白い薔薇で愛の告白を


「俺はななしが好きだ」

「………えっ?」

静かな生徒会室に蓮巳君の凛とした声が響いた。
生徒会役員であり記録係の私は記録帳を書いていた手を止め、蓮巳君を見る。

「わ、私…?」

「ああ、そうだ。
……前からななしが気になって仕方なかった。
気付いた時には好きになっていた。
その…付き合って欲しい」

同じクラスで同じ生徒会役員。
でも、そんなに話すことはなかった。
それに失礼な話、蓮巳君は恋愛感情なんて持たない人だと私は思い込んでいた。
そのため、驚きが止まらない。

「ええっと、私なんかでいいの…?」

恐る恐る聞くと

「俺はななしがいいんだ」

と眼鏡のレンズ越しに見える緑色の瞳からは、
どこまでも真っ直ぐな意思を示した雰囲気を醸し出していた。
蓮巳君は悪い人ではない、寧ろ真面目でいい人だ。
関わりが少なくとも、彼が生徒会の仕事をしている姿、クラスメイトとしての姿を見ていたため、それくらいは分かる。
彼のそんな想いを踏みにじることはしたくない、と思うと、思わず私は

「宜しくお願いします」

と頭を下げたのだった。
こうして蓮巳君の彼女となった訳だが、
数日経てば本当にこれで良かったのだろうか、と考えてしまう。

「…どうした?」

「え、いや…何でもないよ?」

まだ私の中で蓮巳君の存在は大きいという訳ではない。
本人も気付いているためか、無理に付き合わなくても、と私に気を遣ってくれる。
…いや、遣わせてしまってるだけかな。
だけど、これから好きになる可能性は大いにあると思う。
そう思う反面、彼に恋心を抱くのは何時になるのかは分からないし、それまで彼の隣にいるのは失礼だと思う。
今でも現在進行形で、デートで彼の隣を歩いているが、私なんかでいいのだろうか、と罪悪感に苛まれる。

「…気分が悪いのか?」

「ううん、違うの。
ちょっと考え事してしまって」

私が苦笑いを浮かべれば、蓮巳君は何か思いついたような表情で、足を止める。

「ななし、すまないがここの店に入ってもいいだろうか」

「え?」

蓮巳君が入りたいと言ったお店は可愛らしいアンティーク調の建物で、雑貨屋さんのようだ。
蓮巳君、こういうところ好きなんだ。

「うん、行こう」

蓮巳君と一緒にお店に入ると可愛らしい雑貨が並んでいた。

「わあ…可愛い…」

思わず声に出てしまい、あっ、と思って口元を抑えると
横で蓮巳君が今までに見たことがないような柔らかい表情をしていた。

「やはりななしはこういう物が好きなんだな」

「うん、とっても好き!
特にこういうのとか…」

私が特に可愛らしいと思ったのは小さな白い薔薇がついた髪留めだった。

「確かに可愛らしいななしにはよく似合いそうだ」

蓮巳君の言葉にドキリとしてしまう。
サラッとそんなことを言う蓮巳君は余裕があって、高校生だけど大人だと感じてしまう。

「すまない、少し手洗いに行ってくる」

「分かった」

蓮巳君がお手洗いに行ってから私はくるりと店内の雑貨を見回った。
すると、眼鏡をモチーフにしたキーホルダーがあり、思わず手に取って見る。

「なんだか、蓮巳君を思い出すなあ…
そうだ、蓮巳君に今日のお礼に渡そうかな!」

お手洗いから帰ってこないうちに颯爽とレジへと向かい買い物を済ませた。
数分後、お手洗いから帰ってきた蓮巳君に
公園に行きたい、と告げて2人で公園へと向かった。
ここなら渡しやすいかもしれない。
ベンチに座ると、蓮巳君は鞄をゴソゴソと漁った。
すると、彼の手には小さな紙袋があった。

「ななし、良かったら受け取ってほしい」

小さな紙袋を手渡され開封すると、
そこにはさっきのお店で私が可愛いと言っていた髪留めが入っていた。

「…蓮巳君、ありがとう」

蓮巳君の思わぬプレゼントに顔を綻ばせる。
そうだ、私も買ったんだ。渡すならこのタイミングがいいかも。
鞄の中を漁っていると、蓮巳君はまた別の小さな紙袋を取り出す。

「さっきの雑貨屋は俺も気に入った。
…つい、こういうのは気になってな」

彼の紙袋から出てきたのは、眼鏡をモチーフにしたキーホルダーだった。
そう、私が買ったのと同じだ。
まさか、被ってしまうとは…彼が買っているとは思わなかったので、
自分が買ったのは流石にプレゼントできない。

「さっきの髪留め、俺がななしに付けてもいいか?」

「へ?
あ……はい!お願いします!」

何も蓮巳君にお返しできないのに、こうして私ばかり与えられてもらって罪悪感が募っていく。
ぱちん、と音がして私は手鏡を出して確認する。
すると、自分の髪に可愛らしくちょこんと付いた髪留めを見るとなんだか嬉しくて仕方ない。

