ali / だって、 | ナノ

20

停泊二日目。
私が買い物にいくと言うと、サッチが付き添うと言ってくれた。
マルコは仕事があるみたいで、別れ際に一人行動をするなと念押しをされた。
昨日のナンパ(だったんだろうか)事件から、二人の過保護度が増している。

「ちょっと一人で行きたい店があるの。」

「ダメダメ!俺もついてく!」

「いやでも……下着買いたいんだけど。」

私はサッチとカフェで揉めていた。
女の子には、見られたくない買い物もある。
それが正に今で、私は下着を買いに行くと行っているのに、サッチは恥ずかしくないのか、ついていくと言い張る。

「ほら、あそこもカップルで見てるじゃん!問題ないって!」

「いや私が嫌なんだけど!?」

カフェの斜め向かいの店を指差して、サッチが言う。
カップルと私達では訳が違う。
そもそも、ちょっと可愛い下着が欲しい、なんて思っていたものだから、サッチに見られたくない。
こいつこんな可愛いの買うんだ、とか思われたくない。

「お兄ちゃんが選んでやるって!」

「余計やだよ!ここから見えるんだから待ってて!」

そもそも、サッチは下着が見たいだけだと思う。

「終わったら寄り道せず戻ってくるからさあー。」

兄が妹の下着を一緒に選ぶ、なんてあるわけない!
いやでも、とかごにょごにょ言ってるサッチを置いて、無理矢理買い物に出た。
店を出て振り返ると、窓越しに不安そうな顔で手を振るサッチ。
そもそも、女性の下着屋に男だけで入って悪さするやつなんているわけない。
そう思うけど、心配してくれるサッチには素直に感謝である。

店内ではセールをしていて、二つで10%オフ、三つで20%オフにするなんて言われたものだから、予想外に選ぶのに時間をかけてしまった。

(三つも買っちゃった。)

買い物を終えて、店から出る。
カフェのガラス窓から、目立つリーゼントが見える。
そのまま大通りの道を横切っていると、前方にきょろきょろと戸惑っている様子の青年。
どうしたんだろう、と思って視線を向けると、目が合った。

「あの、ちょっといいかな?」

ぱっ、と彼の顔が明るくなり、そして直ぐはにかんだような表情に変わって、こちらに真っ直ぐ歩いてくる。
ふと思い出した昨日の青年よりは、少し年上に見える。
誠実そうで、正直かっこいい。

(またナンパ?そういえば最近可愛くなったって言われるし……いやでも、そんな二日も続けてナンパだなんて……)

「なんでしょう。」

なんでしょう。だけ声に出したつもりだ。
その前の思いは、声に出ていないはず。
にこっと笑って、心の中の表情は押し殺した。
いつから私は、こんなに外面が良くなった。

「道を聞きたいんだけど……」

男性は困ったように笑いながら、右手に持っているメモを私に見せた。
白いメモ用紙に、この島で有名な大きな店の名前と、外観の特徴が書かれている。

「……あ、それならですね、」

おぃぃぃぃいい!
ナンパじゃなかったぁぁぁああ!
恥ずかしくて顔が熱くなるのを感じながら、知っている店だったので案内しようとした。
その時だった。

「何してんだよい。」

聞き覚えのある声に振り返ると、そこには険しい顔をしているマルコがいた。
待て待て。
これまた、ナンパされてると勘違いしてるんじゃないだろうか。
私だけじゃなく、この人も勘違いしているというのか。
揃いに揃って、おめでたい海賊団である。
恥ずかしさで火照った顔から、熱がさっと引く。

「いやあの道案内をですね、」

慌てて何故か敬語になる私を他所に、マルコは男性のメモを覗き込む。

「ここなら、ちょっと歩くがこのまま真っ直ぐだよい。」

「ありがとうございます!」

男性は人の良さそうな笑顔をマルコに向けて、私にも会釈をして去っていく。
何も悪いことしてないのに、背後に不機嫌オーラを感じて、振り返ることができない。

「あのー、」

「サッチは?」

ちらっとマルコの顔を見ると、不機嫌そうなまま、また目も合わせてくれず。
私は無言でカフェを指差した。
こちらに気付いたのか、サッチは店から出てくるところだった。

「ご、ごめん!大丈夫か!?」

「あのなあ、お前なんのためにエリナに付き添ってんだよい!」

「いやだって下着買うからついてくるなって言われて……!」

サッチは悪くない。
しかしそれ以前に、あの人は道を聞きたかっただけなのだ。
そこまでマルコがピリピリする理由が分からなかった。

「道聞かれただけだよ。」

「ほぉー。じゃあ何赤くなってたんだよい。」

いや、そこから見てたんかい。
恥ずかしいわ!

「あー!もー!ほっといてよ!なんでマルコ怒ってるのか分かんない!」

モヤモヤがイライラに変わり、そう声を荒げて、私はサッチの手を掴んで歩き出す。
後ろからサッチが、おい!とか、ちょ!とか言ってるのが聞こえるが、歩みを止めずズンズン進む。
マルコが追いかけてくることはなかった。



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