奮い立てる
ウエーターに案内されて行き着いたのは、店の奥にある扉だ。
扉の両端には、モンスターボールに雷でも落としたみたいな像があった。
像が置いてある台にはプラチナのプレートが貼られていて、そこにはジムリーダー認定トレーナーの名前が彫られていた。真ん中より少し上辺りにチェレンの名前が刻まれていて、少し誇らしい。
その下には名前がないところを見ると、一昨日チェレンが挑戦してから、ジムリーダーに勝ったやつはいないようだ。

「ここがジムです」

緑の髪のウエーターは扉を開き、そのまま押さえてくれた。
一言礼を言い、中に入る。

まず目に入ったのは、炎の柄がプリントされた赤いカーテンだ。その前に葉、炎、雫が描かれた3つの大きなボタンがあった。
異様なのはそれくらいで、あとは店内とそう変わらないように見える。
きょろきょろと辺りを見回していると、部屋の中にいたサングラスのおっさんと目が合った。

「どうも! 自分はポケモンジムに挑戦するトレーナーをガイドするガイドーといいます」

それは本名なんだろうか。本名だとしたら、親御さん、やる気ないにもほどがある。

心の中でつっこんでいる間に、緑の髪のウエーターがおっさんに声を掛けた。

「ガイドーさん、こちらは挑戦者です。えっと、名前は」

「ミスミです」

オレは軽く頭を下げた。

「ジムに挑戦ありがとうございます。記念にこれを差し上げますよ!」

ガイドーさんは人好きする笑顔とともに、透明な液体がはいったペットボトルをくれた。ラベルには『おいしい水』と書いてある。イッシュはもちろん、世界中で売れている商品だ。
礼をして、水はバックにしまう。

「あとのことはガイドーさんに訊いてください。ぼくは奥で待ってますから」

緑の髪のウエーターは優雅に一礼すると、入り口とは別の扉−−関係者以外立ち入り禁止と書いてある−−から出ていった。

奥で待ってるって、どういうことだ?
帰りも案内が必要なのか?

いくつか疑問が浮かんだが、一先ず目先のことをガイドーさんに訊くことにした。

「それで、ジムリーダーと戦うにはどうすればいいんですか?」

「まず、ポケモン勝負の基本は、タイプの相性なんですね」

そうでしょうね、と適当に相槌をうつ。

「相手のポケモンに対して、有利なタイプのポケモン、有利なタイプの技を選べば、勝利は目の前っすよね」

なるほど。なんとなく話の方向性が読めたぞ。

「ということで、このジムはカーテンに描かれたポケモンのタイプに対して、相性のいいポケモンのタイプのスイッチを踏めば、先に進めるっす!」

やっぱりな。

この部屋のカーテンに描かれているのは炎タイプ。てことは、水タイプのスイッチを踏めばいいんだな。
雫が描かれた水色のスイッチを踏むと、さっとカーテンが開いた。
フローリングに囲まれた、整備されたむき出しの地面が現れる。大きさからして、バトルフィールドになっているのだろう。
その先に、水タイプのカーテンと3つのスイッチを背にしたウエーターが立っていた。

あの人がジムリーダーか?

「あっ、言い忘れてましたが、ジムリーダーのところにいくまでに、トレーナーが2人いるっす! ジムリーダーと戦うには、そのトレーナーを倒さないとだめっす!」

後ろでガイドーさんが説明する。
そういう仕組みなのか。
今日の目的はリクがジムリーダーを倒すことだから、ジムリーダーまではタージャに頑張ってもらうしかないか。
本当はタージャの体力も温存しておきたいが、こればっかりは仕方ない。
息をつき、オレはタージャのボールを投げた。


******


ウエーターとウエートレスを1人ずつ倒し、残すはジムリーダーだけになった。
戦闘が終わったばかりのタージャに目をやる。ぱっと見疲れた様子はないが、連戦で疲労が溜まっているはずだ。
ガイドーさんに貰ったおいしい水をタージャに手渡す。

「大丈夫か?」

タージャは心配するな、とでも言うように、鼻を鳴らした。おいしい水を一気飲みし、半分になったペットボトルを押しつけてくる。
一応、戦う元気はありそうだ。

「じゃ、あと少しだけ頼んだ」

「ジャ」

タージャをボールに戻し、顔を上げる。
目の前には草タイプにカーテンがかけられている。
迷うことなく炎タイプのボタンを踏むと、さっとカーテンが開いた。
さっきと同じように、むき出しの地面のフィールドが姿を現す。だが、その先にはカーテンもボタンもなく、代わりに一段高い台があった。
そこに上がっている人物を認め、オレは目を丸くした。
オレをジムまで案内してくれたウエーターが、台の上で柔和な笑みを浮かべていた。

「ようこそ。こちら、サンヨウシティポケモンジムです」

改まった態度で、緑の髪のウエーターは言った。
それだけなら許容範囲だが、そのウエーターの後ろから、赤髪の熱血そうなウエーターが現れた。

「オレは炎タイプのポケモンで暴れる、ポッド!」

おっとりとした緑の髪のウエーターとは対照的に、赤髪のウエーター、ポッドさんははきはきと大声で自己紹介した。
呆気にとられていると、緑の髪のウエーターの後ろから、今度は青髪のウエーターが登場した。

「水タイプを使いこなすコーンです。以後、お見知りおきを」

青髪のウエーター、コーンさんはクールにおじぎをした。

「そして、ぼくはですね、草タイプのポケモンが好きなデントと申します」

おっとりとした口調で、ようやくデントさんが名乗った。
光の三原色トリオを見上げ、オレはぽかんと口を開けた。
どの人がジムリーダーなんだよ。

「ふふふ、驚いてますね」

「それはもう」

漫画の参謀役みたいに笑うコーンさんに、心の底から同意する。
そこに、デントさんが助け舟を出してくれた。

「ぼくたちは三つ子のジムリーダーなんです」

「三つ子!?」

メンデルに喧嘩売ってるレベルで似てないのに!?

ジムリーダーが3人いることより、そっちの方がびっくりだ。
しかし、デントさんはジムリーダーが3人いることに驚いていると思ったようだ。

「あのですね、ぼくたちはどうして3人いるかと言いますと」

「もう! オレが説明する!」

説明しようとしたデントさんを押し退け、ポッドさんが前に出た。
人のこと言えないが、結構短気だ。

「オレたち3人は、相手のポケモンのタイプに合わせて、誰が戦うか決めるんだ!」

「そうなんだよね。そして、あなたのポケモンはツタージャとヨーテリーなんだよね」

ポッドさんの説明にコーンさんが続けた。
その言葉に素直に頷く。

「ということで、炎タイプで燃やしまくるオレ、ポッドが相手をするぜ!」

弾んだ声を上げて、ポッドさんが腕を上げた。

最初に手持ちのポケモンを訊いてきたのは、こういうわけか。
当初の目的はリクがジムリーダーに勝つことだが、タージャの弱点を攻められるのはやっかいだな。今回の作戦は、タージャの協力が必要不可欠だから。

「それでは、あなたは挑戦者サイドへ」

コーンさんが示したのは、目の前に広がるフィールドの右側。
そっちへ歩いていき、フィールドに入る。前を向くと、ちょうどポッドさんもフィールドに入ったところだった。

「使用ポケモンは2体。形式はシングル。ポケモンの交代は、ジムリーダー、挑戦者ともに認められています。よろしいですか?」

デントさんが提示したルールに少し考える。
作戦を反芻してみたが、特に支障はなさそうだ。
大丈夫です、と聞こえるよう大声で返した。
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