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魔界ーーーー悪魔の住む世界。
その魔界を支配する王。
「魔王」
だが、魔王の座は永らく空席であるーーーーというのは、魔界における一般常識。知らないものは悪魔ではないと虐められるこの世界の基本。赤子でも分かるこの世の真理である。
次の魔王になるのはいったい誰なのか、何時まで魔王という存在に座るものはいないのか、魔王とはどんな人物が成るべきなのかと騒ぎ立てる者達も少なくはないが、先代魔王に親しかった者達はいずれも魔王に成れる逸材の存在を知っていた。


失せろというだけで半径1km以内を更地にする魔力量。
何百何千数え切れないくらいに誘拐に来た悪魔を返り討ち。
その瞳と見たものは石化して一生石像から戻れない魔眼を持ち。
存在が幻とさえ言われる人間を食べたことがあると言われている。
立てば残忍酷薄、座れば残酷非道、歩けば冷酷無情。
闇のような純度の高い濡れ羽色の、指の間からさらさらと溢れ落ちる髪。
感情が何一つ浮かばす際立ったものの影も無い、真っ赤に染まる瞳。

その正体は、かつて魔界を統べた消失の魔王デルキアの血筋。曾が幾つかつく孫である。多分。

というのも、つい最近まで存在すら無き者とされ、隔離されていた。彼女が発見された場は悲惨な状況であった、というのを知るものは片手で足りる。あまりの残虐さに耐えかねた親が捨てたのではないかと噂もされている。では、数百年前に魔王の座にいた彼の血筋だと何故思ったのか。それは単純である。先代魔王の事の事を分かる者達はそれを、よく知っていた。ーーーー彼女の雰囲気が確かに、彼の血筋なのだと。先代魔王が結婚した経歴も子供がいた記録も全く存在しないが、たったそれだけで、彼から受け継がれた血なのだと本能で悟った。
しかし次期魔王として逸材でありながら彼女はまだ幼い。上記の理由により13冠の中でもトップ3にあたる人物。魔界三傑のサリバン、ベリアール、レディ・レヴィの3人の中から魔王代理を選出する事になった。が、全員消極的なのが現状であった。
我こそは次期魔王と言わんばかりにまるで返り血で染まったかのような瞳でじっと見つめてくる消失の魔王デルキアの血筋として名を束ねる者ーーーーアリアナに畏れ慄く者は後を絶たない。全ては彼女の思うがままの世界の為に動いているのだと、彼女が魔界を握り全てを支配するのだと、圧倒的な力の前で頭を下に向け、平服せざる得なかった。

幼い体に不釣り合いな膨大な魔力に危惧した者たちも少なくはない。魔界三傑もそうである。いずれ破滅の道を辿ってしまう可能性も無きにあらず。さあどうするべきかと考えて。都合良く先代魔王が残した黄金の指輪を発見し、それを少女の右指に嵌め込んだ。その瞬間、莫大な魔力は強い魔力とミラクルチェンジ。
ひらりと落ちてきた紙を掴んだサリバンは「もしかしたら必要かもしれないし必要じゃないかもしれない俺の血筋のものが仮にいた時専用魔力制御指輪だから大切にしろよ!因みにこれは俺の血筋以外が嵌めると…」長いのでサリバンは見なかったことにしてポケットにつっこんだ。
さらっと紙に書いてあった内容を読んだ限り指輪は年齢と本人の精神状態に合わせて魔力の放出量が変わってくるという優れもの。つまり大人になれば彼女の本来の莫大の魔力が彼女自身と完全に噛み合い、釣り合うのだ。因みに彼女が血筋でなかったらどうなってたのだろうかとかは考えない。悪魔だから思い至らない、そうなったらそれまでの事である。興味の薄いことには感心が少ないのが悪魔の実態である。逆に言えば一度興味を持ってしまえば、楽しそうと思ってしまえば関心が生まる。多少興味を抱いても、彼女のことは全く知らない。それを作る時間があるなら会議に参加しろよという思いが一瞬浮かび、はてと呑み込みサリバンは以前と比べてつるりと光る頭に手をやった。
何故なら、気付いてしまったから。

莫大な魔力が消えて、普通の悪魔より強くて我々には叶わない魔力を手にした少女は。
今まで魔王の血筋というフィルター越しにしか見てなかったことに気付いた彼女は。
頼れる人が何処にもいなくて、ずっと、ずっと、独りでいたあの子は。

