17.Happy Wedding!!!
「似合うじゃない!」 「…そう?」 「綺麗よ、だからほら、いつまでも悩んでないの。イタチさんが心配しちゃうでしょ!」
友達の言葉に、ようやく俯いていた顔を上げる。 私が今着ているのはドレス。それはとても真っ白で、頭には母親の手によってこれまた純白のベールがかけられた。
結婚することが決まってから、よく聞くマリッジブルーと言うものになってしまった私はここまで来るのに本当に本当に苦労した。ドレスや式場選びはまだしも、まず婚姻届けを書く段階で「苗字が変わるのなんて嫌だ」と大泣き。そして自分が1人暮らしをしていたマンションを引き払いたくないと言って2度目の涙。挙句の果てには実家に篭って1週間もしくしくしていたものだからイタチさんはもちろん、家族は母親以外大心配である。 今泣かないのが不思議なくらい、毎日のように泣き腫らして目がパンパンになっていたのも今では良い思い出だ。
「それでは、そろそろご移動をお願いいたします。」 「…私はあっちで待ってるからね。」 「うん…」 「いくら泣いたってお嫁に行くことはもう変わらないんだから、しゃんとしなさい。あなたが決めたことでしょう」 「…うん。」
母親にぱんと背を叩かれて背筋がぴんと伸びる。鏡の前の私はドレスのお陰で確かにいつもより数倍は綺麗に見える。こんな日に泣いてどうするんだ。確かに、イタチさんと結婚すると決めたのは他の誰でもない、私じゃないか。いつまでも悩んでたって何も解決しない。今日こうなることを望んだのだって、私自身だ。
「新婦のご入場です。」
両脇に開かれた大きな扉、天井のステンドグラスから注ぎ込む光の下には、イタチさんが見える。私は父親の腕を組んで一歩一歩ゆっくり歩き出すんだけれど、どうしてだろう、一歩進むごとに胸の奥から湧き上がるこの言いようのない苦しさは。 この足は確実にイタチさんの元へと向かっているのに、なんで私は、こんな大事な時にまで思い出してしまうんだろう。
私と、この場所に立つことが出来なかった彼のことを。
「娘のことを…どうかよろしくお願いいたします。」
いつの間にかヴァージンロードを歩ききった父親が、頭を下げて私の手をイタチさんへ渡す。 イタチさんはそれを笑顔で受け取った。 私の顔は、まだ晴れないままなのに。
イタチさんじゃなくて彼とだったらこんな風にはなっていなかった、そんなことは全く思わないけれど、でも、それを抜きにしてもこの空間とこの環境が私の心を更に締め付けた。本当は笑わなきゃ、笑顔で親元から旅立たなければいけないはずなのに。なんて酷い花嫁なんだろう。
こんなんじゃいつまで経ってもお嫁になんて、
「一生をかけて、火芽さんを幸せにします。」
ハッ、と、顔を上げた。 目の前にあるのは、微笑んでいるイタチさんの顔。 唖然としている私の頬を撫でる手は、私が大好きなイタチさんの大きな手だ。
「私、うちはイタチは香宮 火芽さんを生涯の妻とし、幸せや喜びだけでなく苦しみや悲しみもすべて2人で分かち合い、永遠に愛することを誓います。」
ぎゅう、っと胸が締まる。 思い返せば、マリッジブルーになってからのここ数ヶ月間、ろくな接し方をしていなかった。ほとんどイタチさんの家には帰らなかったし、会ってもあまり笑っていなかったような気がするし、とにもかくにもどこか感謝の念が足りていなかったように感じる。そんな態度を取っておきながら、こんな私にはもううんざりしてしまっているんじゃないか、なんて思い泣いた時も何度かあった。でも、イタチさんが私を責めた時なんて一度もなかった。ドレス選びの時だって、どんなドレスも綺麗だと言って褒めてくれたし、髪型も気の済むまで美容室に行かせてくれた。 出会った時だって、私が悩んでどうしようもなくなった時だって、事故で重体になった時だって、いつも私のために私の味方で居てくれたのは彼だ。
今だって突然ぼろぼろと涙を流す私を少し驚いた目で見ながらも、ハンカチで目元を優しく叩いてくれる。 私をここまで愛してくれる人、どれだけ探したって世界に1人、イタチさんしか居ない。
どれだけ同じところを廻ったら気が済むんだろう。 答えはとっくのとうに出ているって言うのに。
「私、香宮 火芽はうちはイタチさんを生涯の夫とし、幸せや喜びだけでなく苦しみや悲しみもすべて2人で分かち合い、永遠に愛することを誓います。」
涙混じりにようやく誓いの言葉を言い切った瞬間、ベールが上がり、視界が晴れていく。 目の前のイタチさんはやっぱり笑顔で、私の頬の涙を拭いながら問う。
「いま、幸せか?」 「…うん、とっても」
そして私たちはみんなの前で涙味のキスをした。
別に幸せばかりじゃなくても良い。辛いことだって悲しいことだってたくさんあるだろうし、乗り越えなきゃいけないこともきっとたくさんある。 でも、それを一緒に乗り越えるのがイタチさんだから。 イタチさんとだったら、どんな難しい問題でも一緒に乗り越えていけると思うから。
例えば、ほら、全力でライスシャワー投げつけてくる幼馴染たちにも、ね。
Happy Wedding!!!
(俺の分まで幸せになりやがれ!!) (お前、やり過ぎだ) (い、いったぁい!)
自己満足でしかないけれど、この空の向こうで彼が笑ってくれているような気がした。
20131202
The end
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