「わぁ…!ありがとう!
ふふ…似合う?」

嬉しくなって蓮巳君に問いかける。

「…その、あー…よく似合う…な…」

いつもはキリッとして余裕のある蓮巳君が、
今は真っ赤な顔で目を逸らしながらしどろもどろに答える。
いつもの余裕なんてなさげで、こんなに可愛らしい顔もするんだ。

「…ごめんね、蓮巳君。私何も持ってなくて…」

私がそう言うと蓮巳君は私の頭の上に手を置き、
優しく頭を撫でる。

「いや、こうして一緒に出掛けてくれただけでも嬉しい。
…今日はありがとうな、ななし」

優しい瞳で見つめられ息が詰まりそうになる。
なんだか心臓はいつもより速くて、顔が熱い。
そのうえ今は頭の中は蓮巳君でいっぱいで、今の私凄く変。
今日見た蓮巳君は、いつも見てる蓮巳君とは違うくて、
もしかしたら、私だけしか知らないんじゃないかって自惚れちゃって、それが嬉しくて。
……きっと、私蓮巳君が好きなんだ。恋しちゃったんだ。

「こちらこそ、今日はありがとう。
それでね…あのね、蓮巳君」

今、伝えたい。
貴方と同じ気持ちなんだと。

「…すまん、ななし。
もう時期日が落ちる。
そろそろ帰らないか。家まで送る」

「え、あ…うん、そうだね」

ベンチから腰をあげ、歩いていく蓮巳君に続いて私も歩く。
公園から家まで帰る途中、花屋さんを見つけた。

「あの、ごめん…ここだけ寄ってもいいかな?」

「……遅くなってななしの御両親に心配をかけさせなくはないが、まあ…いいだろう」

私は蓮巳君に、すぐ買うから待ってて、と告げて店内に入る。
私はお目当ての花をすぐに見つけ、店内にいた店員さんに声をかけた。
どうしても、今の私には必要だった。
私はお花を受け取ると、蓮巳君の元へ急いだ。

「ごめん、お待たせ…」

「そこまで、急がなくても大丈夫だ」

再び蓮巳君と並んで歩き出す。

「ところで、何の花を買ったんだ?」

「あ、えっと…これなんだけど…」

私は3輪の白い薔薇だけで構成された小さな花束を蓮巳君に差し出すと、蓮巳君は足を止める。

「白い薔薇か…」

「あの、良かったらこれ………きょ、今日はありがとう…!」

彼の驚いた表情も新鮮で、再び心拍数が上昇した。

「俺が行きたかっただけだ、気を遣わなくて良かったのに…いや、俺が気を遣わせてしまったのか…」

少し寂しそうに言う彼は受け取ったあと再び口を開いた。

「すまん、ななし。
今日は実は大切な話をしたくて本当は呼び出したんだ。
…短い間だったが、交際は今日で終わりにしようと思う…。
告白して、付き合ってもらって…自分勝手なことを言ってすまない。
ななしに無理やり付き合ってもらうのも悪いと判断したんだ。
だが、最後までありがとうな」

そう言うと、再び前を向いて歩き出そうとする。
突然の別れ話に私は唖然とした。
はっとした時には前を歩く蓮巳君と少し距離が出来ていた。
さっきより速く歩く蓮巳君を私は小走りで追いかける。

「ちょ、ちょっと、待って…!!」

ぐっ、と蓮巳君の腕を引くとこちらを振り向いて立ち止まった。

「…蓮巳君、泣いてるの…?」

綺麗な彼の瞳には大粒の涙が溜まっていた。
私は蓮巳君の眼鏡を取り、持っていたハンカチで涙を拭った。

「…泣いてなど………」

ふい、と顔を逸らしながら言うものの、先ほど涙を拭った目にはまた涙が溜まっていた。

「ごめん…蓮巳君。
言うの遅くなっちゃったんだけどね。
私も、蓮巳君が好き……ううん、大好きだよ」

蓮巳君は再び私を見ると驚いた表情をしていた。

「……ななし、だから俺に気を遣───」

「違うの、私の本心なの」

それから、今日のデート中に気付いた自分の気持ちについて話した。
蓮巳君はじっと私の目を見て、一字一句聞き逃さないようにと、集中して私の話を聞いてくれた。

「そう、だったのか…」

聞き終わった蓮巳君は、目に涙を溜めつつ微笑んだ。

「…ということは、このまま付き合ってもいいのか?」

「勿論。寧ろ、こちらこそ付き合ってもらって大丈夫…?」

私が聞き返せば、当たり前だ、と優しい声音で返される。

「これからも、宜しくな。ななし」

「こちらこそ、これからも宜しくね、敬人君」

私がニコッと笑っていうと、彼は嬉しそうに笑って私の手を握って帰路を歩き始めた。


白い薔薇で愛の告白を

白い薔薇の花言葉はあなたは私にふさわしい
3本の薔薇の花言葉は告白


思いついたものを詰め込んだお話がこちらでした。
特別な人にしか見せない色んな表情をする蓮巳さんいいんじゃないかな。
おまけ(裏話)もmemoの追記に載せておきます。

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あからこ

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