せんこうはなび

「もしもし」
「ああ、火芽?俺だけど、同じ部の後輩達と今夜花火やるから来ない?」
「行きます」
「ん、じゃ、大学の駐車場前に19時に集合ね」

はい、と返事をするとぷつんと切れた電話。今の電話の主は高校時代からの先輩であるカカシさんだ。偶然大学も同じになって、高校のときからなにかと私を可愛がってくれていた先輩は大学生になってもこうしてときたま遊びに誘ってくれる、優しいなあ。

「火芽、久しぶりだね」
「カカシ先輩、今日はありがとうございます」

そう言ってぺこっと下げた頭を上げて見れば、カカシ先輩の周りには男の子ばっかり。そう言えば、私は経済学部だけど彼は確か理系工学部だった、忘れてた。でもだからってカカシ先輩のお誘いを蹴るわけにはいかないし、人脈が広がると思えばまぁいいか。花火もしたかったし。と言うか逆に私みたいなのが居て良いのかな。
そんな私の変な心配をよそに、カカシ先輩は「よーし、じゃぁ揃ったしそろそろやるかー」と大きなビニール袋から色とりどりの花火を取り出した。ロケット花火はもちろん、設置型も手持ち型も山ほどある。見たことない種類の花火に、思わず私は目を輝かせた。

「カカシ先輩すごい、こんなのどこで買ったんですか!?」
「んー?お前、花火好きでしょ」

だからこいつらとここいらのスーパー全部回って掻き集めたんだよ、そう言って笑ったカカシ先輩、やっぱり尊敬しちゃう。高校生のときから気が利く人だなぁと思ってはいたけれど、私が花火好きってことを覚えててくれて、わざわざ夏休みに呼び出してくれるなんて普通の人にはなかなかできない事だよね。
カカシ先輩の学部の後輩さんたち(私と同い年だけれど)にはじめましての自己紹介をそこそこに済ませて、私は早速手持ち花火を手に取った。お気に入りなのは途中で花火の光の色が変わる噴出し花火。蛇花火や鼠花火で遊ぶみんなとは少し離れたところで火を点けて、くるくる回ったら光の線もくるくると輪を描いて、色が変わるたびにその光線の色もカラフルに変わる。火がついている間は、その光を眺めているだけでなにもかも忘れられる気がする。花火って不思議。

「…火、もらっても良いか」
「え、あ、はい、どうぞ」

ふいに後ろから話しかけられてびくんと肩が跳ねた。振り向けば、綺麗な男の人が1人花火を持って私を見ている。少しの沈黙のあと、慌てて退けば彼は黙って蝋燭の前にしゃがみ込んだ。さっき挨拶したとき、こんな人いたっけ?そう思いながら、私も彼の隣にしゃがみ込む。彼が握っていたのは線香花火だった。

「…えと、お名前…」
「うちはイタチ」
「う、うちは先輩、私は香宮 火芽」
「俺は1年なんだが…」
「あ、ああ、じゃぁおんなじだ、よろしくね。」
「…あぁ」
「線香花火しかしないの?」
「目に付いたのがこれだった」

そう言って、彼は線香花火に火を点けた。ぱちぱちと燃えるそれは時間が経つにつれてどんどん大きくなっていって、まるで一輪の花が咲いたかのように開く。思わず見入っていたら、目の前にぐいと差し出されたのは線香花火。差し出されるがままに私もそれを1本取った。

「ねぇ、知ってた?線香花火のジンクス」
「…いや、」
「火薬がぽたって落ちることなく綺麗に燃え尽きて終わったら、願いが叶うんだよ。」
「なら、もう1本」

2人で肩を並べてしゃがみ込んで、線香花火に同時に火を点ける。じりじりと火花を散らすそれは私達の顔をちかちかと照らしながら燃えていく。その火がだんだんしぼんでいって、あともう少し、というとき私の手の中の線香花火の火薬はあっけなくぼたっと地に落ちた。

「「あ、」」

そして思わず顔を見合わせて笑う、あ、笑った顔も綺麗だけど、少し無邪気っぽくて可愛い。なんて思いながら、私は燃え尽きたそれを水の入ったバケツに放り込んだ。そんな私を横目に、うちはくんの線香花火は最後まで綺麗に燃えていた。

「いいなぁ、なにをお願いしたの?」
「…あぁ、そうか、願いがひとつ叶うんだったか」
「うんうん」
「…言わないでおく」
「えーっ、けち!」
「人に言ったらつまらないだろう」
「むー」
「おい、そこの2人、打ち上げ花火あげるぞー」
「はーい!」

カカシ先輩の声につられてそっちを見ると、大きな筒から綺麗な光が飛んだ。もはや家庭用花火とは思えないそのクオリティに、思わず息を呑む。火薬がぱちぱち弾け飛んでは夏の夜空に消えていった。

「わぁ、綺麗…」
「…さっきの、願い事、って」
「え?」
「絶対叶うと思うか」
「線香花火の?そりゃぁ、ご利益はあると思うけどな、私は。」
「…そうか」

なにか、本当に叶えたいお願い事でもあるの?彼に向かってそう聞いたとき、左手に指が触れた。それは私の指先を握って、私を少しだけ引き寄せる。もしかして、人にはあまり聞かれたくないお願い事なのかな、そう思いながら、私は半歩彼へと近づく。彼の綺麗なまつ毛が瞬きとともに震え、1拍、深呼吸しているのが聞こえた。

「好きになっても、良いですか」


これが、私たちのはじまりだった。



(20131112)

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