今宵は紅い満月


切甘
菜月様へ 16500Hit記念



「もう…別れよう。」


私の心臓が一瞬止まったような気がして、右手で胸を押さえた。目の前の彼は、顔色1つ変えずに私を奈落の底に突き落とそうとしている。なんで、昨日まであんなに幸せだったじゃない、そう言いたかったけれど、私の口は言うことを聞かず、ただ冷静を保って立っているのがやっとだった。でも理由くらい聞きたい。私は閉ざされた震える唇を無理矢理こじ開ける。


「どう…して、」
「…もう好きじゃないんだ」
「嘘、…そんなの、嘘よ…」


だって昨日は付き合って6年目の記念日だから、って、お互い忙しいのにわざわざ無理に休みをとって丸1日一緒に居たじゃない、今日だって任務の帰りに一緒に夕飯を食べようって、うちに来たばかりなのに。なのにどうしてどうしてどうして、どこまでも今を読み込めない私の頭は空回りをし始める。遂にぐらりと揺れた私の身体をイタチが咄嗟に支えてくれたけど、私はその手をぱちんと叩いた。


「好きじゃないなら…触らないで…!!」
「…○○、」
「名前も呼ばないで…もう、どこかに行って!」
「…すまない。」


謝るくらいなら、あんなこと言わなきゃ良かったじゃない、可愛げもなくそう呟いた私を悲しげに見つめ、イタチは重い足取りで玄関へと向かう。私は既に虚ろな眼で、今日の任務で使った毒薬の余りを手にしていた。


「これを飲めば…もう、辛い思いしなくても…すむよね…」


この窮地に立たされて思う、自分はなんて陰湿な女なんだろう、だけど私にとってイタチはそのくらい絶対に居なくてはならない存在だったの、ずっと小さい時から仲が良くて、幼いながらも「大きくなったら結婚しようね」って誓ったりもした。イタチはそんなこと、もう忘れちゃったのかもしれないけど、私はずっと覚えてる。ずっとずっと、信じてたのに。


「もう…私のこと、好きじゃないんだってさ…」


一筋流れた涙も拭わぬまま黒紫色の液体を飲み干した私は、ゆっくりと床に倒れる。本気で死んでも良いと思っていた、むしろ死にたいと思っていた。けれどその思いは叶わず、数日後に私は再び目を覚ます。そこは何もかもが真っ白な世界で、暖かい雨が私に降り注いでいた。


「○○…良かった…!」
「…ここは…」
「病院だ。○○、なんで毒なんか」
「帰る、」
「馬鹿言え、まだ安静にしていなくては」
「好きじゃないなら構うなって言ったでしょう?もうあなたに心配される筋合いないわ、私はもうあなたの彼女じゃない、ん、んんぅ、」


突然押し付けられた唇に抵抗する暇もなく、訳が分からないまま強く抱き締められる。ここでようやく彼が泣いていることに気付き、私は目を丸くした。


「…っ…、なんで…イタチが泣くのよ…」
「まさか…○○が死のうとするなんて…思わなかった」
「じゃぁ、なんで好きでもないのにキスなんか、」
「あんなの嘘に決まってるだろう!!」


突然物凄い剣幕で怒り出したイタチに唖然とする。私を好きじゃなくなったのが嘘だった、じゃぁなんで別れなきゃならなかったの?そう聞いたけれど、彼はそれをなかなか話そうとはしなかった。


「…任務が…忙しくなるんだ。」
「今までだってそうだったじゃない!」
「今までより、もっとだ。それに、今度の任務は…もう、木ノ葉には戻って来れない任務で」
「どういうこと?」
「…内容は言えない、…極秘任務だからな…」
「だから…別れようって言ったの…?」


そう聞くと、彼は気まずそうに首を縦に振った。だけど私はそれを認めたくなくて、1つの決心をする。


「私も、あなたの任務についていく。」
「馬鹿言え、そんなことさせられるわけがないだろう!」
「だって…イタチと離れるなんて私には出来ない…これからも一緒に居たいもの…」
「それにしたって、内容が…」
「あなたのためなら何だってやるわ、あなたを失うくらいなら何だって、」


そう言ってイタチを強く抱き締めると、彼は嬉しそうに私の頭を撫でた。そして彼は覚悟を決めて任務の内容を私に耳打ちする。大丈夫、もう迷いはない。また唇を深く合わせ、私たちは最後の涙を流した。


今宵は紅い満月

(あなたと私の新しい門出は、怖いくらいに美しい満月の夜が良い。)


滅亡


2009.4/2
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thank you!! :)



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