1
鬼殺隊に休みなんか無いけれど、私と義勇さんは鬼狩りを終え隊服のまま寂れた神社に来ていた。
今日は大晦日、明日からは年を新しくした一年がまた始まる。
「あっという間でしたねー」
「そうだな」
いつも通りの私達だけど、やっぱり新年というものは心が踊る。
今年から来年へ跨ぐ瞬間に義勇さんと共に居れるなんて、とても幸せな事だと思う。
手を繋ぎながら、寒さのせいで鼻が真っ赤になったお互いを見て笑いあった。
「ふふ、寒いですね」
「あぁ」
そんな事を言えばそっと腰を引いて抱き寄せてくれる義勇さんにまた笑顔が溢れる。
羽織越しに感じる義勇さんの体温がとても心地良い。
高台にある神社の石造りの椅子に座って、頭を肩に凭れ掛けながら星が輝く夜空を見上げた。
「義勇さんのお屋敷の戸を叩いた頃の私は今こうして寄り添う程の関係になるなんて思ってもみなかったんだろうなぁ」
「…あぁ」
「義勇さんの事、最初凄く怖い人だと思ってましたし」
茶化すように笑ったら心外と言わんばかりに悲しそうな顔をしている義勇さんの頬に口付けた。
大概の事はこれで許してもらえると知っている。
「…俺は、可愛いと思った」
「え!?」
「何だ」
「義勇さんって人の顔にあんまり興味ないかと…」
「俺を何だと思ってるんだ?」
ちょっと不貞腐れたような義勇さんに私自身も驚きながら、出会った時の事を思い出す。
いや、結構呆れた顔してた気がするけど。
「俺だって男だ」
「えぇ、そんなのはここ最近よくよく痛感しておりますとも」
「なら今日も感じておくか?」
「すけべ!義勇さんの助平!!」
耳元で囁かれた低い声にぞくりとしてしまいながら必死に耳を両手で守る。
義勇さんは自分がいい声の持ち主なの知っててこうやってくるから本当にズルい。
それでも、出会った頃に比べて本当に義勇さんの表情や口数が増えたななんて思った。
こうして冗談か本気か分からないけど、軽いおふざけにも付き合ってくれるようになったし。
「義勇さんっ!」
「どうした」
「大好きです!!」
少しでも義勇さんの笑顔を増やすお手伝いが出来たのかな、なんて思ったら嬉しくて思わず抱き着いてすり寄ってしまった。
余り自分から行くなんて、甘えるなんて柄じゃないかもしれないけれどたまにくらいいいよね。
だって、私を見つめる義勇さんも嬉しそうに目を細めてくれているから。
「俺も月陽が好きだ。お前が隣に居てくれるだけで、それでいい」
「身体が離れている時でも、心はずっと義勇さんの側に居ます」
「俺も、いつも想っている」
任務で別々の時だってある。
それでもお互いを想っているなら、きっと心は寄り添ったままだと信じてる。
ふと目が合えば何も言わずに顔が近付き唇が触れ合う。
その瞬間、除夜の鐘が辺りに響き渡った。
「…ふふっ、照れますね」
「そうか」
「義勇さん、今年もよろしくお願いします」
頬がつい緩んでしまいながらも、未だ響き続ける鐘つきの音を聞きながら義勇さんの胸に顔を寄せる。
この命が尽きるその時まで、義勇さんの側にいられますようにと心の中で願いながら。
「こちらこそ、よろしく頼む。これからも、ずっと」
強く抱き寄せてくれる義勇さんの温もりを感じながら、少ない平和な時間を過ごした。
これからがいつまで続くかなんて人間である以上、鬼殺隊に所属する以上誰にも分からない。
それでも心から側に居たいと思う人との時間を大切に歩んでいけたら私はそれでもいいと思ってる。
「これからも、ずっと側に」
もう一度唇を重ねた頃には百八の鐘は鳴り終わっていた。
おわり。
月の子年越し特別編!
少し早いですが、来年も皆様が笑顔あふれる一年になりますように!
来年も月の子を始めとした中編や短編も楽しんで頂けるよう頑張りますのでよろしくお願いします!!
[ 90/126 ]
[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]