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ここで死ぬんだなって思った。
突然入られた強盗に、家族は殺され私は腹部から有り得ない程の血を流している。

金品を漁って持って行った強盗はもうこの家には居ない。

せめて、家族の側で死にたい。
そう思って、襖を越えた部屋で息絶えている両親の元へ這いずりながらも何とか前に進んだ。

目が霞む。
痛みも感じない。


「もっと、生きたかった…な」


そうしたらきっと、いつかは私も大好きな両親のように誰かを好きになって家族を築けたかも知れないのに。

両親の元まで後少しといったところで、急に目の前に誰かの足が見えた。


「生きたいか」

「…え、?」

「鬼となり、陽の元に出れなくなっても…それでも生きたいか」


凛とした男の人の声が、そう私に問い掛けてくる。
私は死ぬ間際に夢でも見ているのだろうか。

でも、夢でも何でもいい。
もう力も入らない伸ばしたままの手を取ってくれたその人の体温をもっと感じていたい。


「私は…生き、たい」


その言葉を残して、私の視界は暗転した。


「………きろ」

意識が軽く浮上した中に、何故か少しだけ聞き覚えのある声が聞こえる。
なんて言っているのだろうか。

素敵な声の人は、誰なのだろうか。
知りたくて手を伸ばした。


「おい、起きろ!」

「っ、はい!!」


伸ばした手は宙を掴んでいたけれど、耳元で聞こえた怒鳴り声に思わず返事をしながら起き上がれば知らない部屋に私は居た。

これはどういう事なのか。助かったのだろうか。
寝起きでまだ回転の遅い頭を必死に働かせて辺りを見渡せば、美しい顔の美少年と儚げな美女が私を見ている。


「愈史郎、怒鳴ってはいけません」

「はい!珠世様!」

「大丈夫ですか?身体に支障はありませんか」


唖然とする私に美少年を叱咤した女性が心配そうに質問を投げ掛けてくる。
大丈夫ですとその女性へ返事をしようとした瞬間、奥にあった鏡に薄桃色になった髪をした自分が見えた。


「えっ、えぇぇ!?」

「五月蝿いぞ!」

「愈史郎」

「はい!」


思わず叫んでしまった私に美少年が怒りながら頭を叩いて、それを女性が叱るという奇妙な光景が広がってしまった。
まだまだ叫びたかったけれど、これ以上は目の前の私を心配してくれた方に失礼だと胸を抑える。


「ご、ごめんなさい。驚いてしまって…」

「いいんですよ。それで、身体はどうですか?」

「あ、はい。特に…その、髪や瞳以外は何とも」


心配してくれた女性にやっとまともな返事を返せた。
そう、特に見た目の変化以外不調はない。
不調はないのだ。刺されたはずの腹の痛みすらない。


「え?治ってる…?」


独り言ばかりで申し訳ないけれど、なんの痛みも不調もない自分の腹に手を当てた。
どんな触り方をしても痛みは感じない。


「珠世様、この女自分がどうなったか分かってないようです」

「愈史郎、この女だなんて失礼ですよ」

「気をつけます!」

「あの、もしかして私を助けてくれたのは…」

「愈史郎ですよ。あなたは、鬼になりました」


鬼になった、と言われても私は特にピンと来ることもなく唖然とした。
夢だと思っていたあのやり取りは本当だったんだ、そう思って愈史郎さんを見ると不機嫌そうな顔で私を見ている。


「お前が鬼になってでも助けてほしいと言ったんだぞ」

「え、あ…はい。ありがとうございます」

「実質お前を助けたのは珠世様だ。珠世様に礼を言え」

「珠世様…ありがとうございます。本当に、ありがとうございます」


珠世様に深くお辞儀をすると儚げに瞳が細められた。
その後、色々と鬼というものについて教えられたがとりあえず太陽の下に出ては行けないということだけ念を押され与えられた部屋へ一人ぼんやりと考える。


「愈史郎…さん」


綺麗なさらさらした髪に、淡い桃色の瞳。
私の髪を見ると、まるで愈史郎さんの瞳が映ったかのように同じ色をしている。

ぎゅ、と胸の辺りを締め付けるこの感覚を私は知っていた。


「会いたいな…」


そう思ったら身体が勝手に動いて、あまり知らない屋敷を歩いた。
奥へ行けば診察室のような部屋に珠世様と愈史郎さんが居る。

そっと覗いていると、愈史郎さんが私の気配に気が付いてこっちを見てくれた。
目があった瞬間、頬が熱くなる。


「何だ、まだ用があるのか」

「かっ…」

「は?」

「かっこいい!」


凛々しいお顔と態度に思わず私は叫んだ。

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