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暗い夜空は厚い雲で霞み、雪がしんしんと落ちてくる。
白いはずの道は私の紅に汚され黒く染まる。


「手こずらせやがってェ!!!」


目の前の鬼の瞳には下弦の文字。
私が立ってるのがやっとな状態に対して鬼は先程切り落としたばかりのはずの腕を再生している。

再生された腕はさっきくっついていた物より鋭利な爪を生やしていた。


「お前を喰ってさっき逃したガキも喰ってやる!」

「…そんな、事はさせない」

「もう立ってるのがやっとな脆い人間風情が舐めた口を聞くんじゃねェ!!」


飛びかかる為に足を踏ん張った鬼から目を逸らさず私に打てる最後の型を構えた。
師に教わり、磨いていた途中ではあるが一生の誇りである水の呼吸。

私如きが下弦の鬼を討伐できるなどとそんな奢りなんて最初から無かった。
だからこの鬼に襲われかけていた子どもを見た時すぐに鴉へ保護をするよう仲間に救援を頼んでいる。
ここで私が討ち逃してもこの鬼には必ず滅殺される未来が約束されているんだ。

なんて言ったって、私の尊敬し敬愛する水柱がこちらへ向かっているのだから。

師範の顔が脳裏にちらついて思わず微笑んだ。
ごめんなさい、あなたの誇りを継ぎたいと申し込んだのは私なのに。
呼吸で止血をするのをやめ、最後の一閃に全てを掛ける。


「死ねェェェ!!」

「全集中水の呼吸…漆ノ型・雫波紋突き」


立っているのがやっとな私に鬼の頸は落とせない。
ならば私が出来るのはせめてもの時間稼ぎだ。
軸となる足に力を込めると腹や足、肩から血が噴き出す。でもそんな事に構う余地などない。
私には最期の一滴さえも絞り出して戦う理由があるのだから。

それは鬼殺隊に入った時に覚悟を決めた事。
命果てようと人々の為に鬼を討つ使命を全うする。


飛び上がった鬼へ水の呼吸最速の突きを繰り出す。
顔を吹き飛ばして視界を奪うことを目的としているだけ。
刺し違える形で私は鬼の顔を吹き飛ばし、私は鋭い爪を首付近で受けた。
血が弾けるような音がしたけど、この機会を伺っていたんだ。

突きを繰り出した日輪刀を直ぐに持ち替えて足を固定するように深く深く突き刺してやる。
顔の上半分がなくなった鬼が雄叫びを上げるのをほくそ笑んでやった。

後ろから足音が聞こえる。
もう直ぐだ、大丈夫。あの子は助かった。


「てめェェエ!!」

「お前は…私を喰えないし、あの子を喰うことも出来ない。さっさと、死ね」


空いている手が私の頸を折ろうと伸びてきた瞬間、その鬼の頸が飛んだ。
それと同時に私の体が優しく包まれ引き寄せられた。


「…とみ、おかさ…ん」

「月陽、よく持ち堪えたな」


あぁ、ほら。
師範が来てくれた。
いつも表情の薄い師範の眉がこれでもかと寄っていたけど、貴方のお顔を最期に見れた事が私の何よりの幸せです。

優しい腕に抱かれ、生涯で一番大好きな人に看取られ私は雪の中で散った。
頬に暖かな何かを感じて。




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