「うう…」

「いつまで泣いてるの」

「だってぇ…」

「だったら別れなきゃよかったのに」

「潔ちゃん…私が決めたことだし…」

今にも死にそうな表情で、顔を埋めている若菜に驚きと呆れ、そして非難をたっぷり込めた言葉を送る潔子。若菜の持つビールジョッキが溢れないよう遠くに置きながら。

潔ちゃんとは私が親友という贔屓目なしに美人さん。高校の時なんか、部活の後輩に女神とか言われて崇められていた。本人は迷惑そうだったけど、大学に行ったら行ったらで女神と言われるから悟りを開いたらしい。今も昔もクールにスルーしてたのに。

「高校1年の時からだっけ、好きなの」

「……うん。」

ずっと好きだった。真っ直ぐに前を見つめる目が眩しくて羨ましくて。バレー部に入ってバレーが大好きな人だったからバレーに興味を持って、大会には行ける限り行っていた。大地くんの頑張る姿を見て、自分も頑張ろうって何度も思えた。

「…大地から連絡はない?」

遅れてやって来た菅原が、潔子の隣に座って問い掛ける。若菜は鞄から何かを取り出すと潔子に渡す。つい数日前まで持っていたはずのものとは明らかに形状が違うスマホだった。

「機種変えたの?」

「機種変じゃないよ。前のは解約した」

「ん?…番号もメアドも変わってるって事だべ?」

「うん。すっぱり諦めたいし…」

今はLINEがあるから連絡に関して問題ないし。大地くんを諦めるために泣く泣くブロックして、鍵を掛けていた大地くんとのメールや、保存していた大地くんのメッセージや、こっそり撮った部活で真剣な表情の大地くんの写真も、全て消した。
大地くんは高校でも大学でも男前で格好いい性格からモテていたけれど、大地くん自身はいつも一緒にいる菅原くんだと思っていたらしい。けれど…と、潔子を若菜は見る。

「どうかしたの、若菜」

「潔ちゃん相変わらずの美人だと思って」

「そう?若菜はずっと可愛かったけれど、最近更に可愛くなったと思う」

「うう…冗談をやめてよぉ…」

大地くんが誰かに告白されてもずっと断っていた理由。
自分の親友と自分の好きな人を応援して、2人を祝福した優しい人。
傷付いた彼に漬け込んだのは私。

「…もう、いいんだよ」

私の我が儘だったから。


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