19
サッチと八百屋にいた私は、外を眺めている時に、店の前を通った荷車から荷物が落ちるのを見つけ、届けようと外に飛び出した。
すぐ帰れると思っていたのに、荷車は案外速く、追いついた頃には街はずれの人気のない場所まで来てしまっていた。
落し物はなんとか届けることができたが、今はとても困ったことになっている。
サッチ、本当にごめん。
私は今、生まれて初めての貴重な経験をしています。
「ちょっとお姉さん、聞いてる?」
「いや、あんまり聞いてないです。」
「はあ?だからー、遊びに行こうって。」
これが、ナンパというやつだろうか。
私の前には、私と同年代ぐらいの青年が二人。
私の行く手を阻むように立ちはだかっている。
「人を待たせておりまして。」
「ツレ?女の子?」
「いや、えーっと、兄です。」
お兄さんかー、と青年がにこにこ笑う。
体の線の細い、中性的なイケメンさんで、海賊にはいないタイプだ。
いや分からないけど、少なくとも白ひげにはいない。
無理矢理寄せてハルタ辺りだろうか。
強いて言うなら、だが。
「ちょっとぐらい、いいんじゃない?」
「いやいや、お兄さんに締められるの俺嫌だぜー?」
もう一人は色黒で、ちょっとチャラそうなイケメンさん。
切れ長の目が印象的。
これまた白ひげにはいないタイプ。
ノリの軽い感じだけを見れば、サッチのような雰囲気だろうか。
海賊じゃない同世代の男の子って、こんな感じなんだなあ、なんてしみじみ感じる。
「お姉さん、この島の人じゃないでしょ?見かけないもん。」
「あ、はい。」
「旅人とか?」
「まあそんな感じですね。」
「お兄さんも一緒に旅してんの?」
「んー、実は本当の兄ではなくてですね。一緒にいる仲間はみんな兄と呼んで慕ってると言いますか。」
「ふーん、男ばっかりと旅してんの?」
「まあ、大半が男ですね。一応女もいますが。」
女、というのはナース達を思い浮かべた。
海賊です、なんて言わない方がいいよね?と思いながら言葉を選ぶ。
ここは白ひげの縄張りなんだから、私は白ひげのクルーですと言っても問題なさそうな、やっぱりありそうな。
悩むぐらいだから言わない方がいいな、と踏んでおく。
「へー、じゃあお姉さん結構遊んでんじゃないの?」
「え?」
「だって、そんな男ばっかの船で何もないわけないじゃん。」
そう言われて、側から見ればそう感じるのか、と思った。
私にとって、クルーは大事な家族だ。
男として意識したことはない。
ただ奴隷として扱われていた、以前の海賊船であれば、無理矢理だったとはいえ、言われていることは強ち間違いではないのかもしれない。
「折角会ったんだから、俺らとも遊んでよー。」
「たぶん心配してるので、失礼します。」
ずっと私の前に回り込んでくる二人を押しのけて、強引にでも戻ろうとしてみる。
「いやいや、ここまで待たせてそれはないよ。」
「はあ。」
待たせた覚えなんて全くない。
ずっと断っているのに。
と言っても、理論では通じないのは分かっている。
「ここ、白ひげって海賊の縄張りって知ってるか?」
(いや私がその白ひげですけどー!)
なんて、今更言いづらい。
というか、白ひげの縄張りだということをチラつかせるなんて、言うこと聞かないと痛い目みるぞとでも言うのだろうか。
だとしたら、白ひげ海賊団をなんだと思ってるんだ。
「とりあえず歩きながらでもいいから、話そうよ。」
色黒の青年が、私の肩を強引に抱く。
ナンパにしてはちょっと悪質である。
これはそろそろ、こちらも実力行使に出てもいいかな。
どこまで正当防衛なのかな、なんて思ったその時だった。
「いてぇ!」
「え。」
振り返ると、そこには見慣れたパイナップル頭とリーゼント。
瞬間、ほっとした自分がいる。
「おめぇら、何してんだよい。」
隊長二人のお出ましだ。
マルコは不機嫌そうに眉を潜めているが、何故かサッチは半泣きである。
「俺達がその"白ひげ"だ。うちのクルーになんか用かよい?」
「え、」
二人とも私の顔を見るが、私は気まずくて目を逸らす。
私の顔は引きつっているに違いない。
だよね、こんなやつが海賊とは思わないよね。
さっきまでの威勢は何処へやら、二人は何度も謝りながらその場を去った。
「エリナ!ごめんよぉおおおお!」
「ご、こめんなさい、私こそ……」
サッチが凄く情けない顔をして、私をきつく抱きしめた。
心配してくれたのか、それともマルコが怖いんだろうか。
だってマルコは、いつにも増して無口で、怖い顔をしている。
「助けてくれてありがとう。」
「何もされてねぇかよい。
「あ、うん。」
マルコは全然こちらを見ない。<
体はこちらを向くのだが、目は合わせてくれないのだ。
「あんのクソガキ共ぉおおおお、エリナに声かけるなんて100万年早いわ!」
サッチが情緒不安だ。
泣いてたかと思うとキレ出した。
「エリナは、もう一人で出かけるの禁止!!」
「え!?」
これは、私が悪いのか?
