先輩とバスの中.




合宿。
県外に部のみんなと行くのは初めてで、少しワクワクして上手く眠れなかった。
後輩マネージャーの仁香ちゃんも入部してくれて、なんだか余計にワクワクする。
少し…というか結構なダメージを負ったばかりだけれど。

「日向と影山、補修か…」

「あぁ、あの二人…。俺もちょっと危なかったからなぁ…気持ちわかるだけにツライ…」

私の呟きに、隣に座る旭さんも同じようにため息を吐く。

「旭さん、いつもより英語よかったじゃないですか!文法のミスも減ってて…」

「それは、名字が教えてくれたから…」

旭さんがそう言いかけて、ぴたりと止まった。
その視線の先を追ってみると、澤村先輩がこっちを見ていて。ドキッとしたのと同時に、ビクッとしてしまう。

「ヒゲチョコ…お前ちゃんと予習復習しろって言っただろ!そんで、名字も!安請負いしないようにだな…」

う、耳が痛い…!

「で、も…澤村先輩が数学見てくださったお陰で、その、すごく助かったので!私は大丈夫っていうか…」

ありがとうございます…と尻すぼみな声で言うと、澤村先輩は、次からはヒゲチョコの面倒は見なくていいからな、と見逃してくれた。
旭さんがそれを聞いて、大きな体を小さくさせていたのがおもしろかった。





そろそろ、SAにつく頃。旭さんは私と話しながらもウトウトとしていたから、寝て大丈夫とは伝えたものの…。ずしりとした重みが、肩に加わってしまっている。選手がゆっくり休めるように気を配るのがマネージャーとしての役目…!!とは言っても、ちょっとキツくなってきた。
バスが止まって、何人かがトイレ休憩や飲み物を買いに立ち上がる。誰か、この休憩の間だけでもちょっとだけ代わってくれないかな…と視線を彷徨わせた。

「うわ、名字重いだろそれ。」

「スガさん…」

「あー、旭起きろって!おーい!!」

ビクッと旭さんが目を開けて、飛び上がる。

「ひっ、…!?…名字すまん!!」

「いえ、よく眠れたならよかったです…」

「いやいや!絶対重かったろ!…たくっ旭はでけぇんだからさー…席考えとくべきだったわ、名字ごめんな?」

「あ、いやっ!大丈夫ですよ!」

「俺と席代わるか。大地なら窓の方に寄って寝るし、名字が寄っかかっても大丈夫だろ。」

「えっ…!!?大丈夫です!ほんとに!!」

スガさんが、いーから!な?と私にウィンクする。
良く無いんですって!!!隣とか無理!絶対心臓止まる!!

「だーいちー、俺と名字席代わるなー!」

トイレ休憩から帰ってきた澤村先輩に、スガさんが言う。

「じゃ!俺こっち座るから!」

「えっ!スガさん!!」

「名字、そろそろトイレ行っとかねーと!帰ってきたらそっちな!」

そうだトイレ休憩!!…ってなんか流されたよね?と、気が付いたのは、トイレから戻ってきて、私の席に座るスガさんを見てからだった。

「名字。」

トントンと隣の席を叩き、澤村先輩が隣に座るように促す。出発が近づいているのも相まって、覚悟を決めて座ると、その近さに驚いた。

「肩、好きに使いなさいね。」 

「…ぁ、ありがとう、ございます…」

絶対使えない!!と思いながらもお礼を言うと、先輩がふうっと息を吐いた。

「そんな、意識されると…こっちも恥ずかしくなる。」

私にしか聞こえないくらいの声。ちらっと隣を見上げると、心なしか先輩の頬が赤い。

「す、すみませんっ!」

「いや、いいんだけど…!っあ、その冷房とか…寒くないか?」

「え、っはい」

つい反射的に答えてしまった。いや、寒くないけど、なんか…自分でもよくわからなくなって。
だって、好きな人が隣で!しかも、今日は一晩…って!!

「っじゃあ、これ…」

私の答えを肯定と受け取ったのか、先輩が着ていたジャージを私に手渡す。

「膝掛けにでも使ってくれ、」

「えっ、いやいやいや!」

「あ、嫌だったか!?」

「そうじゃなくて!…その、申し訳ないというか…!」

「俺は大丈夫だから。…素直に甘えときなさい。」

膝にほんのりと感じる暖かさと、優しい言葉。
貸して貰ったジャージにある、烏野高校排球部という文字に触れながら、それを受け止める。
…やっぱり、心臓もたないかも。
隣に座ってからずっと頬に集まり続ける熱に、そう思った。






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