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楽しかった。確かに楽しかったのだ。
こんなに楽しかったのは久しぶりだ。

それは百目鬼も同じだと思っていた。少なくともこの瞬間お互いが楽しいと思っていると半ば信じていたのだ。

気持ち悪い事しか言ってこないやつの筈だったのに、この短い時間でそう信じてしまったのだ。

その位、百目鬼との時間は楽しかった。

なのに、それなのにその時間は突然終わってしまった。

突然、百目鬼のバランスが酷く悪くなる。誘いか?と思いあえてのった瞬間、百目鬼が倒れる。
すぐに手を抜かれたことに気がつく。

仰向けに倒れた百目鬼をみて、最初に湧き上がった感情はただ純粋な怒りだった。

「ふざけるなよ……。」

思わず百目鬼に馬乗りになる。

「ちょっ!?」

審判役の生徒の声が聞こえるが頭はどうしても冷静になれなかった。

「何で、あそこでわざと負けるんだよ!」
「別にわざとじゃないだろ。」
「じゃあ、なんだっていうんだよ。」
「単に一之瀬が強かったってだけだろ。さすがだなあ。」

まるで当たり前のことみたいに言われて、ますます腹が立った。

「俺の負けだから、判定勝ちとかは止めろよ。」

百目鬼が俺じゃなくて、審判役の生徒にそう話しかける。
それにも腹が立った。

審判を無視しているのだ、ペナルティーはあるはずなのだ。

「最初から、負けるつもりだったって事かよ。」

百目鬼から返事は無かった。

「罰ゲームであんなアホな事をして、それをとっとと終わらせるためにこれかよ。
ホント、ふざけるなよ。」

これで多分あの滅茶苦茶な告白もどきも何もかもお終いなのだろう。それは喜ばしい事なのに、これじゃあ、まるで俺がすがり付いているみたいだ。

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