つと、指先で手の甲を撫でられる。たったそれだけのことで震えた身体は、腰に回された腕に押さえ込まれた。
さっきから、なにかがおかしい。ただ後ろから抱き締められて、形を確めるように丁寧に手を撫でられているだけなのに、胸がざわついて落ち着かない。
睫毛を震わせて、ちさきは紡を見上げた。

「紡……もう」

「嫌?」

「嫌とかじゃないけど、くすぐったい……」

うっかりすると変な声を上げてしまいそうで、抑えた声での抗議は消え入りそうなくらいか細くなった。
しかし、紡の手はとまらず、今度はすりと指の股を擦られる。紡、と咎めるように名前を呼ぶが、もう少しだけ、とねだるように耳元で囁かれて、なにも言えなくなってしまった。

手も紡の顔も見ていられなくて目を逸らす。触れられたところから這い上がってきた感覚が吐息となって口から零れた。
いったい、これはなんなのだろう。こういう関係になってから、紡から仕掛けられる触れ合いに戸惑ってばかりいるが、今日は殊更わけがわからなかった。ただ紡の指が動くたびに反応する我が身に慄くことしかできない。

「ちさきの手は小さいな」

ふいに耳元で呟かれた言葉にちさきは目を瞬かせた。
小さい。
普通なら自分に向けられることのない言葉だ。その反対の言葉なら、散々言われてきたけれど。

「そんなことないと思うけど」

「小さいだろ。ほら」

と、そっと包み込むように手を握られる。簡単に紡の手の中に収まった自分の手を見つめて、ちさきは苦笑した。

「そりゃ、紡と比べたら小さいだろうけど」

それだけの話だ。歴然とした男女の差は埋めようがないというだけ。けして特別小さいわけではない。
それなのに、何故か妙に嬉しかった。

ふと、指を絡めるようにして繋ぎ直される。
先程までは胸をざわつかせていた手なのに、こうして優しく包み込まれると、あたたかくてとても落ち着いた。

「紡の手は大きいよね。こうしてると、安心する」

きゅっと握り返すと、紡が口元に笑みをはいた。腰を抱く腕に力が込められる。
同じ手なのに、触れ方が違うだけで感じるものがこんなにも違うのだから不思議だ。どちらにしろ、相手が紡ならばもっと触れてほしくなるのだけど。
それを伝える代わりに紡の胸にもたれて、ちさきは頬擦りをした。



underに置くべきか少し悩みましたが、まあたいしたことはしてないので表に。
ちさきは紡の手が好きだろうなと思います。
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