「ねぇ、リアちゃん」
「…………」
「吾輩の家においで」

ーーーーただの子供なのだ。

「………うん、」

内心ドキドキバクバクしながら差し出した手を、ゆっくりと遠慮するかのように弱々しく握られたときに孫が可愛いと話す奴等の気持ちが分かった気がした。かの魔王のずっとずっと後の孫。孫じゃなくても彼の血筋の子供。もしも彼が生きていたら、デロデロに甘やかして可愛がっていたなと確信して。同時に、自分にも孫がほしいなとサリバンが初めて思った瞬間であった。
これはサリバンがやがて熱望するようになる孫を手に入れる数年前の出来事である。




拝啓、神様。
私はなぜに悪魔として生まれ変わったのでしょうか。
魔王に一番近い存在って周囲から崇められてる事実に気付いた瞬間の絶望が分かるか。今は兎も角前世は一般ピーポーの凡人の感性ぞ。
前世の記憶が戻ったのは指に嵌めている指輪を付けられたとき。おじいちゃんと呼ばなきゃ泣いちゃうと駄々をこねてお互いの妥協の末におじいさまと呼ぶことになったサリバンが指輪を付けた瞬間に一気に前世の記憶が頭の中に入り込んで、混乱のまま手を差し伸べられた手を握ったのが始まりである。それから数年、おじいさまとオペラさんと3人でお屋敷に住んでいる。魔力の制御が全く出来ない私に付き添ってくれた2人には感謝しかない。
指輪をつけるまでの私は次期魔王として君臨する為の存在であると幼いながら自覚してた野心家でる、と周囲の悪魔から思われていた事に目から光が失った。なんと、記憶が戻る前の私も次期魔王だと称えられる世界に滅茶苦茶絶望してました。おじいさまもそう思ってたらしくて謝罪されたよね許す。なお顔には出てないけど耳を立てて驚くオペラさんもとても可愛かったので許す。けど魔王になりたくないと目で訴えてたのに、逆効果というこの仕打ちって酷すぎませんか。いや目で悪魔を石化させられませんが!?というか目を合わせてるよね!?何人か!?魔王になりたくないと目で訴えるアピールを勘違いされるの誠に遺憾なんですけど。というか目を合わせたのに石化する噂消してくれません???人間を食べた??こちとら前世人間だぞ幻ってなんやねん天然記念物かよ。元人間が人間を食べるとか吐き気しかない!!!確かにカニバリズムなんて言葉が存在するし私も軽いものなら小説とかで読んでましたけど自分が食べるのは無理無理無理!!何百何千数え切れないくらいに誘拐に来た悪魔を返り討ちなんてしてな……………いや自信ないな…………ほら一応先代魔王の血筋だからその、ね?失せろというだけで半径1km以内を更地にする魔力量はな…………ありましたね………?過去形だけど。あれは魔力を制御できてないだけどさ!!立てば残忍酷薄、座れば残酷非道、歩けば冷酷無情って何!?!?立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花でしょ!?なんで見た目はこんなにレベル高いのに残虐方面で見られるの!?

生き辛い!!!!!!!!と毛布にくるんで家の外に出ずにぐすぐす泣いてる私をでろっでろに甘やかして赤子のように扱う2人によってだいぶ癒えました。前世の記憶と悪魔である現在のカルチャーショックや今までの己の行動による勘違いへの反省と、何もしたくないと引きこもる日々。数年にも及ぶニート生活。これはやばいと最近自覚して数日後におじいさまが理事長を勤める悪魔学校バビルスに入学する。裏入学じゃないからね。ちゃんと試験受けたからね。ニート生活中にオペラさんが家庭教師もどきをしてくれたのほんとオペラ様々だと思う。満点花丸主席として入学できる事に気付いて思わずオペラさんに抱き着いた。なお同率主席で私ともう一人の主席のどちらかが代表挨拶と決まったが全力でお断りした。やだやだ入学式から目立ちたくない。そんな事よりオペラさんが尻尾をふりふりさせて喜ぶ姿がやっぱり可愛い。猫って正義。理想の執事に見えて結局物理戦法で殴り蹴りに行くところもまた可愛い。流石は私の推し。

ところで、私の容姿は幼女、である。
年齢としては倍はある。おじいさま曰く精神年齢とかその他諸々が育てば多分年相応になるよ!である。多分がついてるあたり怪しい。けれど、幼女の容姿という事もあって甘やかされてる自覚はある。ガタイの良い悪魔にぶつかっても、アイスをぶつけてもうるうると瞳を向けたら仕方ないなと許してくれる世界万歳。むしろ倍に貰っちゃうから幼女はなんて素晴らしいのだろうか。幼女こそこの世の全て。YESロリショタNOタッチ!なんて現実逃避はそろそろ止めような私よ。

