笑顔が下手な女
そいつの印象は、無表情でドライ。
あとブラコンっぽい。
突然変な発言をするから、ふざけてるのか真剣なのかも分からない。
とにかく、何を考えてるのか、俺には分からない。
第 3 話
自分でも予想外だったが、俺は白ひげ海賊の一員となった。
親父を始めとするクルー達はみんな本当の家族のようで、俺は既に居心地の良さを感じていた。
ただ一人だけ、ちょっと苦手なやつがいる。
もちろん大きな船だから、合うやつ合わないやつはいるが、それとはまたちょっと違う。
晩飯を食いに食堂に行くと、厨房のカウンターに、そいつはいた。
並ぶクルー達に夕食を手渡しながら、相変わらずの無表情だが、皆と会話を交わしている。
エリナだ。
こいつが、俺の苦手なやつ。
親父に船に乗せられ、不貞腐れている俺に、唯一食ってかかってきた女。
後から知ったが、クルーではなくてコック兼雑用係らしい。
「お、おっす。」
「おっす。」
自分の番が回ってきたので、何とか挨拶をすると、エリナはやっぱり無表情。
真っ直ぐこっちを見るもんだから、ドギマギしている心臓が跳ねる。
そういえば、エリナに怒られて以来、話すのは初めてだ。
「大盛り?」
「え?」
「いっぱい食べるんでしょ?」
そう言って、予め飯の盛られていた皿に、大雑把に量を増やすエリナ。
チャーハンだ。
別の皿に、キャベツの千切りと唐揚げが盛られており、そこにも唐揚げが追加されていく。
「何で知ってるんだ?」
「何が?」
「俺が大盛りにしてくれって言うって。」
「お兄ちゃんが。」
またお兄ちゃんかよ!
どうもこいつが"お兄ちゃん"と言う度にイラッとする。
この無表情で淡々とした態度の割に、兄のことは大事に思っているみたいだ。
「はい。」
ずいっ、と皿を押し出し、俺の手元に寄せる。
皿いっぱいに盛られたチャーハンと唐揚げを見て、俺は咄嗟に口を開いた。
「あ、あのよ。悪かった。色々してくれたのに、その、怒鳴ったりして。」
エリナが作業していた手を止めて、俺の目をじっとみる。
謝っておいて目をそらすのもどうかと思い、その目を見つめ返すが、どうも居心地が悪い。
こいつは無表情で何を考えてるのか分からないし、あまりに真っ直ぐにこちらを見るから、息が吸いづらくなる。
「いいよ。何とも思ってないから。」
エリナはそう言って、ちょっとだけ目を細めた。
唇がきゅっと結ばれて、僅かながら上がる。
これは……
「なあ、もしかして今のって、笑ったつもりか?」
「はい?つもり?笑ったんですけど。」
失礼ね、と、今度は口角が下がり、益々目を細めるエリナ。
行った行った、とおたまを持っている右手をパタパタさせる。
最初に感じた冷たい印象は、いつの間にかちょっと溶けて、今度はぶっさいくな笑顔が頭から離れなくなった。