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「月陽、おはぎ食いに行くぞォ」

「はい、お供します!」

「お供ってお前…ハッ、俺は桃太郎か何かかよ」


実弥さんはよく怖いだとか、いつも怒ってるとか言われてるけど、私からしてみればよく笑う優しい人だと思う。
玄弥君の事だって何だかんだと心配はしてる。

まぁあの言葉はどうかと思うけれど。


「月陽、また痩せたんじゃねぇかァ」

「そうですか?」

「女はな、少しくらい柔い方がいんだよ」

「とは言え鬼殺隊として働く以上脂肪は邪魔になりますし…」


指先で私のお腹を差した実弥さんは眉を顰めた。
自分のお腹を擦っても、確かに細い方ではあるけれど普通に食べてはいるし太らない訳ではないんだ。

しかし実弥さんに太れと言われるのならもう少し増やすべきかと顎を擦る。


「うーん、どうしたら太れるのでしょう」

「太れんのかァ?」

「実弥さんがそういう子が好みとならば!」

「……お前な」


私は実弥さんを、師範としても男性としても好いている。
それは本人含め鬼殺隊全員周知の事実だ。

運良く風の呼吸を使っていた私は風柱として戦う実弥さんを見て一目惚れした。
そのまま何度も何度もお願いして継子という立場を手に入れたのだ。

でも、継子なんて名ばかりで実弥さんには引退以外で柱を降りてほしくはないから私なんかが継ぐ事なんて出来はしないだろうけれど。


「俺なんかのどこが良いんだ」


甘味処に着いて、おはぎと餡蜜を頼んだ私達は向かい合って座る。
いかに太るかを考えていた私を見ていたらしい実弥さんはなんてことの無いような顔で呟いた。

逆に聞きたい。
何故こんなに素敵な人が居て惚れない。


「実弥さんはカッコイイですし、強いですし、何より優しいです」

「……お前くらいだよ、毎日俺に扱かれて優しいなんていう隊士は」

「私達が死なないよう出来る限りの事を教えてくれてるだけじゃないですか。鬼に扱かれたら死にますが、実弥さんに扱かれるだけなら死にませんし」

「ハッ…お前のそういう所嫌いじゃねぇ」

「えへへ」


私はね、実弥さん。
貴方のその嬉しそうな笑顔が大好きです。
なんて心の中で思う。

流石にこんな所で言う訳にもいかず、実弥さんの笑顔を脳内保存した。
今日も笑顔が素敵だ。


「たくさん頑張った分実弥さんは褒めてくれるし、自分の実力も上がるなんて一石二鳥ですから!」

「じゃあ褒めねぇわ」

「えぇっ!」


何故だろう、今日はとっても実弥さんの機嫌がいい。
いつにも増して私の戯言に付き合ってくれている。

戯言というか本音ではあるのだけど。


「あ、実弥さん。おはぎ来ましたよ」

「おぅ」


店員さんがお皿におはぎを乗せて実弥さんの前に置く。
ここには度々来ているからか、おばさんは私達を見てまた来てくれたのねなんて言ってくれる。


「相変わらず仲良しさんね」

「そう見えるなら幸いです!」

「はぁ…」

「実弥君もそろそろ男になったらいいのに」


ハキハキと答えた私に微笑みかけながら実弥さんに呟く。
男?いや、実弥さんは男ですよ。見てくださいこのさいっこうにえっちな胸板。

前に一度抱き止めて貰った時は流石の私も鼻血を出したくらいだ。


「…ンな事分かってますよ」

「ふふふ」

「えっ?」


どうして実弥さんは突っ込まないのだろう。
何故か当たり前のように会話している二人から置いてけぼりな私は必死に心の中で突っ込みまくった。

炭治郎や伊之助程ではないけれど私は空気が読めないってよく言われるから最近心の中で突っ込むことを覚えたのだ。
偉いだろう。


「はい、月陽ちゃんも餡蜜」

「ありがとうございます!」

「ほんと可愛らしい子ね」

「んふふ。おばちゃんだけですよ、そんな風に言ってくれるのは」

「まぁ。ならちゃんと害虫駆除されてるって事ね?」

「?」

「ぶッ!」

可笑しそうに笑ったおばちゃんは突然咽た実弥さんの方をチラと見るとごゆっくりと言って後ろへ下がった。

害虫駆除って言葉は気になるけど実弥さんは大丈夫だろうか。


「あの、大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。ったく…」


胸を叩いた実弥さんの背中を向かい側から擦ろうと立ち上がると横に首を振られたのでもう一度着席する。


「いただきます!」


拒否られる事はよくあるので気にしない私は無言で頷くと両手を合わせて目の前の餡蜜を頂く。
ここの黒蜜は最高なのだ。


「…月陽」

「はい。餡蜜食べますか?」

「ちげぇよ」

「?」


珍しく私の名前を呼んだので、口に運ぼうとしていた一口目を離して実弥さんへと差し出すとまた首を振られた。
どうしたのだろう。


「お前、俺の継子辞めろォ」

「………はい?」


突然の死刑宣告のような言葉に匙に乗った餡蜜をぼとぼとと零す。
え、どういう事?しかも何でこんなところでそんな事を話し始めるの?
凄く和やかな雰囲気だったよね。

言葉が出ない私はまるで頭を思いっきり殴られたような感覚に手が震える。

目の前の実弥さんは私から目を逸らし、片手で口元を覆っているからどんな顔をしているのか分からない。


「なん、で…」

「言っておくがばぁちゃんに言われたからこんな事言ってる訳じゃねぇからなァ!」

「え?おばちゃん?」


何故かそう怒鳴った実弥さんに私は更に首を傾げた。
どうして継子の話におばちゃんが関わるんだ。
私の頭はちんぷんかんぷんになった。

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