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初めての印象は最悪だった。


「君、本当にそれで鬼を倒せると思ってるの?」


虚ろな瞳で私にそう言い放った時透さんにそれはそれは憤慨したものだ。
元より女ながらに負けん気が強かった私は誰より稽古をしていたし、柱だろうが年下にコケにされたような気がして凄く嫌だったから。

それでも凡人は凡人。
負けないよう稽古した所で私の実力は後から入った竈門達より劣っていたし、鬼の頸を落とした回数だってやっと二桁に入ったくらいだ。


「こんな所で何やってんの」


日中、皆が見回りを終えて寝静まった頃も私は一人道場で竹刀を振っていた。
そうしたら現れたのだ。
鬼殺隊に入り、柱になるべくして柱になった時透さんが。


「見て分かりませんか、鍛錬です」

「へぇ。俺にはただ自棄糞に竹刀を振っているように見えたけど」

「…才能に恵まれた貴方ならそう思っても仕方ないでしょうね」

「ねぇ、君名前は」


明らかに私が嫌悪感を出していると言うのに、そんな事どこ吹く風と気に求めない時透さんが名前を聞いてきた。
前に一度きちんと名乗ったけど、風の噂で霞柱は記憶をよく無くすと聞いたから振っていた竹刀を置きもう一度名前を名乗る。


「永津月陽です」

「月陽ね、分かった。でも明日には忘れちゃうかもだからごめん」


自分で聞いておいてそんな事言うだなんて嫌味なのだろうかと思う。
一応最強の剣士と呼ばれる一人だからそんな事は言わないけれど。

それからだ、時折さんがよく私に声を掛けてくれるようになったのは。


「あ、今日も居た」

「時透さん」

「えっと、名前なんだっけ…」

「月陽です」

「あ、そうそう」


こんなやり取りを何度しただろうかと数えるのも億劫になってきた頃、時透さんから甘味処へ行かないと誘われた。


「ね、月陽。僕と息抜きしに行こうよ」

「は?」

「甘味処。この前甘露寺さんから美味しい所教わったんだ」


いつも虚ろな瞳が嘘のように嬉しそうで、思わず頷いてしまった。
珍しく今日は名前を覚えていたな、なんて思ったらこれだ。

頷いた私の手を取って、竹刀を所定の位置へ投げると時透さんは早足で外へと進んでいく。


「あ、あの!何で私なんですか」

「月陽と行きたいと思ったからだよ」

「私の名前なんか、今日たまたま覚えていただけでしょう…」


手を引かれながら私がそんな事を言えば時透さんは驚いたような顔で立ち止まった。
何でそんな驚かれなきゃいけないんだ。私のが驚きなんだけど。


「いつも道場に会いに来てたのに、知らなかったの?」

「いや、なんの事ですか」

「ふーん。やっぱり鈍感なんだね、月陽って」


そう言って意地悪く微笑んだ時透さんの表情に、思わずドキリとしてしまう。
いつも道場に会いに来てたのにって、何それ。
そんなの私に会いに来てたみたいな言い方。


「僕なりの照れ隠しだよ」

「て、照れ隠し?」

「初めて会った時から月陽の事を忘れた事なんてない」


その言葉に目を見開けば、掴まれていた手を引き寄せられる。
ぐっと縮まった距離に思わず身体を反らせれば、逃さないと言わんばかりに腰を抱かれた。


「困った人だね。まだ言わないと分からないの?」

「わっ、分からないのって言われたって…」

「月陽、好きだよ」


そんなの知らない、と背丈の変わらない時透さんの胸板を押し返そうとしたら優しく微笑んだ彼は私の頬に口付けた。

余りに唐突な告白と行動によって私の思考は停止。
口付けられた頬を思わず抑えて時透さんを見つめ返せば腕を掴んでいた手を離して、そっと人差し指で私の唇に触れる。


「ね、今度はこっちにしたいんだけどいい?」


数秒後、私はただ無言で頷いた。
そうして触れ合った柔らかい唇に、ズルい人だなんて思いながらもそっと首筋に腕を回す。

何だかんだ時透さんに会って名乗った後雑談をすのが楽しみにもなっていた私は、知らず知らずの内に彼の策に引っかかっていたのかもしれない。

それでもまぁいいかと思うのは、離れた後の彼の幸せそうな顔を見たからだと思う。




おわり。
初!むい君夢!
この子書くのめちゃくちゃ楽しいぞ。小悪魔年下ってそれだけでもいい響きよね()

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