君に決めた
緑のポケモンを追い掛け、カノコタウンの南に面する海に出た。
波が寄せる砂浜は足がとられて走りにくい。だが、それはあいつも同じ。むしろ、慣れてない分あっちの方が不利。

このカノコで、オレから逃げ切れると思うなよ!

緑のポケモンは波打ち際でジャンプして、海面から一部だけ出ている岩に飛び移った。
オレも同じように岩に飛び移ると、緑のポケモンは慌てて近くの岩に移動した。その先に、さらに飛び移れそうな岩はない。
追い詰めた。
だが、油断は禁物だ。さっきはそれで取り逃がしたからな。
緑のポケモンは振り返り、オレの様子を窺っている。オレもそいつから一瞬たりとも目を離さない。しばし、睨み合いが続く。

先に動いたのは緑のポケモンだった。蔓を利用して高く跳躍する。オレは捕まえようと、手を伸ばした。だが、緑のポケモンを捕まえたのは別の手だった。
青色のベールのようなものが緑のポケモンの足に絡み付き、海に引きずり込もうとする。

「ジャアアー!」

緑のポケモンが悲鳴を上げた。

考えるよりも先に、体が動いた。

次の岩に飛び移り、引きずり込まれないよう必死に岩にしがみついている緑のポケモンを引き上げようと掴む。
だが、相手の力が強くてなかなか引き上げられない。それどころか、オレごと引きずり込まれそうだ。足場が濡れてるせいもあって、気を抜くと足が滑る。
緑のポケモンが苦しげな声を漏らした。

「この野郎、いい加減諦めろ!」

あらんかぎりの力を込めて、青い触手を蹴った。短い悲鳴とともに、締め付けが緩む。その隙に、緑のポケモンを引き上げた。

「よし、逃げるぞ!」

緑のポケモンを腕に抱え、岩から岩へと飛び移り砂浜に戻る。
背後で、明らかに波とは違う水音が聞こえた。恐る恐る振り返ると、海から青いベールのような腕を持ったポケモンが現れた。その顔は忌々しげに歪んでいる。
写真でしか見たことないが、あれはプルリルだ。ゆっくりと浮上しながら、プルリルはオレ達の方に腕を伸ばした。
前にアララギ博士が言っていた。プルリルは、ベールのような腕を相手の身体に巻き付けて、海の底まで連れていってしまうと。

冗談じゃない!
旅立ちの日に死んでたまるか!

オレは家に向かって駆け出した。と、緑のポケモンが腕の中で暴れた。

「ジャッ、タジャッ!」

「こらっ、じっとしてろ!」

オレの腕から抜け出すと、緑のポケモンはプルリルに向かっていった。蔓をプルリルに叩きつける。

まさか、戦うつもりか!?

捕らえようとする腕を避けながら、緑のポケモンはプルリルに攻撃していく。プルリルが口からあわの攻撃を出した。それを回避しようと緑のポケモンが跳躍する。その背後にプルリルの腕が迫る。
思わずオレは叫んだ。

「おい、後ろ!」

緑のポケモンは蔓で地を叩いてもう一度飛び−−所謂二段ジャンプだ−−、プルリルから距離をとって、オレの傍まできた。そして、被っていたオレのキャップを差し出した。
その態度は返すというよりは、邪魔だから預けるといった方が適切だろう。
オレのなんだけど、と思いながらも受け取り、少し濡れたそれを被る。
随分と自分勝手なポケモンだ。けど、こいつの気の強さは気に入った。

「手伝ってやろうか」

思ったまま口に出すと、緑のポケモンはオレを見上げ、短く鳴いた。
都合よく解釈すると、好きにしろってことかな。

「じゃ、早速だけど、後ろからさっきのあわが来るぞ」

ぎょっと目を見開き、緑のポケモンは振り返って目の前に迫っていたあわに草葉の旋風をぶつけて相殺した。
緑のポケモンがオレを睨み、抗議の声を上げる。

「ジャー!」

「悪い。けど、ぼーっとしてる暇はないみたいだぜっ!」

プルリルが再びあわの攻撃を繰り出した。オレ達は同時に右に跳んでそれを躱した。
緑のポケモンはまたプルリルに向かって駆け出した。
プルリルが二撃目を出そうと構える。

「またくるぞ!」

行く手を遮るあわを、緑のポケモンは素早い動きで避けていく。
プルリルが腕を広げた。

「近付いたところを狙う気だ!」

緑のポケモンがプルリルの間合いに入った。プルリルは捕まえようと腕を動かす。
しかし、寸でのところで緑のポケモンが飛び上がり、プルリルの腕は空振った。
落下の勢いを利用して、緑のポケモンはプルリルに蔓を叩きつけた。
プルリルは一瞬ひるんだように見えたが、すぐに反撃に出た。

「右だ!」

緑のポケモンは空中で身体をひねり、蔓でプルリルの腕を弾いた。
軽い音を立てて緑のポケモンは着地する。
プルリルの右腕から毒々しい液体が滴った。

「左に避けろ!」

緑のポケモンは左に跳んだ。さっきまで緑のポケモンがいた場所に毒が飛ぶ。

「今度は上だ!」

相手の攻撃の方向をオレが教え、それに合わせてあいつが動く。
出会って間もない、名前も知らないポケモンだけど、今だけは一つになったような気がした。

やがて、緑のポケモンの動きに翻弄され、プルリルにも疲れが見えてきた。

「よし! 一気に決めろ!」

「タージャ!」

プルリルめがけ、緑のポケモンが草葉の旋風を放った。
まともにくらったプルリルは、力尽きたのか砂浜に倒れた。
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