20

父から道場への立ち入りを再び許可されたのはその日の事だった。

何故今日なのかは俺自身よく分からない。

妹に「よかったね。お兄ちゃん。」と言われて思わず笑顔を浮かべる。

「柔道部入るの?」

彼女の友達が柔道部のマネージャーだかをしていた気がする。
だから妹も知っているのだろう。

「入らないよ。」
「なーんだ。」

見学に行ったって言われたから。と妹が言う。

「百目鬼先輩のことはもう怒ってないの?」

元々怒っていたのだろうか。変な告白に腹は立っていたが別に罰ゲームでは無かった様だからどう整理をつけたらいいのかは自分でも分からない。

「そう言えば、なんかみんながニヤニヤしてたけど。」

お前友達になんか聞いてるか?
そう妹聞くと、今度は妹がニッコリと笑った。

「柔道部の子はみんな百目鬼先輩の恋を応援してるから。」
「は?」

男同士が物珍しいって事なのか何なのか。

「だって、あの先輩すっごいいい人だから。」

だからあの人の知り合いは大体応援してるよ。

「さっきの笑顔、百目鬼先輩に見せてあげればいいのに。」

きっと先輩喜ぶよ。
そう妹にいわれてなんとも言えない気持ちになる。

「男同士だぞ。そんななこと言われてもなあ。」
「今日日そんな事、少なくとも私は気にしないけどね。」
「はあ?」

まあそういうものなのか。

「でも、あれだぞ。」
「先輩。お兄ちゃんの前でだけちょっと残念だよね。」

残念という話なのだろうか。
そういう問題じゃない気がすることばかり妹は言うけれど、あまり気にならなかった。

「まあいいや。」

そんな事よりも道場で体を動かせることが楽しみだった。

「ふーん。もっとお兄ちゃん嫌がったりするかと思った。」

それには上手く返せる言葉が見つからなかった。

「先輩の事、私が後押ししちゃったみたいなものだから安心した。」

柔道部の事情に詳しいとは思っていたが、あの日の妹の様子と照らし合わせてようやく合点がいく。

「あいつと知り合いだったんだな。」
「……ごめんなさい。」

別にその辺はもうどうでもいい。

「気にするな。」

別に俺の事を何か話してしまってるとしても、それほど気にならない。

それに今日から元通りなのだ。

元通りにならないのは、あいつとそれから俺の感情だけなのかもしれない。

[ 20/100 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]