遠く眩しい誓い


切愛
ラン様へ 16800Hit記念



冷たい空気が私の頬をなぜる、あなたはもう居ない。


あなたはもう、居ない。



「兄さん、今日は手裏剣の稽古見てくれるでしょ?」


ある日の朝、いつものように任務へ赴くイタチを玄関まで見送りに来たサスケは、いつものように手裏剣の稽古をしてくれとせがむ。そんな彼を見て、イタチを迎えに来ていた私はくすりと笑った。


「サスケはイタチが大好きなのね。」
「うん!」
「許せサスケ、また今度だ。」


イタチに とん、と額を突かれたサスケは、膨れっ面をしながらも私たちを笑顔で送り出す。これはいつもの見慣れた光景、今日も今日は幸せに過ぎていくはずだった。しかしいつもより酷く無口なイタチに疑問を感じ、私は彼に話しかける。


「イタチ、…何か、嫌なことあった?」
「い、いや…」
「そんなの嘘、考え事してるでしょ。」
「…あぁ…」
「何を考えてるの?」


私はイタチの前に回り込み、顔を覗き込む。けれど彼は私の頭を撫でて苦笑するばかりで、結局何も言おうとはしない。そんな彼に少し腹を立て、私はつい口調を荒くする。


「またそうやって、あなたは私に何も言ってはくれないのね。」
「…すまない」
「謝らないで、今に始まったことじゃないわ。」


私が思ったことをすぐにぴしゃりと言い放てば、彼は一層黙り込む。この沈黙が凄く心地悪くて、私は無理にテンションを上げて見せた。しかしそれは大して実を結ばず、また気まずくなった私はいつもの台詞を彼に告げる。


「イタチ、言いたくないなら言わなくても良いわ、…だけど、突然居なくなったりは、お願いだから絶対にしないでね。」
「…○○、」
「なに?」
「俺、…何でもない、」
「ちゃんと言って!」
「本当に、何でもないんだ。すまない、紛らわしいことをしてしまったな。」
「なんで…そんなことでわざわざ謝るの…」


いつになく沈んでいる様子のイタチを見つめ、私は顔を歪める。この時に、何がなんでも彼が悩んでいたことを聞いてあげていれば、あんなことにはなっていなかったかもしれないのに。何も知らない愚かな私は、ただ彼の手を握り、黙って涙を流すことしかできなかったんだ。
今思えば、あの時の私の涙を見て、一体あの人は何を思っていたのだろう。「自分のせいだ」と責任を感じさせてしまっていただろうか。何にせよ、原因は私だったのかもしれない。ただ、あれから数日後に彼が喉の奥から絞り出すような、けれどハッキリとした意思を持った強い声量で私に言った「話したいことがある」と言う言葉が、いやに耳に残っていた。


そして今私の目の前に広がっているのは赤く染まった道、人、眼、月。倒れたサスケを呆然と見つめながら、イタチは泣いていた。私は訳が分からないまま動かない脳味噌と身体を必死に働かせながら、彼を強く抱き締める。すると彼も私の背に腕を回し、嗚咽を漏らしながら一層強く泣きじゃくった。


「…イタチ、大丈夫、私は…あなたのことを一番よく解ってるつもりよ。」
「…○○、」


後頭部に回されたイタチの逞しくも細く大きな右手、腰に回された左手、近付く顔と顔、唇と唇。この小さく大きな戦場で、私たちは必死に愛を繋げていた。舌を絡ませ合い、熱い涙を流し、これ以上ないくらいに深く、深く。そして彼は私を抱き締めながら耳元で言った、


「俺はこれから里を抜けなくてはならない。」
「そんな!だったら私も」
「○○。…俺は、5年後には必ず木ノ葉に戻ってくる。サスケが下忍になる頃だ、」
「…私に…サスケを?」


イタチが気にかけていること、それはサスケのことだと、私は悟る。分かった、サスケの面倒は私が見るわ、と約束したけれど、それでも彼は未だ私へ言の葉を告げるのをやめなかった。


「別に俺のことを気にかける必要はない、この先○○に好きな奴が出来たならそれで良い、むしろその方がお前にとっては幸せなんだと、俺は思う。」
「いや、そんなの絶対に」
「だが、…もし、俺が帰って来たとき、まだ○○が俺のことを少しでも好きでいてくれたら…その時は、結婚しよう。」


その台詞を言い終わった瞬間、一層強く抱き締められた身体、強く押し付けられた唇の熱が冷める前にイタチの姿は私の視界から溶けて消える。私は瞬時に泣き崩れ、彼の名を叫んだ。



愛はここに確かにあった。そして今もこれからもずっと在り続ける。けれど、私の隣にあなたはもう居ない。


あなたはもう、居ない。




(それは色褪せることなく私の中で永遠に光り続ける、)


2009.4/4
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thank you!! :)



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