てがとどかない

なんで。なんで、なんで、なんで!!

「くそ…っ」

目の前の柱にどん、と拳をついて深い息を吐き出す。
後ろからクラスメイトのアスマがため息をついたのが聞こえた。

「だから言っただろ?早くしろって」
「うるさいよ」
「なに、八つ当たり?カカシらしくないわね」
「お前たちには一生わかんないよ。」

高校時代からずっと付き合ってる、君たちにはね。
むしろ分かってたまるか。ずっと、ずっと大事に育ててきたこの気持ちを、大切に扱ってきた人を目の前でいとも簡単に奪い去られていく何にも言い換えようのないこの感覚が、理解できるわけないだろう。
確かに、イタチと火芽を会わせるのには少し抵抗があった。推薦で入った特待生で成績はもちろんトップクラス、頭が良いだけでトロいのかと思いきやスポーツも万能でおまけにイケメンときた。ついでに言えば父親は世界で活躍するFBIらしい。通りでハイブリッドカーなんて洒落たもんを乗り回してるはずだ。
そもそも俺とは生まれ育った畑が違った。

「はたけだけに、な」
「ほんと黙って」
「だったらなんで会わせたんだよ、呼ばなきゃよかっただけだろ」
「別にイタチのことが嫌いな訳じゃない、あいつは良いやつだ、そもそも火芽を呼ぶより男子を集めたのが先だった」
「ま、運が悪かったな」
「飲んで忘れましょ、もう済んだことはしょうがないわ」

おいおいおいおい、お前たち。
なんでもう俺が完全に失恋して終了した流れに持っていってくれちゃってるわけ。でも事実でしょ。いや、違うって。まだ諦めてないし。
だったらこれからどうするのよ、そう言って少し声を荒げた紅に詰め寄られたとき、笑い声が聞こえた。これは間違いなく火芽の声だ。
その声は俺の斜め後ろにある階段から響いてきて、そのまま第一キャンパスから第二キャンパスへと続く渡り廊下へ向かう。咄嗟に、柱の裏に隠れた。心なしかイタチの声も聞こえる。

「ねぇ、そう言えばこないだの写真プリントしたいなぁ」
「帰りに電気屋でも寄るか、確かSDカードから印刷できる機械があったはずだ」
「うん、あ、あとね…」

隠れておいて言うのもなんだが、やっぱり、他愛もない会話を交わしながら通り過ぎていった2人に声をかけるなんて出来なかった。
そもそも、俺はあんな風に笑う火芽を見たことがないかもしれない。あんな風に可愛く甘える火芽を見たこともない。
紅が俺の肩をぽんと叩く。
やっぱ、女の紅から見てもそう思うのか。

「完敗よ、カカシ」

そうだよな、ぶっちゃけてしまえば、学食で2人の姿を見たときにはもう薄々感じてた。あ、この2人お似合いだなって、思ってしまったんだ。俺は火芽のことがずっとずっと好きで片想いをしていたはずなのに、それでも。
2人の携帯電話についていたストラップが、お揃いだったから。イタチの奴、少し前まではそんなもの邪魔だからつけないって言ってたくせに。でも、それを覆したのはたぶん火芽で、恥ずかしがらずに自分も同じものをつけていると言うことは、少なからずその程度はイタチのことを好いていると言うわけで。

俺が入る隙なんてこれっぽちもありゃしない。

「ま、しょーがないか」

いつまでもうじうじしていたってキリがない。別に上手くいってるのが今だけなのかもしれないし、俺と火芽の仲が悪くなってしまったわけでもないし、俺とイタチの仲が壊れたわけでもない、俺が2人の間にとやかく割って入らなければいつも通りだ。

のしっ、

アスマが俺の肩に腕を回す。
とりあえず一楽のラーメンだな、そう呟きながらタバコに火をつけた。うん、そうしてアスマなりに励ましてくれるのは嬉しいんだけどさ、この状態でタバコ吸われたらけっこう煙いからやめてよ。
煙が目に染みて涙が出ちゃうじゃないの。





「やっぱりこのトンネルが一番綺麗だったな〜」
「見入ってたもんな」
「うん!あれは何度行っても飽きない!」

テーブルの上にプリントしてきたばかりの写真を並べて、思い出を振り返る。あの初デートからあっという間にもうたぶん1ヶ月は経っていて、その月日を経た私たちは随分と近くなった。時間さえあればお互いのアパートを行き来して、気付けばあっという間に半同棲のような生活をしている気がする。まあ、大学生にもなればこんなことも当たり前なのかな。
うちはくんは物凄くクールなだけなのかと思いきや、それと真逆な人なんだと知った。とても暖かくて、優しくて、意外と甘えんぼな人。今だってほら、たぶん写真ばかり見てる私にかまってほしそうにしてる。
彼の左手が、するすると私の右頬をなぜた。

「んー?」
「火芽、」
「部屋に飾るならやっぱりこれかなー?」
「こっち向いて」

ぱら、

私の手から青い写真が落ちる、彼の唇が私の唇を啄むように食んでは時折リップ音を鳴らして、私はそれだけで蕩けてしまいそう。
突然ぺろりと舐められた唇、驚いて声を上げたその口から侵入する舌に、また、ゆっくりと目を閉じた。



(20131115)

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