ali / だって、 | ナノ

28

太陽が水平線に沈み、外が暗くなると同時に、船に装飾されたライトがキラキラと輝きだす。
テーブルに所狭しと並ぶ、サッチが腕を振るった料理達は、いつもと違ってオシャレに盛り付けられたものばかり。
女心の分かるコックで良かったと、初めてアイツに感謝した。
つまり今夜は俺の誕生日の宴会ではなく、俺の誕生日を兼ねた、エリナの為の宴会なのだ。
エリナとミラ以外の全員が、今か今かと甲板で彼女達を待っている。

「おい、足音しねぇか!?」

「しっ!静かにしろ!」

「お前が静かにしろよ!」

「いや静かなのもおかしくないか!?」

遠くで二つの足音がして、クルーがひそひそ声で話し始める。
かなりの人数がいるもんだから、言わずもがながやがやし出す。
呆れてため息をついた時、ドアが開いて、先にミラが顔を出した。
ミラがニコッと笑うと、クルー達が一斉に押し黙る。

「なんか静かじゃない?皆は?」

ミラの後ろからエリナが顔を覗かせた瞬間、クルー達がここぞとばかりにクラッカーの紐を引いた。

「「「「「エリナ!ハッピーバースデー!!」」」」」

「え!?なに!?」

うるさっ!!!と顔をしかめるのがエリナらしい。
ニヤニヤするミラがエリナの肩を掴んで、甲板に引きずり出した。
気まずそうに俯くエリナを見て、俺はバカみたいに口を開けて突っ立っていた。
他のクルー達もそうで、エリナの姿を見た者から静かになっていき、そしてワッとまた歓声が上がる。

「お前ほんとにエリナかよ!?」

「馬子にも衣装ってこのことかー!?」

口々にそう褒め称え、エリナはあっという間に男どもに囲まれて見えなくなる。
俺は出遅れて立ち尽くしていたが、それよりもぼんやりと脳裏に焼き付いたエリナの姿が離れなかった。
最初は戸惑い気味だったエリナの小さな声が、徐々に大きくなって嬉しそうなものになって聞こえてくる。

「なぁエリナ、お前そんな靴じゃ恥ずかしいだろ?」

サッチの声がして、ハッとした。
人集りが割れて、ガタイのいいサッチの陰から、見慣れないウェーブの髪や、ワンピースの裾が見え隠れする。

「ほらマルコ、生きてるか?」

「あ、あぁ……」

サッチの悪そうな笑顔に突っ込む余裕もなく、目の前に突き出されたエリナを見下ろす。
サッチがエリナの背中を押して俺に近づけるが、反射的に俺が何歩も下がるので、エリナは戸惑って何度も俺とサッチの顔を見比べる。

「え、なに?なにこれ?」

不安そうなエリナを、頭の先から爪の先まで目に焼き付けた。
ふわふわと巻かれた髪に、ナチュラルに施された化粧、ノースリーブのワンピースは膝より少し上の丈で、エリナがサッチ達を振り返る度に緩やかに広がる。
足元はサイズの合ってないビーチサンダルのようなものを履いていて、ミラにとりあえず履かされたんだなと思った。

「誰かさんは私が可愛くて声も出ないみたいね?」

エリナが踏ん反り返って、細い腕を組んだ。
自らの二の腕を抱え込んだ、その落ち着かない指先に、このむず痒い空気を茶化す、エリナなりの精一杯の強がりなんだと思った。

「あぁ、喋らなければ可愛いのにねい。」

「ちょっと!」

左手で頭を雑に撫でると、髪が崩れる!と嫌がるエリナ。
エリナの口からそんなセリフを聞いたのは初めてだ。
俺は自分の背後に回していた右手を、エリナの前に差し出した。

「ほら、やるよい。」

「え?」

右手に握っていたシンプルな黒い手さげの紙袋に、白い文字でブランドの名前が書かれている。
そのブランドが有名なのかは全く知らないが、ミラに相談した時は、彼女は大層羨ましがっていた。
エリナは戸惑いながらその紙袋を受け取り、後ろにいるクルーに急かされて中身を取り出した。

「これ……!」

エリナの目がキラキラと輝く。
大きく開いた瞳に映っていたのは、エリナが島で欲しがった、あの青いハイヒールだった。

「エリナ、誕生日おめでとう。」

歩み寄って、その手に抱えた青いハイヒールを取り上げると、エリナはキョトンとして俺を見上げる。
そのままエリナの前に跪いて、ヒールを彼女の足元に揃えて置き、彼女の左手を持ってやれば、エリナは見る見る内に真っ赤になった。

「履かないのかよい?」

しばらく口をパクパクさせているので、そう声をかけると、エリナはハッとした顔をした。
後ろでクルー達がまた急かし始める。

「こ、こんなことしてくれなくても履けるのに……」

何とも居心地の悪そうな、しかし嬉しそうにヒールを見つめるエリナが、片足ずつヒールに足を沈めると、両足が収まる頃には彼女の背はグンと高くなった。

「わぁ……!こんな靴初めて……」

ワンピースの裾を少し持ち上げて、何度も足元を見つめるエリナが、無邪気で可愛いと思った。
仕草も雰囲気もエリナそのものだが、それに反して見た目は少女ではなかった。
丸っこかった手も脚も、スラッと伸びて滑らかな曲線のようだ。
むき出しの二の腕やふくらはぎには、俺たち程ではないが傷痕がいくつかある。
その傷痕の全てを、いつ何処でついた痕か、俺は全て覚えている。

クルー達がエリナを褒めるから、エリナは慣れないヒールで危なっかしく回って見せたりして、皆を沸かせた。
適当なところでサッチが「飯にしよう」と手を叩いた時に、俺を振り返って笑って駆け寄ってきたエリナの顔を、俺は一生忘れない。


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