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「一之瀬 春秋、そろそろ俺と付き合う気になったか?」

百目鬼に話かけられて思わずため息をつく。

どこをどうするとそういう事になるのだろう。
相も変わらず昼休みに俺の教室に来ては、与太話としか思えない愛の告白なのか、性的嗜好のぶちまけなのかをおこなっているだけで、それで付き合ってみようと思うやつがいたら単なる馬鹿だ。

そんな事が分からない程こいつは馬鹿なのだろうか、それとも単に罰ゲームだからだろうか、百目鬼はまるでそれが普通のことの様に馬鹿げた告白もどきを毎日繰り返している。

それを最初から見ている柔道部員たちは相変わらず様子を交代で見ているし、そいつら以外の野次馬も増えている。

気が付いていないはずが無いのだ。
事実俺はまともに相手をした事は無いし、一緒に飯を食っている友人たちも完全にドン引き状態で、この前ついに一緒に飯を食うのをやめたいと言われてしまった。

明らかに空気はわるいし、百目鬼はから滑りしていて気持ち悪いし、友達は無くしかねないし一刻も早くやめてほしい。

飯時だけしかやってこないのでこの際どこかへ逃げてしまおうかとおもったけれど、万が一探し出されて誰もいないところであの気持ち悪い言葉を言われるかと思うとそれも嫌だ。

実際に言っている事をされてしまうかもしれないという恐怖では無い。

そうじゃなくて、誰もいないところで精液だのなんだのなんて話されてもホラーだろう。

ぼんやりと眺めた百目鬼は頬を赤らめている。自分が言ったことが恥ずかしいのか照れているのか、友人でも何でもない俺には分からない。

「なる訳ないだろ。」

俺が簡潔に返すと、ああやっぱり、百目鬼はどこかホッとした顔をした。
罰ゲームだろうな。悪趣味すぎて頭が痛い。

真面目だと聞いていた百目鬼が何故こんなことに付き合ってるのかは知らないが腹は段々立ってきている。

「なあ、百目鬼って柔道強いんだろ。」

ニヤニヤとクラスメイトが話しかける。寝技かけてやったら等と言い始めて一緒に飯を食っていた友人が顔をゆがめる。

多分これで明日以降はボッチ飯確定だろう。

「戦って勝ったら、すごいって付き合ってもらえるんじゃね?」

たれかが嘲笑交じりで呟いた。
その言葉を聞いて、苛立ちが募る。


百目鬼は、オロオロと成り行きを眺めている。
それにも腹が立った。
そこは断るべきだろうと。自分の大切にしているであろう柔道はそんなお遊びなのだろうかと思った。

「……やろうか。」

思ったより低くて平坦な声が出てしまった。
百目鬼がこちらを見据える。

「そのかわり、俺が勝ったらこんなアホみたいなやり取りもう二度とするな。」

ニヤニヤとしていたクラスメイト達がどう反応していいのか分からずこちらを見る。
百目鬼は、ゴクリと唾を飲みこんだ後静かに頷いた。

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