最期にキスして、


切(死ネタ)
千鶴様
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まだ蝉が鳴く残暑、久々の非番に、俺は○○を甘味処へ呼び出す。イタチから呼び出すなんて珍しいね、そう言って笑顔で応じた彼女と、2人向かい合ってカキ氷を食べた。じわじわと汗ばむ身体に時折ふくそよ風が心地良い。目の前には愛しい彼女。この幸せなときがこの先もずっと変わらずに続けばどんなに良いことかと、思った。

「どうしたの?早く食べないと溶けちゃうわよ?」
「あ、あぁ…」
「なにか…あったの?」
「いや、何もない…気にするな」

そう言って笑顔を作って誤魔化し、カキ氷をほおばる。こめかみがキン、と痛んだけれど、そんなことより、さっき俺は○○に対して上手く笑えていただろうか。そんな余計な考えが脳裏をよぎる。彼女は腑に落ちない顔で俺を暫く見つめていたが、そのうちまたカキ氷を口に運び始めた。

「やっぱり、今日のイタチなんかおかしい。」
「そんなことはない、」
「なくない!だってさっきからずっと上の空だし、顔も引きつってるし…絶対なにかあったでしょ。」
「…別に、」
「また…あの会合のせい?」
「…」

少しの沈黙の後、○○はふう、と大きなため息をつく。彼女が言う”あの会合”とは、うちは一族の中でも選ばれた者だけで行われる集まりのことで、彼女の父親もこれに参加していた。だからきっと彼女はどこかでこの情報を仕入れているのだろう、首すら振らない俺を見つめて、帰り道の途中、握る手に力を込める。俺は立ち止まって彼女の顔を見た。気付けばすっかり陽は落ちてあたり一面オレンジ色に染まっている。

「…俺は…、」

抱き締められた、身体。俺の首を抱く○○の腕が、身体が、震えていた。○○は悪くない、なにも説明できず不安な気持ちにさせている俺が全部悪いのに。なのに彼女はそんな俺を抱き締めて泣いていた。

「イタチは、なにも悪くない。」
「…○○、」
「辛いなら無理して話さなくたっていい、けど、これだけは覚えてて。」

そう言うと、彼女は俺を抱き締めていた腕をほどいてそのまま両手を握り、俺の目を見た。その目は心なしか潤んでいる。

「イタチがこの先どんなに周りから恨まれるようなことをしたとしても、それでもあなたがしたことなら、それは正しいこと。あなたはなにも悪くないの。…わかった?」

なんて不条理な、そう思ったけれど、俺はそれを飲み込んで頷いた。まるで彼女はこれから俺が成さなくてはならないことを全て知っているかのようだった、否、今思い返してみれば彼女はこのとき既に全てを知っていたのかもしれないけれど。
この手で彼女の胸に刃を突き刺したとき、俺は正直自分の肉親を討ったときよりも「やってしまった」という悲しみが強かったし、なにしろ辛かった。直前まで、何度となく彼女を一緒に連れて行けたらと思い悩んだ。でもそれは叶わず、今彼女は俺の腕の中で死を迎えようとしている。

「なんで…あなたが泣くのよ…」
「俺は…俺は○○を誰よりも愛しているのに…なのに、」
「言ったでしょ?あなたは…なにも悪くないわ、」
「…○○、」
「イタチ、愛してる、…ごめんね、先に逝って待ってるから、」

最期にキスして、

そう言って口付けとともに目を閉じた○○は、それから2度と目を覚まさなかった。まるでお伽話のお姫様のように綺麗な顔だったが、何度唇を落としたところで彼女の灯火は戻ってきやしない。

ちりん、と甘味処の風鈴の音が俺の横を切なく通り過ぎていった。


2013/05/27
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