いじる


「ねえねえ」
「んー」
「…ねえねえ」
「んー」

かれこれ数分間はこんなやり取りをしている気がする。
私の隣には、ベッドに座って本を読むことに集中しているイタチが座っていて、その目はずっと手に持っている本に向けられている。私は別に、拗ねているとか、この状況にイライラしているとかそういうことでは断じてない。
むしろ、この状況を誰よりも楽しんでいるのだ。
イタチがこうなったら生返事しか返さず、何をされても動じないということに気づくのには一緒に住み始めてからそう時間はかからなかった。今だって、脇腹をつつかれているのにも関わらず微動だにしない。なんだこれ、面白い。そう言えば、前は耳に息吹きかけてもなんともなかったなあ、なんて思い出す。一体なにをしたら彼がこっちを向いてくれるのか、試したくなってきて好奇心が疼いた。

まず、普通に声をかけるのもだめ、つっついても意味なし。と、きたら、次は。

「イタチィー!!」
「んー」

…大声で叫ぶのも、だめか。
でも、このくらいで諦めてはいけない。私の挑戦はこんなところでは終わらないのだ。
髪紐を解いても、三つ編みおさげにしても反応なし。後ろから抱きついても…え、流石にちょっとくらい反応してくれたっていいんじゃないの?ってくらい反応なし。
本の下から顔を出しても表情ひとつ動かさない。目の前でお菓子を食べてもこちらをチラ見すらしない。足の裏をくすぐってもぴくりとも動かない。イタチの太ももに膝枕しても何も言わないし、首筋にちゅうしてもフルシカト。
どんだけ集中力あるんだこの人。

流石の私も、これ以上どうやっていじろうかってアイディアが切れてきて若干飽き気味。
どうせもう何やっても反応しないんだろうし、何やっても一緒でしょって諦めの気持ちも大きい。とりあえず1人で騒ぎ倒して喉が渇いたから、飲み物でも飲もうかと寝室を抜け出してキッチンへ向かった。

途端。

「ヒメ?どこ行った?」

え?あまりに驚いて、返事をしようと思ったのに声が喉につかえる。
あれだけ周りでうろちょろしても何も反応しなかったイタチが、本を読むのを中断してまで私を探してる…?
イタチは私の返事がなかったことによっぽど不安を感じたのか、本を読むのを中断するどころか、本を置いて寝室から出てきた。ちなみに、いたずらされたままの姿だから髪型はきっちり三つ編みおさげである。(しかもまだ気づいてないと思う)
そんな彼がひょこっと顔を出した様があんまりにも可愛かったものだから、私は思わず飲んでいた麦茶を吹き出しそうになったのを無理矢理飲み込もうとして盛大にむせた。麦茶が変なとこに逆流して鼻が痛い。プールで溺れたような感覚に唸っている私を見つけて、イタチが近寄ってきた。ちょっと待って、それやったの私だけど、ほんとに笑っちゃうからやめてってば。

「急にいなくなったと思ったらなにをやってるんだ?」
「喉渇いたから麦茶飲んでた、の」
「…そうか、」
「イタチ全然かまってくんないし、つまんない」
「すまない、つい集中してしまって…」
「別にいいよ、怒ってるわけじゃないもん」
「でも、折角2人でいるのに…俺も悪かった」
「だけど、お休みの時じゃないと本も読めないでしょ?私のことは、本読み終わってからかまってくれたらいいよ。」
「…」

まだ何か言いたそうな顔をしているイタチの背中をぐいぐい押して、私はまた彼を寝室に押し込む。さっきのは、半分本音、半分嘘。2人でいるんだから2人でなにかしたいって思う気持ちもあるけど、いざ何をする?ってなったところで特に何もすることないし、出かけたいところもないし。だったら、たまには1人で好きなことをする時間も大事なんじゃないかなって思うのも事実。イタチ本読むの早いし、もうちょっとすれば終わるでしょ、そしたらそのあと思う存分かまってもらえたら、私はそれでいいんだ。
ベッドに座ったイタチが私の腕を引く。ん?と思いながら引かれるままに彼に近づくと、そのまま彼がかいたあぐらの真ん中におさめられた。え、これは流石に、私待っている間何もできないじゃないの。そう言いたかったけど、彼が予想以上に満足そうな顔をしていたから何も言えず、私は渋々前を向く。
イタチが読んでるのなんて、どうせ私が理解できないくらいに難しい内容の本なんでしょ。こう、細かい文字だらけの…

「!?」

ふと、彼の手で広げられている本の文章を読んで体が強張る。

え?え?

何回も何回も見たけど、何度見ても私の目の前にあるこの本は、官能小説だ。
嘘でしょ。イタチってば、さっきからずっとこんなえろい内容の文章をあんなポーカーフェイスで、って言うか、えええええ!

「…これ…どこで買ったの」
「カカシさんにもらった」
「カッ…」

カカシさんは、私たちの大学時代の先輩だ。
確かに彼ならやりかねない、と言うか、こんなものをイタチにプレゼントする人は私の知る限りでは彼以外にいない。
思わずその本を彼からひったくって丁寧にかけられていたブックカバーをぺろりとはがす。鮮やかな緑色の表紙に書かれている題名は、イチャイチャタクティクス…ま、間違いない。これはあの映画化にもなった…

「ま、まさか、これの他にも…」
「全巻セットでプレゼントしてくれたんだ、読みたいならあそこの本棚に入ってるぞ」

そうじゃない、って否定の言葉はもはや口から出なかった。ああ、なんか幻滅とはまた違うけど、なんというか、はあ。
しばらくして、予想外のことにぽかんと放心状態になっている私をよそに、イタチは持ち前の集中力で一気に本を読み終えたようで。ぱたんと本を閉じ、満足そうに息をついた。こんな彼に一体どんなリアクションを返していいのか、私にはちょっと分かりかねる。
そしてそのまま私の腹に腕を回して擦り寄る彼を、慌てて押しのけた。なに、1人で官能小説なんか読んでいい気分になっちゃっているんだ。流石に、そんな事後処理みたいなえっちはお断りだ。

「…ヒメ、」
「嫌よ、そんなの、これ読んでたイタチが悪いんでしょ」
「別にこれは関係ない。俺が反応するのはヒメだけだって知ってるだろ?」

ぬめり、彼の舌が私の首筋をなぞる。
なにするの、と首をすくめると、「仕返し」とつぶやいて口角を上げた。あ、私が首筋にちゅうしたの気づいてたんだ。って、そうじゃない!
そんなことを考えている間にも、彼の手はするすると私の衣服を持ち上げていく。ちょっとちょっと、流されてなんかあげないんだからね!と振り向きざまに睨みつけたけど、嬉しそうに唇を重ねられただけだった。ちくしょう。

でも、流石にこれだけはいただけない。
キスしたままベッドに倒されながら、私は必死に手を伸ばして彼の三つ編みを解いた。



20140920
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