理性的に恋をする

贈り物

お互いに、恋人がいるなんて誰かに言ったことは無い。そんな関係だったし、それに納得もしている。

親にも誰かと付き合っているとも、その相手が野々宮君だとも言っていない。

多分、ぼくの両親はずっと野々宮君のファンでその関係の友達と出かけていると思っているらしい。それに数えるほどしかいない友達とも恋愛の話をしたことは無い。

だから、そっと手渡された物の意味が一瞬分からなかったのだ。

「開けてみて。」

野々宮君はぼくにそう促す。
綺麗にラッピングされた包みを開けると灰色の箱が入っている。

そこに書かれているのがつい先日広告のタイアップをした有名ブランドのロゴで不思議に思う。

ブランドからのお礼の品だろうかと不思議に思いながら箱を開けると、銀色に光る綺麗なバングルが入っている。

プラチナだろうか。美しい形をしているそれを眺める。

「これは?」

ぼくが野々宮君に聞くと、彼はとろりと甘ったるい笑顔を見せる。


「園宮に付けて欲しいと思って。」

野々宮君から何か形に残るものを貰ったことは無かった。
ぼくも身に着けるものを渡したことは無い。

恋人がいるかもしれないという事実すら野々宮隆朝《ののみやたかとも》には不要だと思っているし、これからもそうだ。

「指輪は試着とかできないだろ。」

確かに二人でジュエリーショップで並んで買い物をするなんて、ありえない。

だけど、彼に貰った腕輪をつけてもいいと彼は思ってくれているのだろうか。
ぼくがこれをつけて二人きりの秘密を共有してもいいと、思ってくれたのかもしれない。

「毎日ずっと、していてもいいですか?」

どこに行くときも誰と会う時も。
彼の話を誰にもするつもりは無いけれど、ただ、彼から貰った持ち物をつけていることを許してもらえるだろうか。

「勿論。」

野々宮君はバングルを手に取るとぼくの手首にそっとはめてくれる。

「ありがとうございます。」

銀色に光るそれを反対の手でそっと撫でて笑いかけると、野々宮君はぼくの頬をそっと撫でた。



お題:続編

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