間違い探し

2-1

連れてこられたのは夏目が一人暮らしをしているらしい、古いアパートだった。

「ラブホじゃないんですね。」
「いちいち制服から着替えていくの面倒だろ。」

今更何をという感じで言われ、そういうものかと思う。
ラブホなんてところに行ったことはないのだが、確かに制服で行くのは無理だなと思う。入口で断られても困るし。

アパートの錆が浮く外階段を二人で上る。
カンカンという金属の音がやけに響いている気がした。

緊張しているのかもしれない。
そもそも人とセックスをしたことが無いのだ。

上手くごまかせるかという不安は勿論ある。
多分、夏目が楽しめるセックスを提供してやることは出来ないのだから。

だけど、どちらにしろ一回限りなのだろう。
大して楽しくないセックスを一回だけして、期待外れだと夏目が離れて行く。
それだけだ。

下卑た笑い顔で脅されたのは自分だが、夏目が写真をばらまくタイプにはどうしても思えないのだ。
ばらまくための誰かという程仲の良い人間がいることも知らないし、誰かを陥れるために労力をかける様な人間だとは思えない。

「入れよ。」

薄暗い室内は雑然としていて、玄関から見える一番奥にしかれたままの布団が妙に生々しく見えた。

のろのろとスニーカーを脱いで、それから薄暗い夏目の部屋に上がり込む。

「シャワー借りたいんだけど。」
「後にしろ。」

面倒くさそうに夏目に言われて、事前に体を清めることは諦める。
海音が香水(というと本人はフレグランス!と訂正するのだけれど)をいつも付けていたのを思い出す。
ああ、こういう時はせめて香水の匂いでいろんなものをかき消せてしまえればいいのにと思う。

おずおずと鞄を放って布団に腰を下ろすと、夏目が俺の肩を押す。
そのままあお向けに倒れ込む俺に、夏目が覆いかぶさる。

布団から、夏目の匂いがして、それだけで頭の芯がぼやけた様な気分になった。

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