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家に帰ってからも、ザラザラとした気分は収まりがつかなかった。

別に気にしなければいい。そんな事は良く分かっていた。

「お兄ちゃんゴメン。」

妹が自室のドアを遠慮がちに開けた。
多分きっと、父に話したのだろう。

当たり前だ。妹は当然のことをしただけだ。

父になんて言い訳をしようと考えなければいけない筈なのに、何も思い浮かばない。
どうせ、滅茶苦茶に怒られるのだ。別に何も考えない方がいいのかもしれない。




「春秋、来なさい。」

父に道場に呼ばれたのは夕食の少し前、父が仕事から帰ってきてすぐの事だった。

道場はいつも埃一つなくて空気が澄んでいる気がする。
実際、掃除をするときは隅々までと小さな子供の頃から言われていた。

父に座るように言われ、正座をした。

「学校で試合をしたというのは本当か?」

妹、春香の名前を絶対に出さない辺りが父らしいと思った。

「本当です。」

隠すつもりはなかった。最初からこうなるとちゃんと分かっていた。
百目鬼の所為にするつもりもなかった。それは覚悟してあの場に臨んだのだ。

「申し訳ありませんでした。」

正座をしたまま父に頭を下げる。
もはや土下座に近いポーズだった。

父と約束していたのだ。

勝手に誰かと拳を交えないと。他人に技を使わない事を。

それを初めて今日破った。

それだけの事だ。

道場を破門されるだろうか。それとも父に殴られるだろうか。

「……そうか。」

けれど、父の返事はほぼそれだけだった。

「許しがあるまで、一切の稽古を禁ずる。」

それだけ言うと父は道場から出て行ってしまった。

あまりにあっけなくて、父が何を考えているのか逆に分からなくなってしまった。

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