ali / だって、 | ナノ

09

「野郎ども!出航だ!」

オヤジの声が、船いっぱいに響き渡った。
たった二日の寄港はあっという間に過ぎ、三日目は朝から準備をして、昼頃には出航と共に、早速仕入れてきた材料で作った料理と酒で宴が始まった。

天気も、オヤジの調子もいいみたいだ。
ナースを付けずに甲板で指揮を取っている。
小さな島だったこともあり、次の島までの食材や酒や消耗品の仕入れがメインの滞在となった。
私はまず、オヤジところへ酌をしに小樽を抱えて向かう。

「エリナ、もう体はいいのか?」

はるか頭上から聞こえる、お腹の底に響くような深いオヤジの声。

「うん!おかげさまで元気だよ!」

お酒を、オヤジ専用の大きなジョッキいっぱいに注ぎながら答える。<
「おめぇが体調を崩すなんて珍しいじゃねぇか。」

グララ、と笑うオヤジは、少しジョッキをこちらに突き出す。
これは乾杯するぞ、という意味だ。
お酒は宴が多いせいで、嫌でも飲めるようなった。
この後酌をして回る予定だが、とりあえずはオヤジの命令が優先だ。

「いただきまーす。」

側にあったジョッキに注いだ酒を一口。
オヤジのジョッキなんて一瞬で空っぽだ。
分かってたからもう一つ用意しておいた樽を開けて、また注ぐ。

「悪りぃな。」

「あ、寝込んでる時ね、夢にオヤジが出てきたよ。」

「ほぉ。どんな夢だ?」

ニヤッと笑って、二杯目は途中で呑む手を止めた。
私はオヤジのすぐ側に腰を下ろした。

「オヤジが私のことを娘だって言ってくれた時の夢だよ。」

「おめぇは前にもそんなこと言ってたなあ。熱を出したらその夢を見るんだろ?」

そう、その夢を見る時は熱を出した時。
それは私がこの船に最初に乗った時、凄い熱を出していたからだと思う。

「あん時もすげぇ熱だったからなぁ。」

「マルコもそれ言ってた。」

「グララララ!」

そうかそうか、と笑いながら、大きなゴツゴツした手が、優しく私の頭を撫でる。
暖かくて強い手に、とても安心する。
<
「オヤジぃ。」

「あー?」

「私はちゃんと家族になれてるのかな?」

私は未だに、ふと気づけばモビーのクルー達を傍観者として見ている時がある。
その輪の中にいる自分が霞むのだ。

「……なぁエリナよ。」

「なあに?」

オヤジは空になったジョッキを置いて、お代わりを持ってこようと腰を上げた私を引き止める。
すぐ近くにいたクルーが気づいてオヤジのジョッキに酒を注いでくれた。

「家族は何があっても家族のままだ。おめぇはずっと、これから何があっても俺の娘だ。」

「……うん。」

「みんなもそうだ。おめぇにはアニキもたくさんいるだろうが。」

「そだね。」

「エリナよ。おめぇには自覚が足りてねぇなあ。」

オヤジが鼻で笑う。
何のことかよくわからず、首を傾げる。

「愛されてる自覚さ。みんなお前を愛してる。」

「良くしてもらってるのは分かってるよ。」

「そうじゃねぇんだがなぁ……」

少しムッとした私に、オヤジは苦笑いする。

「家族に良くするもクソもあるもんか。そこがおめぇの悪いところだな。おめぇここに置いてもらってると思ってるだろ?」

そうかもしれない、と思った。
今まで家族、娘、妹だと言われて、嬉しかったし、ただ簡単に考えていた。
私の中では、モビーのクルー達は未だ「仲間」という存在に近いのかもしれない。

「ねぇ、じゃあ家族って何なのかなあ。」

「その答えを探すのが、おめぇの課題だなあ。」

そしてまたお酒を飲み干す。
私もいつのまにか、一杯を飲み終わるところだった。

「俺はなあ、家族が欲しかったんだ。仲間じゃねぇ、友達でもねぇ、家族だ。」

オヤジの言葉が頭の中に響く。
ねぇ、家族って何?
だって、私家族なんて居たことない。



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