(イタチ)

 
 
この、時が止まるような感覚を、私は一生忘れないでしょう。
 
 
雪がちらちらと降っている中、木ノ葉隠れの里のうちは一族の集落で、彼と私は出会った。
それなりに名のある一族の長の長女だった私は、親の親友であるうちは一族の長の長男様とご面談と言う形で、木ノ葉隠れの里に連れて行かれた。最初は、この集落の外に出るのが怖くて怖くて嫌だった。私の一族は、その血継限界のあまりの強さゆえにどこの里にも属さず独立していたためアカデミーにも入学できず、一族の子供たちは一族ならではの教育方法で忍としての生き方を学んでいた。つまり、あまり集落の外に出たことがなく、一族以外の人間ともほとんど関わりが無かったのだ。そのため、私は人見知りが激しく初対面の人間(特に同世代)とのコミュニケーション能力は無に等しい。しかし両親はそんな私を不憫に思ったのでしょう。久々に親友に会いに行きたい、と言って私までも集落の外に連れ出したのが、事の発端だった。高い塀に囲まれた木ノ葉隠れの里はとても賑やかで、一層私の人見知りを煽ったが、物珍しさも手伝って私はありとあらゆるものに興味を持った。幸いにも長の長女だったため生活に不自由を感じたことは今まで一度もなかったが、このとき初めて私は自分の住む集落がとても狭い世界なのだと心底思わされた。人の多さ、何しろ子供が多い。同年代の友達なんて集落には5、6人しか居ないのに、この里には何十人と居る。眼に映るもの全てに夢中になっているうちに、大きなのれんがかかっている門の前へ着いた。
 
「**、ここよ。」
「久しぶりだなー、**が3歳の時以来か…、ちゃんと挨拶するんだぞ。」
 
両親と他愛もないやり取りをしていると、2人の男の子が門をくぐってやってきた。刹那、硬直する私。綺麗な黒髪に曇りの無いまっすぐな瞳、整った顔。2人はどうやら兄弟のようで、1人は私と同じくらい、もう1人はまだ1歳くらいだろうか、可愛い笑顔をこちらに向け、しっかりと兄の手を握っていた。無論、私は兄のほうに釘付けになっていたのだが。
 
「あの…、両親のご友人と言うのは、」
「俺たちのことだろうな。君はイタチくんだっけか?大きくなったなぁ!」
「はい、うちはイタチです。よろしくお願いします。」
「ほら、**。」
「は、初めまして、**と申します。」
 
ぺこりとお辞儀をすると、これまた綺麗な笑顔で返されて、私はどうしたら良いか分からず赤面する。すごく大きなお屋敷の広い和室に通されて、両親とは違い居慣れない私は正座で大人しく座っていることしか出来ず、ただ脳内には彼の名前と顔だけがぐるぐると駆け巡っていた。あの美男子はきっと私と違いアカデミーに通っているのだろうな。ぼんやりとそんなことを思っていると、母親から声がかかる。
 
「イタチくんと遊んできたら?」
「えっ、」
「折角同い年のお友達が出来たんだもん、仲良くしてらっしゃいよ。」
 
そう言って私を部屋の外へ追いやった母親。まぁ、父親がお酒を大量に持ってきていたところを見ると、粗方、今夜大人同士で盛大に飲み会でも開くのだろう。そうなれば必然的に私の相手も出来なくなり、私は独り。今のうちから遊び相手を作って仲良くしておきなさい、と言ったところか。彼らと遊ぶかどうかはともかく、この広いお屋敷に興味津々だった私は屋敷内を探検することに決め、長い廊下を歩き始める。縁側の向こう側は手入れの行き届いた素敵な庭が広がっており、思わず立ち止まって見入ってしまった。正確には、庭で木に向かい手裏剣を投げているイタチくんに、だけど。隙の無いフォーム、彼の手から放たれた手裏剣は寸分の狂いも無く的の真ん中に突き刺さっている。あまりにも彼に見とれすぎて、背後に彼の父親が居たことにすら気付かいほどだった。
 
「父上、いらしたのですね。」
「あぁ…**の姿が見えたからな。お前が気付かないなんて…」
「す、すみません!」
「いいんだ、**が悪いんじゃなくて、気配に気付けなかったイタチが悪い…と言うか、気配を消すのが上手だな、**は。」
「ありがとうございます。」
「こりゃ暗部も目じゃない、流石あいつらの娘だ。」
「…あんぶ?」
「あぁ…そうか、『暗殺忍術特殊部隊』と言ってね、**のお父さんとお母さんがトップでお仕事しているところだ。」
「…えっ?」
 
イタチの父親から、まさかのカミングアウトに戸惑う私。まさか両親が木ノ葉隠れの里で仕事していたなんて、見たことも聞いたこともない。それどころか、てっきり私の一族は嫌われ者だと思っていた。なのに、それがトップで働いている、だなんて。
 
「まさか知らなかったのか?」
「…はい。」
「じゃぁ、春に中忍試験を受けることも…」
「誰が…中忍試験を?」
「フガク、その辺にしておけ、**にはまだ何も言ってない。」
 
もう少しで答えが聞けたのに、私の父親の登場により丁度いいところで話が遮られてしまう。腑に落ちない顔をして睨む私の頭をぽんぽんと撫でつけ苦笑した父親は、もうそろそろ言おうと思っていたんだけどな、とイタチくんのお父様に呟いた。彼のお父様は、やれやれと言った風に呆れた顔をしてため息をついている。
 
「いや、今まで言わなかったのにも訳があってだな!」
「なんだ、言ってみろ。」
「もう1年様子見で仕立て上げて、暗部試験に」
「中忍試験、一緒に受けさせてください!」
「…えっ?」
「俺と同じチームで受けさせてください。…絶対、2人で中忍になります!」
 
しん、と静まり返る一同。声を上げたのは意外にもイタチくんで、多分一番驚いているのは他の誰でもない、この私で。彼とはまだ自己紹介でしか言葉を交わしていないのに、なんで?と疑問しか浮かばず、でも、本当は内心なんだか嬉しくて。今考えれば非常に申し訳ないことなのだが、複雑な心境に私は反応することすら出来なかった。父親たちも一瞬唖然としていたが、途端に笑顔になり、イタチくんの肩を優しく叩いた。
 
「そうかそうか…、やっぱり来てよかったかもな。」
「…やっぱり、ダメだったのか。」
「んー、まぁそれはここで話すことじゃない。夜にでもゆっくり話す。」
「あぁ。」
 
大人たちの意味深な会話はさておき、残された私たちはお互いに恥ずかしさのあまり目も合わせられず、数日の間ぎくしゃくしていたのを今でも鮮明に覚えている。

そして私たちの関係の始まりは、少し間を置いて6歳の春、桜が舞う季節に訪れた。




(はじまりの季節、あの頃はまだなにも知らなかった、白く幼い私たち)



2013/2/16
朱々



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