サッチの説教と、マルコの態度を見て、そう思わざるを得なかった。
すぐ帰れると思っていたのに、荷車は案外速く、追いついた頃には街はずれの人気のない場所まで来てしまっていた。
落し物はなんとか届けることができたが、今はとても困ったことになっている。
サッチ、本当にごめん。
私は今、生まれて初めての貴重な経験をしています。
「ちょっとお姉さん、聞いてる?」
「いや、あんまり聞いてないです。」
「はあ?だからー、遊びに行こうって。」
これが、ナンパというやつだろうか。
私の前には、私と同年代ぐらいの青年が二人。
私の行く手を阻むように立ちはだかっている。
「人を待たせておりまして。」
「ツレ?女の子?」
「いや、えーっと、兄です。」
お兄さんかー、と青年がにこにこ笑う。
体の線の細い、中性的なイケメンさんで、海賊にはいないタイプだ。
いや分からないけど、少なくとも白ひげにはいない。
無理矢理寄せてハルタ辺りだろうか。
強いて言うなら、だが。
「ちょっとぐらい、いいんじゃない?」
「いやいや、お兄さんに締められるの俺嫌だぜー?」
もう一人は色黒で、ちょっとチャラそうなイケメンさん。
切れ長の目が印象的。
これまた白ひげにはいないタイプ。
ノリの軽い感じだけを見れば、サッチのような雰囲気だろうか。
海賊じゃない同世代の男の子って、こんな感じなんだなあ、なんてしみじみ感じる。
「お姉さん、この島の人じゃないでしょ?見かけないもん。」
「あ、はい。」
「旅人とか?」
「まあそんな感じですね。」
「お兄さんも一緒に旅してんの?」
「んー、実は本当の兄ではなくてですね。一緒にいる仲間はみんな兄と呼んで慕ってると言いますか。」
「ふーん、男ばっかりと旅してんの?」
「まあ、大半が男ですね。一応女もいますが。」
女、というのはナース達を思い浮かべた。
海賊です、なんて言わない方がいいよね?と思いながら言葉を選ぶ。
ここは白ひげの縄張りなんだから、私は白ひげのクルーですと言っても問題なさそうな、やっぱりありそうな。
悩むぐらいだから言わない方がいいな、と踏んでおく。
「へー、じゃあお姉さん結構遊んでんじゃないの?」
「え?」
「だって、そんな男ばっかの船で何もないわけないじゃん。」
そう言われて、側から見ればそう感じるのか、と思った。
私にとって、クルーは大事な家族だ。
男として意識したことはない。
ただ奴隷として扱われていた、以前の海賊船であれば、無理矢理だったとはいえ、言われていることは強ち間違いではないのかもしれない。
「折角会ったんだから、俺らとも遊んでよー。」
「たぶん心配してるので、失礼します。」
ずっと私の前に回り込んでくる二人を押しのけて、強引にでも戻ろうとしてみる。
「いやいや、ここまで待たせてそれはないよ。」
「はあ。」
待たせた覚えなんて全くない。
ずっと断っているのに。
と言っても、理論では通じないのは分かっている。
「ここ、白ひげって海賊の縄張りって知ってるか?」
(いや私がその白ひげですけどー!)
なんて、今更言いづらい。
というか、白ひげの縄張りだということをチラつかせるなんて、言うこと聞かないと痛い目みるぞとでも言うのだろうか。
だとしたら、白ひげ海賊団をなんだと思ってるんだ。
「とりあえず歩きながらでもいいから、話そうよ。」
色黒の青年が、私の肩を強引に抱く。
ナンパにしてはちょっと悪質である。
これはそろそろ、こちらも実力行使に出てもいいかな。
どこまで正当防衛なのかな、なんて思ったその時だった。
「いてぇ!」
「え。」
振り返ると、そこには見慣れたパイナップル頭とリーゼント。
瞬間、ほっとした自分がいる。
「おめぇら、何してんだよい。」
隊長二人のお出ましだ。
マルコは不機嫌そうに眉を潜めているが、何故かサッチは半泣きである。
「俺達がその"白ひげ"だ。うちのクルーになんか用かよい?」
「え、」
二人とも私の顔を見るが、私は気まずくて目を逸らす。
私の顔は引きつっているに違いない。
だよね、こんなやつが海賊とは思わないよね。
さっきまでの威勢は何処へやら、二人は何度も謝りながらその場を去った。
「エリナ!ごめんよぉおおおお!」
「ご、こめんなさい、私こそ……」
サッチが凄く情けない顔をして、私をきつく抱きしめた。
心配してくれたのか、それともマルコが怖いんだろうか。
だってマルコは、いつにも増して無口で、怖い顔をしている。
「助けてくれてありがとう。」
「何もされてねぇかよい。
「あ、うん。」
マルコは全然こちらを見ない。<
体はこちらを向くのだが、目は合わせてくれないのだ。
「あんのクソガキ共ぉおおおお、エリナに声かけるなんて100万年早いわ!」
サッチが情緒不安だ。
泣いてたかと思うとキレ出した。
「エリナは、もう一人で出かけるの禁止!!」
「え!?」
これは、私が悪いのか?
サッチの説教と、マルコの態度を見て、そう思わざるを得なかった。