハ、先輩と同格などと畏れ多い! 僕はただ、来世も仮定の世界も受け入れられる器が無いからこそ、現在の有栖川白雪ただ一人に執着せざるを得なくなっただけだというのに。何も特別な趣味嗜好がある訳ではない、なにせ僕の存在ひとつで白雪が現在の自分を保てているのだから安いものだろう」

「……はー、道理で有栖川さん有栖川さん言ってる割に成績が落ちないんだね。ホラよく言うじゃない、恋愛にかまけてると脳の作用が云々で勉強手に付かないーとか。まあかくいうボクもまりんさんも追試留年なんかの話には縁遠いけどさ」
「俗説に当て嵌められるほどにはこの風紀委員、落ちぶれていやしないぞッ! 学生とは勉強のプロであるべき、然るに風紀委員たる僕がその本道を見誤ってはならないというのだ。――というのも勿論だが、次位につけている存在の為にも僕が堕落する訳にはいかない、という意地めいたものも否定はし難いな」
「っふふ、あれだけ一貫してワンツー飾ってるところからの一位二位逆転とか格好の笑いものだもんねえ…絶望的だよ、ああでもそうなったら気持ちよく腹抱えて笑ったげるから安心してよ! まりんさんと一緒に二年のフロアまで成績掲示見に行ってあげるね」
「きっとそんな折にも貴方と違って秋月先輩は笑わないでいてくれるに決まっているッ!」
「あーそれは当然。まりんさん天使だし。でもさあ…多分そこでガチ慰めが入ったら入ったでこう、却ってクるものがあると思うな」
「…確かに、いっそ笑ってくれと懇願してしまいそうだ……」

「あーーやだ、この切り替えの早さ怖い。石丸クンさっきのどろっどろした気持ち悪い耽溺スマイルどこ遣ったのさ、視線でひとに干渉できるならさっきの有栖川さん完全によだれまみれになってたよ多分」
「ッな、狛枝先輩ッ! 卑猥な妄想で僕の白雪を穢さないで頂きたい!!」
「煩いなただのヤンデレの癖に。男のヤンデレとかほんと誰得だっての…もっとボクたちみたいに純粋に一途にときどきちょっぴりエッチに愛し合えないの?」
「済まない、よく聞き取れなかった!」
「あー、結構地の部分はイイ性格してるんだねこの無駄スペック搭載チンパンジーは……」
「ふん。地も何もオープンに倒錯的狂愛を注ぎ続ける超高校級の異常性欲者にだけは決して言われたくない科白だな」
「カッコまりんさん限定で、なら喜んで拝領したい二つ名かな!

――あ、ちょうどぴったり一時間だ! まーりんさぁーん時間だよぉー! はいサンルーム開錠―!」
「……なんと俊敏な脚力をお持ちなのか…。さて、あちらも随分と楽しげだったようだが、一体何処まで話は進展したのだろうか」



「両想いですわね」
「両思いだねぇ」



ああん?
あんかけチャーハン?

「――ほう、今夜こそ偶然当たったと装い用途を知らないていで動くこけしを持ち出す頃合いだという事かね」
「石丸クン怖いよさっきのカオ出ちゃってるよ、あと一年くらいその顔しまっとくんでしょ、ホラ!」
「む、不覚」
「まあボクもまりんさんのあたふた劇場をがっつり堪能させて頂く心算なんだけどね!」


「――それは違うぞ白雪ッ!」「それは違うよまりんさん!」



 ――未来永劫、その存在だけが十全で。如何なる世界で、如何なる運命を辿れども頑丈な、彼女の「幸運」と云う名の鎖で幾度も惹かれ合い結ばれる。
 途方もない話を、きっと確かであると信じる――否、確信しているその姿は、最早病むという括りすらも甘いように感じられる。強いて言うなら、狂っている? 倒錯している? そうして、彼女の直ぐ傍らにてまるで何も知らないのかと錯覚し掛けるほど自然に、赤面して泣いて笑ってと感情を発露させていると見ゆ想い人さえも、突き詰めて考えれば明らかに普通ではないのだろう。この、日々滾々と溢れて枯れることを知らぬ重厚な愛の泉を一心に受け、一滴も零さず飲み下し続ける想いの器は、きっと泉の奥底に眠るそれと同じ素材で出来ている。

 確かに、秋月先輩の心中など察せようも無いようであった。何せ、よくよく考えればちっとも「たいへんな人物に愛された」訳では無いのだから。ご愁傷さまだ、とさえ思ってしまった僕は、先輩の言葉通り何も分かっていやしなかったのだ。きっと、否、言葉を借りるのであれば「決定的に」、秋月先輩もまた、望んで愛し、愛されているのだ。
 彼女たちは正しく、出逢うべくして出逢ったふたりなのだと、分かった。



 堅物で、純朴で、世界で一番ウソや裏などと縁の遠い人物――という、ポーズ。而して、其処にある感情には嘘偽りのひとつもない。彼は日々心から、愛する彼女の施しに感激し、感涙し、また愛を深めていく。予想以上に手が早いのも、そういえば艶事に際し彼が醜態を晒したなどという話を聞かないのも、――あれだけ懸想を拗らせておきながら彼の日常行動にひとつの支障すら出ていなかったのも、それですべて説明が付く。
 きっと自分たちと同じく彼もまた、彼女に出逢ったその日から、彼女のために――否、自分が彼女と結ばれるために、生きているのだろう。惹かれ合うべくして惹かれ合おうという強い意志――彼は殊にそのスペシャリストなのだから!――が、今の彼を作っている。そして恐らくはさきの発言に微塵の虚飾も無いというのであれば、彼女が自由を満喫できる――ひとつの可能性としては、早期に彼の内心たる愛に煮詰まった独占欲だの妄執だの、というところに気付き何らか逃げを打てる――最初で最後の時間も、既にリミットは切られているだろう。

 愛するひとに愛されてあたし今日も幸せよ、なんてふわふわ笑っている有栖川白雪さん、キミの傍らで損得計算のひとつも知りませんみたいなカオして突っ立ってるそこの風紀委員さん、ほんとはすっごく危ないひとだよ。逃げられるなら逃げちゃってもいい気がするよ――まあ、もう、無理なんだろうけどさ。


・並走する思春期の純愛ジャンキー

20131227

 くるおしいほどじゅんすいに、きみだけをあいしているよ。




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