バビルスに入学する前におじいさまとオペラさんには伝えている一つの目標。このまま成長すればぶち当たる壁。それは誰よりも次期魔王に相応しいという事実である。魔界の全てを握るとかいうクソ重で責任重大な役職に誰が着きたいと思うのか。魔王が白を黒といえば黒と言ってしまうのが恐ろしい。誰もが疑わずに黒だと認めて行動するとか荷が重すぎる。無理無理私には無理だと心の中で泣き叫んだ。魔王とか恐ろしい。いや先祖(多分)が魔王の私が言える言葉じゃないのは分かってるんですけど、そういう、事ではなくて。と誰かに言い訳しながら、バビルスで私よりも魔王に相応しい存在探しも兼ねて入学する事が決定した。
今のところ存在しないね、というおじいさまの言葉は総無視である。
丸い襟と裾のフリルが印象的で、指が袖に隠れる黒いワンピース。白いタイツで合わせて靴も黒いブーツ。そして浮遊魔法が施され半永久的に空中を飛ぶフリルのついたに黒い傘。所謂ゴスロリ系統の服装を、おじいさまが入学祝いの一つとしてプレゼントしてくれたが、これが制服らしい。精霊主のパイモンさんと似てるなぁと思いながら美少女顔に似合う服装に思わずくるり、とターン。ゴスっ娘美少女パイモンさんと2人で写真撮れば完璧では……???とキラキラした瞳で1人で鏡を見る彼女の動画をこっそり撮られているのは余談である。一瞬おじいさまが制服と別に用意したのでは?と思ったけれど、オペラさんが動揺せずにお似合いですと写真を撮ってたので制服なのは間違い無し。傘でふわふわ飛んでおけば幼女でも背の大きい人と目線が合わせやすいし、最高。可愛い制服を着ていくのを楽しみにしながら数日後に控える入学式を心待ちにしてたとある日。
これがアリアナの運命を変える日であったとも言えるだろう。

「リアちゃん!お兄ちゃん欲しい!?」
「…………欲しいか欲しくないかで言えば」
「んふふ!リアちゃんを孫と言ったら怒られそうだからね、吾輩の孫候補、連れてきちゃった
「……は?」

目の前には明らかに人間が転がっていて、にこにこと笑いながら人間を指差すサリバン。
売却済という紙を何故か貼られ縄に縛られた人間、である。人間………うん、人間は存在するっていう書物に書いてあったし、人間界にちょっと出向くと言ってたし……………………ンン????

「おじいさま」
「はい」
「……誘拐はだめ、だよ?」

指先に魔力を集中させながら、にこりと笑みを作りながらサリバンを見る。誘拐、ダメ、絶対。しかも人の頼みを断ることが出来なそうな弱そうな人間、である。認めたくないが孫欲しさについに犯罪を起こしてしまったのかもしれない、と考えるアリアナは笑みの裏側内心は滅茶苦茶動揺していた。
なお、慌てながら弁解をしてきたサリバンの言い分によって、アリアナも人間こと鈴木入間を家族に迎い入れる事に賛成派になったのは言うまでもない。入間くんなんて悲惨な人生過ごしてるの私がままになる…………と言わんばかりの雰囲気であるが残念ながら見た目は幼女。中身は前世含めてとっくの昔に二十歳は超えてるのは置いといて、幼い体に引きずられ精神も幼くなってる彼女の、
悪魔らしくないちょっぴりお人好しな性格をサリバンもオペラも理解してる。
サリバン作の可愛い絵柄で描かれた鈴木入間の経歴と家族にする利点と、お兄ちゃんが出来るという最大の利点を巧みに語り、サリバンの話術に嵌っていくアリアナを傍観しているオペラは肩を竦めた。が、サリバンが一応家主なのでサリバンの言うことに逆らわないし余計なことを言わないのである。決して、お兄ちゃんだと思われてなかったのかとショックを受けたわけではないのである。感情豊かな耳はそって後ろに倒れており、尻尾はダランと下げていたのは余談である。


