答え合わせ


3月某日、綺麗なマンションの下で、私はうろついていた。

【今から帰宅するので、家に来てください】

そう書かれたメールを読んで、いてもたってもいられなくなり家を飛び出してきたものの、到着が早すぎてイタチ先生がまだ帰宅していないというオチ。
なんて恥ずかしいんだと思いながらもマンションの入口はオートロックなのでエントランスに入ることすら叶わないし、来てしまった以上はどうしようもないのでこうして辺りをうろついているのだ。しかも何も考えずに来たため茶菓子など気の利いた手土産もなし。イタチ先生はそんなこと気にする人ではないけれど、今日は特に気にしてしまう。私が。

「ヒメさん?」
「ひゃ!?お、おかえりなさいませ!」
「驚かせてしまったようですまない…」
「い、いえ、こちらこそこんなところですみません、早く着きすぎてしまって」
「いや、俺のほうこそ待たせてしまったし…早く入ろう」
「はい」

とてつもなくいたたまれない空気が漂うエレベーターを降りて、この1年ですっかり通い慣れたイタチ先生の家にお邪魔する。心臓に時限爆弾を埋め込まれているんじゃないかと思うほどに、私は緊張していた。ぎこちない動きで洗面所を借りて手を洗い、リビングに戻ると、あろうことか先生がラグの上で正座をして待っている。

「先生…?」
「まず、」
「はい」
「連絡が遅れてしまってすまない、言い訳にしかならないのだが、学校関係でばたついてしまっていて…ちゃんと時間が作りたいと思っていたら、今日になってしまった」
「お仕事が第一ですから、そんなこと気にしないでください、本当に。こうして連絡いただけただけで私は嬉しいです。」

頭を上げてくださいと言いながら、私も彼の前に正座をする。
これも遅くなってしまった、とおずおずと差し出された洋菓子店の紙袋。律儀だなあ。
でも正直私が欲しいのはお菓子でも謝罪でも何でもない。
顔色を伺うようにイタチ先生のほうを見やった私の心境を察してか否か、彼はひかえめな咳払いのあと背筋をピンと伸ばした。ああ、ついに来る。

「正直、生徒には興味がなくて…教育実習の時も、生徒たちをそんなふうな目で見たことが一度もなかったし、範囲外だった。」
「はへ、」
「と言うかそもそも俺は恋愛という恋愛をしたことがなくて、初恋と呼べるものも…よくわからなくて、告白は何度かあったが、自分の気持ちが相手のそれに追いついていかなかったし、知りもしない相手だったから受けたこともなくて。」
「…はい」
「でも、ヒメさんと話して、こうしてプライベートで会って距離を縮めていくうちに、こう…離れている時でも、今何をしているんだろうとか…気づけばヒメさんのことを考えるようになって」

伸びてきた右手が、私の髪をさらりと梳かす。

「触れたい、と…思ったり、して、こんな気持ちになったの、初めてで…」
「…」
「つまり、俺はヒメさんが好きです。」
「せ、んせ、」
「歳の差もあるし、まだヒメさんは未成年だしと思っていたんだが、告白してくれた時…嬉しくて」

余裕ぶっていた時もあったけれど、本当はそんな余裕なんてどこにもなかったんだと笑うイタチ先生に、我慢ならず抱きついた。
こんなにたくさんの言葉を私に言うためにわざわざこうして時間を作ってくれたんだと思ったらそれだけで幸せだ。
私をぎこちなく抱きしめる腕を背に感じて、自分の腕に入れる力をぎゅっと込めた。
ああもう、大好きすぎる。

「私もすっごく嬉しいです、先生」
「…付き合ってくれますか」
「もちろんです、私からもお願いします。」

にやにやが止まらない顔をそのままに思い切り抱きしめ合って、幸せを噛み締めて、私この人と両想いになれたんだなって実感した。

「とりあえず、まずは」
「ん?」
「“先生”を外すところからだな。…ヒメ。」

幸先は、悪くはなさそうです。




(20170629)


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thanx!! :)


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