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「月陽」
「煉獄様!またいらしてくれたのですね!」
「うむ!焼き芋を持ってきた」
「まぁ」
顔を見れるだけで良かった。
お忙しい炎柱の煉獄様だから、生きて居てくれればそれで良かった。
私など、頭の片隅に居させてくれたら。
「む、今日は一段と輝かしいな!」
「煉獄様がいらっしゃると聞いて、少し化粧をしてみました」
「よもや俺の為にめかしこんでくれたと言うわけか」
「…そう、なんです」
「可愛らしいぞ」
頬に触れてくれる、固くて暖かな手が大好きだった。
いつも胸を張り堂々とした煉獄様が、時折囁いてくれる声が大好きだった。
またいつ顔を見せてくださるのか分からないけど、突然に顔を出してくれた時いつもいつも心底胸を撫で下ろしていたのを煉獄様は知っていましたか?
「今日はこれから任務に向かう」
「そうなのですか…」
「心配するな。月陽が悲しむ顔を俺は見たくない」
「…お帰り、お待ちしていますから。どうか落ち着いたらで良いので、必ずまたお顔をお見せ下さい」
「うむ!月陽、帰ってきたら伝えたい事がある。今度共に出掛けないか?」
「っ、はい!心よりお待ちしております!どうか、どうかご無事で…」
「行ってくる!」
約束したではないですか。
約束したのに、どうして。
どうして。
「…っ、う…煉獄、さま…煉獄様!」
「落ち着いてくださいっ!月陽さんっ」
「どうして!どうして貴方がっ」
煉獄家の方に連れられ、私は初めて煉獄様のお家へ招待された。
招かれた一室には蝋燭が一本灯った白い棺がある部屋で。
そこへ眠る煉獄様を見て私は全ての力を失い、膝から棺へもたれ掛かるように崩れ落ちた。
部屋へ案内してくれた千寿郎殿の腕が私の腰を支えるように周してくれたのも、彼の瞳にも大粒の涙が流れていたのも視界に入っていたのにその場で泣き散らした。
ただただ、棺に縋りついて泣き喚いた。
私はただの一般人。
鬼殺隊や鬼殺隊に関わる皆様のように人の死を耐える事など、まして愛する煉獄様の死に耐えられるなど出来なかった。
藤の家の子というだけの私。
煉獄様はそんな私を大切にしてくれた。
知っていた。
私に触れる時、私から触れた時少しだけど手が震えていた事。
以前転びそうになった私を引き寄せてくれた時に少し痛がってしまったから。
「…いや、嫌です!お願い、一人にしないでっ…貴方が居ないこの世界など…私には耐えられません!」
お願いです。
痛くたっていい。
私の手を、どうか握り返して。
貴方の笑顔を見せて。
大きな瞳で私を見て。
大きな声で私の名を呼んで。
「煉獄様っ…!」
私は貴方をどうしようもないくらい、愛しているのです。
だから、どうか。
目を開けて嘘だと言って。
end.
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