ali / だって、 | ナノ

08

「可愛いー!靴下買い溜めしちゃお!あ、そのポーチも可愛いー!」

可愛い可愛い、とあちこちを見て市場ではしゃぐエリナ。
女ってのはどうして、何でも可愛い可愛いと言うんだろうか。
一々足を止めて店を覗くエリナに、歩幅を合わせてついていくだけだが、これはこれで悪くないと思ってる自分がいる。
我が子を温かく見守ってるような、ほんと気持ちはおっさんだよい。

「あっちも見ていい?」

「はいはい、お姫様。」

「ありがとー!」

"お姫様"と呼ぶと、ニヤリと悪そうに笑って、エリナが俺の手を引く。
あっち!と今度は満遍の笑み。
色んな表情をするようになったなあ、と思うと自分も釣られて笑顔になる。

「わあ……!」

あるショーウィンドの前で、エリナの横顔が綻んだ。
ガラスの向こう側には、綺麗な青色をしたヒールが高めの靴が飾られている。

「入るかよい?」

「んー、いい。」

「見るだけでもいいじゃねぇか。」

「どうせ履かないし。」

そう言いながらも、目が靴に釘付けだ。
いいなーと思いつつも、ヒールなんて自分には、とか何とか考えてるんだろうなと思う。

あーだこーだ迷って、そんなには買わないのがエリナの買い物だ。
結局、昼過ぎには片手に小さな紙袋が2つだけだった。

「お昼にしよっか。」

思い出したように、エリナはお腹をさすって苦笑いする。
すっかり時間なんて忘れてたんだろう。

「エリナが寝込んでる間に、好きそうなカフェ見つけたよい。」

「まじでー!?マルコ流石!!」

昨日見つけたカフェに、エリナを連れて行く。
前を通った時に、コーヒーのいい匂いがしたのを覚えている。
外見も可愛らしく、女子が好きそうな雰囲気だ。

「やば、シャレオツなんですけど。」

エリナも例外ではない。
目を輝かせているところを見ると、エリナもやっぱり女の子だと思う。

「ねぇ、どれにする?私もう決まったよ。」

「へぇ、早いな。どれだよい?」

「これ!だって限定だよ?」

"限定"という言葉にも弱い。
こんな風に穏やかな時間を、二人だけで過ごすなんていつぶりだろう。
大きくなったなあ、なんてまた、おっさんみたいなことを思った。
出会った頃の、虚ろな目の少女はもういない。
側から見れば、以前なら完全に兄妹だったろうが、今は恋人同士にでも見えるだろうか。

(なーんて、ねい。)

「ねぇねぇ、」

注文し終えて、一人バカみたいなことを考えている俺に、エリナが顔を近づけて声をひそめる。

「私達って、カップルに見えるかな?」

「ばっ……!」

いつものくせで、バカ!といいかけた。
心を読まれたようでドキッとした。
焦る俺を見て、エリナはニヤニヤしている。
こいつ、からかってやがるな……

「兄妹ってところだろーよい。」

「えー?もう私も大人だよー?」

「エリナはまだまだクソガキだよい。」

鼻で笑ってやると、エリナは明るい声で笑っていたが、横目で見た時はちょっと気まずそうに俯いていた。

(なんでそんな顔するんだよい。)

「マルコ……うんちしたい」

俺は無言で店内の奥を指差した。
そんなことは言わずに行けよい!!



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