女の子だよ.




翌日。なにごとも無かったかのように、あの男子に話しかけた。

「後々考えてみて、冗談だって、わかったけどさぁー!やめときなよ!こーゆーことすんの!」

そうやって言えば、相手はあからさまにホッとしたようで。なんとか丸く収まってよかったと、私もホッとする。

実際、昨日されたことには傷ついたし、ムカついたけど…ぱち、と明るい茶色の目と目があった。その主は、にこっといつものような王子様スマイルを向けて、手を振ってくる。いつもだったらチャラいなと苦笑いするくだりだけど、及川のお陰で、昨日の出来事への嫌な気持ちを振り切れたのは事実で。

…って、昨日は、あれから及川が私の頭を占領してしまって、それはそれで困ったんだけど…!!
ホームルームが始まる予鈴が鳴って、先生から席に着くように促される。及川と席が隣というのが、恨めしい。距離を取りたくても取れない。


ホームルーム中、視線を向けられているのを感じてずっと居心地が悪かった。
ホームルームを終えて、及川を睨みつける。

「…用があるなら言ってよ、気になるから。」

「俺のこと気にしてくれたんだ?」

「違っ!!」

いや、違くは無いんだけど!!
あーっ!!もう、用を言え!用を!

「名字ちゃんさぁー…さっきアイツと話してたじゃん。なんか丸く収めてたけど、怒っていいと思うよ。」

「…仕方ないよ。向こうも悪気があってした訳じゃなさそうだし。」

悪ノリが乗りすぎただけ。
多分、及川が怒ってくれたから、多少なりとも反省しただろう。

「それに…私、あんま女子って感じしないのは事実だし。」

そう、そこが原因だ。
名字ならいいやって思われたのは、私に女子らしさとかが無いせいだろう。

「名字ちゃん、ソレ本気で言ってる?…ハァー…もうっ!手だして?」

「は?」

「いいから、手!」

言われたとおりに手を出すと、及川の手がそっと触れる。第一関節分…いや、それ以上に差がある大きさの違い。及川の手は、指は長いけれど、関節が太くて意外と無骨だ。骨や血管が見て取れて、なんというか…男の人って感じ。

「ほら、全然違うでしょ?名字ちゃんは、女の子だよ。」

「…生物学的にはね、」

そりゃ、女に分類されるし、男の及川に比べれば手は小さい。てか、及川は背も高いし、手も当然大きいわけで…多分男子でも比べたら小さいやつはいるだろう。

私が言ってるのはそういうことじゃなくて…と続けようとすると、及川は柔らかく目を細めて、そのまま私の手を握った。

「俺にとって、目に入れても痛くないくらい可愛くて、大切な女の子だよ。」

わかった?と、言い聞かせるように言われる。
いやいや、目に入れたら絶対痛いし!私、そんな可愛くないし…!!なんて反論を口にすることは出来ずに。
いつも綺麗なトスをあげている指が。
絡められた感触があまりにも甘やかで優しいから、くすぐったくて逃げ出したくなった。

「あー、やばい。その顔は反則…」

こっち見ないで!となんとも失礼な言葉。でも、私も変に照れが回って、顔を背ける。
一瞬見えた及川の顔は、朱がさしていて。
やめてよ、そんな顔するの。そっちの方が反則じゃんか、と心の中でごちた。

及川のせいで、自分の乾燥した手が、深爪気味の爪さえも女の子の手って感じがする。
たしかに、骨はまるっこいし、血管も及川ほど出てないよ?でも、単純すぎないか、自分。
授業が始まっても、何をしてても目に入る自分の手。
その手に、及川の甘ったるい言葉と、硬い手の温もりが残っているみたいで。
手を見て赤面するとかヤバすぎでしょ、もう!!







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