ふるえるからだ

カコーン!

ししおどしの音が、静まり返った広い和室に響く。
私はと言えば、あのあと通された部屋(恐らく居間)に正座をしたまま全く動かずカチコチに固まっている。もちろん、目の前のお茶やみかんなどには手さえ触れていない。むしろこたつに入ることもせず、座布団に正座したままだ。イタチくんはあろうことか荷物を置きに行くと言って私を置いて自室に行ってしまった。実家なので仕方ないとは思うが、如何せん居たたまれない状況に不安さが募る。
ちょ、ちょっとイタチくんに携帯で連絡して戻ってきてもらおうかな…と考えあぐねていたところで、廊下へと続く後ろのドアが勢いよく開いた。

「おい、母さ…」
「イ、タチ…く、あ、…は、初めまして…」

入ってきたのが男性だと言うことを受けて思わず口から零れたのはイタチくんの名前だったけれど、あれ、明らかに目の前に居るのはイタチくんじゃない。すごくすごく似ているけど…髪が短いし、背の高さも違うし、どう見てもイタチくんじゃ、やっぱりない。それに、目の前の彼も初めて見る私に少々戸惑っているようだった。そりゃそうだよね、自分の家に知らない人が居たら、びっくりするよね。

「あ、あー…まさか、兄さんが連れてくるとか言ってた…」
「サスケ、久しぶりだな」
「兄さん」
「あけましておめでとう。」
「ああ」
「火芽、弟のサスケだ」
「初めまして、香宮 火芽と申します」
「…よろしく」
「はい、」
「少し生意気だけど良い奴だ、仲良くしてやってくれ」
「…なんだよそれ…」

そう言いながらも大人しくわしわしと頭を撫でられているサスケくんは、嫌そうな顔をしてはいるけどその手を振り払うようなことはしなくて。そんな様子を見ていたら、ああこの2人は本当に仲が良いんだなって思う。それに、この家系は本当に美人の血が流れているようだ。イタチくんが美形だとは思っていたけど、まさかお母さんと弟さんまでこんなに美形だとは。まさに血筋。

「今、帰ってきたのか?」
「ああ、ナルトたちと初詣に行ってた」
「ナルトか…あいつらは相変わらず元気にやってるのか?」
「あー、兄さんが帰ってくるって話したら、会いたがってたぞ」
「そうか、暇があったら会いに行くか…」
「どうせなら初詣にでも行って来いよ、もう意外と空いてたし」
「…火芽、行くか?」
「う、うん、行く!」
「なら行くか、」

イタチくんが、躊躇いなく私の手を握る。私のほうが恥ずかしくなってしまうくらい堂々としているイタチくんに、サスケくんも少々驚いた顔を見せたけど、またすぐ真顔になった。そしてそのまま玄関へと向かう私たちの後ろから、お母さんの声が飛ぶ。

「お昼ごはん用意してるから、それまでに帰ってきなさいよー!」
「分かった、すぐ帰ります。」
「お、お邪魔しました」
「はーい、気を付けていってらっしゃいねー」

外に出ると、ちらちらと雪が舞っている。
手袋は置いてきてしまったけれど、イタチくんの手が繋がれているから右手はぽかぽかと暖かい。時間にすると大体5分、大きな家の角を右に曲がって、次の角を左に曲がると、道の先に少し大きな神社が見える。少し雪が積もっている様子に一層の風情を感じるその神社の鳥居を潜ろうとしたとき、イタチくんがぴたりと立ち止まった。

「イタチくん?」
「あ、ああ、いや、まさか、な」
「?」

少しの間を置いてまた歩を進めた彼に、少し、いや、ものすごく違和感。でもこうなったら彼は聞いたところでなにも教えてくれないって言うのはこの3年で大体わかった。そしてそれは大体私の気にしすぎで終わるって言うのも、だんだん解ってきた。
だけど、だけど今回ばかりは、

「ああ…イタチ、帰ってたのか」
「…父さんこそ、お久しぶりです」

予想外の不意打ち過ぎた。
え?この方、お父さん?イタチくんの?今海外にいるんじゃないの?て言うか、心の準備が…!
はてながいっぱい駆け巡る頭をなんとか落ち着かせながら、私は頑張って「にこやかな女の子」を演じた。演じたつもり、だったけど。

「…お前はなんだ」

ものの数秒で心が折れた。

「彼女は数年前からお付き合いさせていただいている女性です、そんな言い方はやめてください。」
「…ふん、」

そして粉々に砕け散った。

「あ、あ、あああの、初めまして、香宮−」
「恋愛ばかりに現を抜かすな」

びくん

私のからだが一瞬硬直したのは、たぶん手を繋いでいるイタチくんには伝わってしまっているだろう。彼の父親に怯えるなんて、本来ならきっとあまり良くないことで。なにか、なにか言わなくてはと思うけれど、意に反してそう思う度に足がすくんで今にも逃げ出したい衝動に駆られるばかりで。
だって今の言葉は、ねぇ、その言葉のあとに続くのは、イタチくんに私みたいなのは相応しくないとか、私たちの恋愛なんて認めないとか、今すぐ別れろとか、どうせそう言う否定的な言葉ばかりなんでしょう?

「こいつより良い男なんて山ほど居るだろうに」
「…っふぇ、」

少し潤んだ目を擦ろうとしたところに再度不意討ちをかけられて腑抜けた声が漏れる。いや、でも今のは噛み砕けばつまりイタチくん以外の男と付き合えと言うこと?と言うことはイタチくんと別れろってこと?だめだ、分かんない。分かんないけど、解ってることはひとつ。
私にはイタチくんしか居ないってことだ。

「父さん、いい加減に」
「そ、そんなことないです、私は、イタチくんが良いんです。」

強気な発言をしてみたは良いが、言った直後にヤバい!相手はイタチくんのお父さんだった!と気付いて顔からサァッと血の気が引いていく感覚。私ってばなんてバカなの。今日はひたすら良い子にしてるんじゃなかったの?あああ折角の挨拶日和が台無しだ。今すぐ穴を掘って入りたい、いやむしろ埋めてください、イタチくんの顔が見れない。
俯いた目からいよいよ大粒の涙がこぼれ落ちると言うときに、盛大な溜め息が聞こえた。ああ、終わった。

「…俺は母さんがどうしても大事な話があると言うから帰ってきたんだが」
「はい」
「それはお前のことか」
「…恐らく。卒業したら彼女と一緒に住もうと思っています」
「香宮さんのご両親は」
「承諾はいただいていますが、後日改めてご挨拶に伺う予定です。」
「それで、お前たちは幸せになれるのか?」
「はい。」
「…っ、はい!」

「なら、好きにしろ。」



(20131120)

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