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私はキメツ学園で英語の教師をしている。
キャラが濃いわ、猪が居るわ、匂いや音で感情バレちゃうわ、壊滅レベルで個性的な面々の集まっている学園だ。
そこで働く教員の方々もなかなか個性的である。
「月陽、ぶどうパン食べるか」
「貴方はどれだけぶどうパン食べるんですか。その内紫になりますよ」
「!?」
「えぇ、嘘ですとも。だから信じられないみたいな顔でぶどうパンを見ないであげてください冨岡先生」
無口で理不尽極まりない指導からPTAに目をつけられてる冨岡先生は私に対してだけ饒舌(普段の彼からしたら)に話し掛けてくれる。
新任である私からしたらありがたい事ではあるのだけど何を考えているのか分からない話題ばかりなので最近の扱いは雑だ。
「月陽、お前はまたスカートを履いて。ここは中高一貫であり思春期の男子が群がる謂わば狼の巣窟と言っているのにどうして俺の忠告を聞かない。そんなに襲われたいのなら襲ってやるから実験室に来るといい痴女め」
「伊黒先生あなたは朝からセクハラしないでもらえますか。スカート履いたくらいでどうして痴女扱いを受けなければならないのですかあんたアホですか」
「では欲求不満か」
「学園長、この人セクハラで訴えてもよろしいでしょうか」
生物学の伊黒先生はネチネチと毎朝私のスーツについていつも苦言とセクハラをしてくる。
この人に関してはほんと脳味噌首に巻いてる蛇より小さいんじゃないかってくらい性的な言葉ばかり私に掛けてきた。
セクハラって一体幾らくらい取れるんだろうとそろそろ本格的に調べたい。
「伊黒、セクハラはよくない」
「俺のはセクハラではなく厚意から言っているだけだ。毎日ぶどうパンばかり食いやがってその肌さっさと紫になればいいのだぶどう野郎。俺の月陽にいちいち絡むな」
「お前の月陽じゃない」
「そろそろ朝の会議始まるんで散れゴミ共」
英語の教材を準備して、教師用の手帳を用意した私は軽蔑を含んだ目で冨岡先生と伊黒先生を睨んだ。
おっと教師として口が悪かったかな。
意外と打たれ弱い伊黒先生はしおしおと自分の席に帰ってくれたけど、隣の席の冨岡先生は椅子に座ると相変わらずの真顔で私を見つめてくる。
なんだ。
「…何でしょう」
「悪くない」
「すいません!誰か席を変えてくれませんか!!」
ムフフ、と突然意味の分からない顔をした冨岡先生に狂気を感じて職員室の誰という訳ではないけど、助けを求めた。
勿論誰も助けてくれないまま会議を始められてしまったけど。
もう辞めたいな、この仕事。
「大変そうだな!」
「あぁ、煉獄先生…何なんですかあの二人」
「うーむ…ちょっと変態的な好意を向けられてるだけだ!気にするな」
「全ッ然気に掛けてねぇだろお前」
「よもや!」
会議が終わって生徒の居る教室へ向かおうとすると大きな声で話しかけられた。
煉獄先生はまともな方だと思ってたけどそうでもないらしい事がたった今判明した。
もうどうしようとかこの人に言うのもやめよう、そう思ってため息をついて今度こそ自分の受け持つ教室に入る。
「おはよう」
「おはようございます、月陽先生」
「月陽先生おはようございまーす」
「錆兎君、真菰ちゃんおはよう。あぁ、私の可愛い癒やしの生徒たち…」
私が受け持つのは中等部の子達だ。
冨岡先生や伊黒先生は高等部だから、教室は正反対。
錆兎君や真菰ちゃんを筆頭にとてもいい子達のクラスで、私はこの子達を誇りに思う。
たまに鱗滝さんという用務員の方が覗きに来て涙を流しながら帰るというちょっと不思議な事が起きる時はあるけれど。
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