現在何が起こってるのか。
簡単に言うとサリバンが入間を口説いてる、孫に。

「お願いだッ!入間くん!!」

今まで流石に悪魔の孫になるのは…と渋っていたのにも関わらず、お願いと言われた瞬間あっさり頷いた入間に彼女はああああああああああああああああと内心叫んでいた。断るに断りきれない典型的な日本人の性格!それに加えて今までの経験による何事も受け入れる癖!!そしてあんな環境で育ったのに関わらず超お人好しな性格!!!アリアナ、入間に肩入れまっしぐらである。物陰に隠れて今にも出ていきそうな彼女を引き留めるのはオペラ。今回ばかりは正念場だから捕まえといてねというサリバンの命令である。一応使用人なので、その命令に逆らえないだけである。決して今まで見たことのなかったあわあわとした表情をたかが人間の境遇とサリバンの行ってる事によって見られたから拗ねてるわけじゃない。
その間にもサリバンから手渡された契約書に名前を書き込んでしまった入間と喜ぶサリバン。アリアナが通う予定のサリバンが理事長を勤める悪魔学校バビルスに入間も入学させちゃう!とノリノリで会話を進めるサリバンは、そうだった、と手を打って人差し指で軽く円を作り、ふわりと隠れてたアリアナを浮遊魔法にて連れてくる。

「そうそうこの子も孫のような存在でね、君の家族になるんだよ。」
「……………はじめまして、私はアリアナ、です」
「えっと………リアちゃん?」
「…リア…?リア、……ふふ、」

滅茶苦茶可愛くない!?その呼び方!?アリアナだからリア!?え、推せるじゃん……私が一生守る…………と心の中で悶え叫び、無表情がステータスの顔の筋肉が僅かに動いて、小さく笑うアリアナ。珍しいその表情に目を丸くするオペラとサリバンには気付かず、アリアナはとても弱くて弱々しくて、それなのに生きる意思は強い人間を、入間をまっすぐ見つめた。

「…これからよろしく、入間」
「宜しくね、リアちゃん」

ーーーーーーこれがアリアナの運命を変えた日。変えた瞬間であったと、ずっと後に彼女は思い出す。









あの日から入学式までの数日で入間くんと仲良くなったアリアナです。私の見た目とステータスの無表情と滲み出る威圧感を一切気にしない入間くん何者だよ。いや自分で言っててかなり悲しいけれど。同学年な筈なのに、見た目が見た目なのでなんか妹のような感じに見られてるのは解せない。年齢的には同じだから合法ロリだと言ったの通じて……いやでも聞いてよ。あの無害な笑顔で妹みたいって言われたら黙るしかなくない???妹欲しかったんだぁ!からの実は学校行くの怖い…と暴露とか守りたくなるでしょ。今まで引き篭もり生活してたから全く力になれないけど。密かに人間界よりも魔界にいた方が入間くん良いのかとか思ってるけど。くそ両親に生まれて育ってあんな良い子に育った入間くんほんと入間くん語彙力低下するわ。いいもん…何処かの銀髪と赤い瞳が特徴的なアイ●ツベルンのお嬢様のように「わたしはお姉ちゃんだもん。 なら、弟を守らなくっちゃ」とかいつか言うもん!!!!機会があればの話だけどさ!!!

そんなこんなで入学式が終わりました。穏便に終わったんじゃないんだけど。入間くん贔屓が激しいおじいさまがいたけど。まあ私も既に入間くん贔屓なんで。心の中で笑顔を浮かべて入間くんの最高過ぎる新入生代表挨拶を見ていたよね。
勿論、それを気に食わない人もいるんだけどまさか入間くんに決闘申し込むとか思わないじゃん。

「ええ……」

中庭に向かっていく入間の後ろ姿を浮遊魔法によってふわふわと浮きながら追い掛けたアリアナの目の前で、突然決闘が始まった。現在進行形で、ある。よりによって相手は、私と同率主席で代表の挨拶をするはずった悪魔―――アスモデウス・アリス。
火球を操り入間に当てようとするアスモデウスとただひたすら避ける入間。アリアナは、入間が大怪我をしないように2人の決闘を見ながら、アスモデウスの攻撃によって破損する瓦礫を深淵の様な深い闇を作り出して消し去る。

「……入間くん、目立ちたくないって言わなかったけ…?」

ポツリと呟いたアリアナを他所に集まった生徒達による盛り上がりは冷めない。
約20分間。アリアナはアスモデウスの攻撃を避け続ける入間によって生み出される器物破損から被害を被ることのないように深い闇を作り出して消し去る。これがアリアナの能力。名付けるならブラックホール。この能力こそ彼女を現在に至るまで守る盾となっている。入間とは別ベクトルの攻撃力0守備力∞。その守備力が圧倒的過ぎて周囲が勝手に怯えているだけなのである。

