爆豪勝己論理.




言われた時間より少し早めに裏庭に着くと、もう既に勝己君は居た。
少し怯んで、物陰から勝己君の様子を伺っていると、赤い目と目が合った。
久しぶりに合わさった視線に、ドキッとしてしまう。

「待たせちゃってごめんね。」

勝己君の前に行くと、自分がこんな近くに居ることになんだか不思議な気持ちになる。
あんなに勝己君にまとわりついて隣に居たのに。いつのまにか距離が出来て、今は手を伸ばせば触れられる距離に居る。

好き、とその2文字を言ってしまったら、私達の距離はどうなるんだろう。
それが不安で、どう切り出したら良いのか、何を言えばいいのかわからなくなる。

無言の時間が続いて、気まずさを感じ始めた時、勝己君が口を開いた。

「…お前は、誰にでもそうなんか。」

誰にでも、そうなんか…?

「どういうこと?」

問い返すと、勝己君は溜息を吐いて、軽く舌打ちをした。

「会いてぇとか、思わせぶりなこと言いやがって。テメェには物真似野郎がいんだろ。…他の男に勘違いさせるようなこと言うなや。」

「勘違いしてよ!」

私が、会いたいとか隣にいたいとか、そんな特別な思いを抱えるのは勝己君にだけだ。

「は?」

「物真とは、付き合って無いよ。」

ふーっと息を吐いても落ち着けない。
握りしめた手は震えるし、心臓の音だってうるさいくらいに響いて。伝えようと開いた唇を、躊躇うように噤んで、噛んで。
堰を切ったように、やっとの思いで言葉を紡ぐ。

「だって、私は、ずっと勝己君が好きだったし…今も、勝己君が…」

どうしたら私の気持ちが勝己君に届くんだろうと、もしも届かなかったらどうしようと、涙が滲んでしまう。
その内一粒が頬を伝って、下瞼からまた一つ、二つと続いていく。
なんで泣いてんの、私!?

「…ブサイク。」

「ひどくない!?」

勝己君は子供をあやすように、背をかがめて私の頬を掴んだ。ぶにゅ、と顔が歪んで、もう一度ブサイクだと言われてしまった。
勝己君のせいだよ、それ。

「泣くな、ちゃんと最後まで言え。」

「最後まで…?」

「"今も、俺が"どうなんだ。」

「…好き、です。」

私が観念して言えば、勝己君が鼻で笑う。
その笑い方さえもなんだか愛おしくて悔しい。

校舎の方へと歩き出した勝己君の隣に並んで、私は歩きながら、早歩きをしなくとも追いつけることに気がついた。
ああ、もう。やっぱり好きだ。

「あの!…返事って、もらえたりする?」

勝己君は私のことどう思ってるのか、知りたい。
あわよくば、好きって言ってほしい。
まだ好きとかそんなんじゃなかったら、これから頑張って好きになってもらうから。

「先に告ったからって、優位に立ったつもりか?」

勝己君はピタ、と足を止めて、私にガンを飛ばした。
え、待って待って!フツー告白された側が優位なんじゃないの?

「俺は、お前よりも先にお前の事が好きだった。つまり俺の勝ちだ。」

「どういう論理!?」

本当にどういう論理?
天才爆豪様論理は、私みたいな凡人には理解できない。
頭を捻っていれば、勝己君は機嫌が良さそうにまた笑った。

「レンアイってのは落とした方が勝ちだろ。」

「たしかに…?…って、今好きって!」

言ったよね?どさくさに紛れて言ったよね!?
もう一回お願いしたい!!と視線を向けると、私の思考を先読みしたのか、勝己君は私に軽くアイアンクローをしたかと思えば。

「同じことは2回も言わねぇ。」

そう言って、さっきよりも早歩き目に歩を進めた。
少し先を歩くほんのりと赤い耳に、私はまた恋をした。






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