「これが次期魔王候補のアリアナ…!」
「俺たちを外傷から守ってる…だと」
「あんな幼いのに…」

のちに語られるものは2つと為る。
それはそれは見事なジャーマン・スープレックスを入間がアスモデウスにした出来事。
そして―――――サリバンを含む三傑が認める次期魔王候補として名高いアリアナが決闘による被害を0に収めたという事実。

それを知らずに入学式で禁忌魔法を詠唱しその日の内に主席の頭をかち割るという面白好きな悪魔にとって格好の噂となる運命が待ち構えている入間に対して、アリアナは呆れた目線を向ける。

「……入間」
「あはは………………。医務室に連れてくね…」 
「……医務室は、右行ってすぐの所にある。一人で、だいじょぶ?」
「うん、ありがとう」

決闘がアスモデウスの負けとなった事を見届けた生徒達が散らばり、その場にいるのは入間とアリアナ。少人数しか見ていなかったアスモデウスの攻撃が当たりそうになった女子生徒は友人達に連れられて既にいない。敗者は捨て置く悪魔が殆どの中、律儀に医務室に連れて行こうとするそのお人好しっぷりに思わず頬が緩む。なお表情筋はぴくりとも動かないので心の中で、という言葉を付け加える。
重そうにアスモデウスを背負っていく入間を見届けて、おじいさま――ではなく理事長に会いに行こうとしたアリアナは珍獣とバッチリ目があった。

「あたしクララ!コンちー?違う、キー坊くらいだ!あんね、色々あるの!あそぼ!あっ飴あげる!」
「…ありがとう?」

そこからクララに連れ出されてトゲトゲボールや血みどろ家庭崩壊魔々ごとセットやらで遊ぶ流れになった事にアリアナは疑問符を頭を浮かべている。なぜこんな事に…?と思い出して単純にクララの抱き上げが半端ない安定と安心があってつい連れ出されたのだった。この子は絶対長女だと確信した。
中身はあれだけど見た目は完全なる幼女である私を気に掛けているのかもしれないと思いながら、私以上に楽しんでいるクララと2人血みどろ家庭崩壊魔々ごとを行っていた時。クララを誰かが呼ぶ声が聞こえた。

「おーい、クラりん」
「あっよっちゃん!」
「ジュースとお菓子、人数分くれね?また今度、気が向いたら遊んでやるからさ」
「いいよー」

うへへと笑いながらスカートについたポケットからジュースとお菓子を取り出すクララ。便利なもの扱いに思わず眉を顰めてるアリアナに気付かず、例のよっちゃん達は通り過ぎていった。

「……ねえ」
「なーにー?」
「………それで、いいの?」
「いいの!」

にっとクララは笑ったから、後は何も言わない。時間をふと見たら、時間がだいぶ過ぎていた。そろそろ理事長室に行かないと放送で呼ばれる可能性がある。あの人は絶対やる。慌てて今日は用事があってもう遊べない。また遊ぼう、とクララに伝えるとキョトンと彼女は目を丸くした。

「また遊んでくれるの?」
「クララがじゃなくて、私が遊んでもらうだと思う」

またもやキョトンとしてから、そっかと言う声はほんの少しだけ嬉しそうに聞こえた。そういえばクララは同じ年なのだろうか。聞いてなかったけど、同じ年だと思う。また会える気がもの凄くする。お互いにまた会う日まで、

「友達ができると、いいね」
「トモダチ?」

そう言って立ち去った後。よくよく考えれば私が友達になればよかったのでは????とハッと気付いたけど今更遅い。

その数日後に入間くんから、アスモデウスとクララと友達になったかもしれないと報告されたのは余談である。カチコチに固まった入間くんの初めてかもしれないお友達にその時は微笑ましく思っていたけれど、よくよく考えると私だけ未だに友達できない。
仲良くなれる可能性あったのはというか、今までの噂が1人歩きし過ぎてアリアナに話しかけた人物は現時点でクララ1人である。目が合いそうになると瞬時に逸らされるので心が折れそう。確かに噂だけ見ると滅茶苦茶やべーやつなのはわかるけど。中身はチキンな可愛い幼女ぞ。

私だけがぼっちじゃん……私は悲しい…


デルキアのひが幾つかつく孫であるアリアナ見た目は5歳、中身は多分14歳。
華やかな学園生活を送ろうとしてブチ当たる壁。彼女に友達は出来るのか。それともボッチの学園生活を送ることになるのか。次回に続く!
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